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「いや~マジでこれ使いどころわからんな。呪文一つで変身できるでもなし、手間と時間かかりすぎ。個人的には面白いけどこれで世界救える?無理じゃん」
「女神からの贈り物をその様に言うものではありませんよ。女神は意味のないことなどなさいません」
「そうですよ!そんなこと言ったらバチがあたりますよ!」

 ソファに凭れかかってうんと背伸びしながらボヤく言葉に2人は即座に小言を挟んできた。信仰心の厚い世界の人たちの前で言うことじゃなかったと気付いて即座に話を少しズラす。

「それともスキルレベル上がったらもうちょい楽になんのかな」
「ちなみに今のレベルは?」
「2っスね」
「全然じゃないですか」

 タブレットで再確認して答えるとシグルドは呆れた様な声を上げる。
 だって仕方がないだろう。昨日はレベル1だったのだ。今日で一つレベルが上がったんだからむしろ褒めて欲しいくらいのものである。

「王太子殿下は夕方お戻りで、練習の成果を楽しみにしていると仰っていましたよ。スキルアップ頑張りましょうねオークラ様」
「うーんプレッシャーかけおる」

 従僕、アトラ君の明るい笑顔は可愛らしいが発言は全く癒されない。推しであり王太子であるアルフォンスに中途半端な成果を見せるわけにはいかないじゃないか。
 俺は手鏡を手に取り、自分の顔とシグルドの顔を見比べて再び思案に入った。

 何度も言ったが俺の顔は典型的な薄い顔の日本人だから、普通にしていれば西洋人風の顔の彼らとは似ても似つかない。先程の練習を踏まえて今度はどうしていくか考えながら再びアイテムを手に取った。

「それにしても、こうまじまじと見られると落ち着きませんね……」
「ちゃんと見ないと似ないじゃん。動くなとは言わないから諦めてくださーい」

 じっと問題の目元周辺を見つめていれば自然と目が合ってしまう。目的がある俺とは違ってただ見られているだけのシグルドは困ったように視線をウロウロと彷徨わせた。

 顔のパーツ一つ一つが大きなアルフォンスとは違い、シグルドは鼻筋が通って小鼻が小さく、唇が薄くて目は二重幅が狭く切れ長だ。やや細めでスッと真っ直ぐに生える眉毛と目の間隔はアルフォンスよりは広めだろうか。どちらかというと知的で涼しげな印象を受ける顔立ちだった。

「ふむ、今度はこの辺をこう……」

 テーピングとベースメイクを終えるとパーツに個性を付ける作業に取りかかった。

 唇はリップとコンシーラーで本来の唇より薄くする。鼻が高くなるよう鼻に小さな棒状のアイテムを入れて、極細テープを鼻の穴の真下に小鼻が小さくなるよう引っ張って貼った。もちろんシェーディングとハイライトで立体感も作る。
 アイラインを目頭と目尻にオーバーに引いて大きくし、二重テープで二重を作る。上からブラウン系のアイシャドウを重ねて彫りの深さを演出。付けまつ毛を貼り付けるとぐっと目が大きな印象に変わった。
 そして大事な眉は自眉をコンシーラーで潰してペンシルで新しく眉毛を描いた。自眉より下に、少し細めの平行眉で目と眉の間隔を狭める。眉尻にハイライトをちょいちょいと入れるとコントラストで更に彫りが深くなる。

「最後にウィッグを被ってぇーっと、さあどうだ!」
「わ!」
「おお……」

 紫紺のウィッグを被って手鏡を覗き込めば、そこにいたのはシグルドにもの凄く似た男だった。

「よっしゃ!いい感じ!」
「凄い。さっきと全然違います。今のオークラ様、リンドベリ卿にそっくりです!」
「ええ、これは本当に……気持ち悪いくらい似ています」
「ふはは、そうだろうそうだろう。俺もびっくりだ」

 今度こそ上手くできたらしい。俺の顔は『どことなく似ている人』から『そっくりさん』に進化した。ほんの少し微調整しただけだったのだが、劇的な変化である。やっぱり大事だな、眉毛。
 シグルドとアトラ君も驚いたり感心したりしながら俺の顔を興味深く眺めていて、俺は得意げに鼻を鳴らした。
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