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コスプレは俺にとって趣味だ。好きな作品やキャラクターへの愛を表現するための方法の一つだ。趣味だからこそ自分が楽しめることが一番で、趣味だからこそ自分が『これでオッケー!』と言えるレベルに達するまで何度でも試行錯誤を繰り返す。
シチュエーションや構図に拘った写真を撮ることも醍醐味の一つだが、写真のないこの世界でそこは置いておこう。それでも自分が満足する出来に仕上げたい気持ちは変わらないのである。
「あの、オークラ様。まだやるんですか……?」
「当然!ていうかシグルドも見ただろ?全然似てなかったじゃん!あれじゃ100m先から見たって別人だってわかるわ」
若干疲れた顔を見せるシグルドにふんすと鼻を鳴らして俺は言う。何度か試してみたのだが、シグルドコスまだまだ及第点とはいかない出来だった。メイクを落としたばかりの顔に化粧水を塗りながらさっきの反省点を考える。
「やっぱ目と眉毛かなぁ……眉毛ってかなり顔の印象左右するんだよな」
「そうなんですか?」
ぶつくさ言いながら今度は乳液を塗っているとそれを聞いたシグルドが首を傾げる。シグルド君、メイクに眉毛は大事なんだよ。知らんのかね?俺は得意げに眉ペンシルを振って答えた。
「そうよー。太さとか角度とか、ちょっと違うだけで全然違うの。シグルドだって眉整えたりするだろ?やる前と後で顔の雰囲気変わったなって思わん?」
「ふむ……理髪師任せにしていたので気にしたことがありませんでしたね」
「ふうん?まあ気にしない奴は気にしないか」
どうやらシグルドはあまり見目に気を使うタイプではないようだ。最低限身だしなみを整えていればいいと言ったことろだろう。そういう奴でも、無意識に印象の違いは受け取ってるはずなんだがな。
「根の詰めすぎもよくありませんよ。お茶でも飲んで休憩してください」
「ありがと~従僕君」
「アトラですオークラ様!」
ささっとテーブルの空いたところに従僕君がお茶とちょっとしたお菓子を置いてくれる。俺とシグルドはその好意に促され一旦休憩を入れることにした。
このように、今俺はシグルドを監視員兼モデルにしたメタモルフォーゼのスキルレベルアップに取りかかっている。
実際の髪と目の色をウィッグやカラコンの色と見比べて一番近い色の物を選び、顔のパーツの形を食い入るように見つめて観察する。肌のトーンに一番合うファンデーション、立体感を出すために使うシェーディングの色、眉やまつ毛の色に合わせたマスカラを手当たり次第机に広げる。途中、アルフォンス用のメイク道具しか入っていなかったはずのメイクポーチから容量を超える道具がどんどこ出てくることに気付いてまた引いた。ポーチの中から家に置いてあるメイク道具が全部出てきたのだ。
俺の収納、悉く四次元〇ケットになってる……怖。
「先程の顔は割と似ていると思いましたが、確かに殿下の時ほどは似ていませんでしたね。何が違うんでしょう?」
「僕はご兄弟のように見えました。お化粧でそんなことができるなんてビックリです」
「うん、そこまでは寄せられたけど、並べてみると明らかに別人なんだよな。これじゃあまだまだ完璧とは言えませんわ」
結果、シグルドと俺の距離は少し縮まったと思う。というか俺から遠慮が消えた。敬語も敬称も不要と言われて素直にやめてしまったのだ。
客観的な意見に耳を傾けながら従僕君が淹れてくれたお茶を啜る。ちなみにこの若い従僕君は俺専属らしい。俺ってば貴族みたい。
「しかし不思議ですね。確かに化粧を施している姿を見ているのに、筆を滑らせる度それが作り物ではないあなたの素顔になっていく。理解し難いスキルです」
「似てないけどな」
「まあそれは置いておいて」
俺の一言にシグルドが苦笑を浮かべる。
朝食を終えてからずっと観察と実践を続けているのだが、流石に一度や二度ではアルフォンスの時ほどの変化は起きていなかった。
アルフォンスは数年かけて仕上げてきたコスだし、スキルがあってもそう簡単にあの域へは達しないのかもしれない。
そう考えるとこのスキル、実は物凄く面倒で使い勝手が悪いのではないだろうか。
シチュエーションや構図に拘った写真を撮ることも醍醐味の一つだが、写真のないこの世界でそこは置いておこう。それでも自分が満足する出来に仕上げたい気持ちは変わらないのである。
「あの、オークラ様。まだやるんですか……?」
「当然!ていうかシグルドも見ただろ?全然似てなかったじゃん!あれじゃ100m先から見たって別人だってわかるわ」
若干疲れた顔を見せるシグルドにふんすと鼻を鳴らして俺は言う。何度か試してみたのだが、シグルドコスまだまだ及第点とはいかない出来だった。メイクを落としたばかりの顔に化粧水を塗りながらさっきの反省点を考える。
「やっぱ目と眉毛かなぁ……眉毛ってかなり顔の印象左右するんだよな」
「そうなんですか?」
ぶつくさ言いながら今度は乳液を塗っているとそれを聞いたシグルドが首を傾げる。シグルド君、メイクに眉毛は大事なんだよ。知らんのかね?俺は得意げに眉ペンシルを振って答えた。
「そうよー。太さとか角度とか、ちょっと違うだけで全然違うの。シグルドだって眉整えたりするだろ?やる前と後で顔の雰囲気変わったなって思わん?」
「ふむ……理髪師任せにしていたので気にしたことがありませんでしたね」
「ふうん?まあ気にしない奴は気にしないか」
どうやらシグルドはあまり見目に気を使うタイプではないようだ。最低限身だしなみを整えていればいいと言ったことろだろう。そういう奴でも、無意識に印象の違いは受け取ってるはずなんだがな。
「根の詰めすぎもよくありませんよ。お茶でも飲んで休憩してください」
「ありがと~従僕君」
「アトラですオークラ様!」
ささっとテーブルの空いたところに従僕君がお茶とちょっとしたお菓子を置いてくれる。俺とシグルドはその好意に促され一旦休憩を入れることにした。
このように、今俺はシグルドを監視員兼モデルにしたメタモルフォーゼのスキルレベルアップに取りかかっている。
実際の髪と目の色をウィッグやカラコンの色と見比べて一番近い色の物を選び、顔のパーツの形を食い入るように見つめて観察する。肌のトーンに一番合うファンデーション、立体感を出すために使うシェーディングの色、眉やまつ毛の色に合わせたマスカラを手当たり次第机に広げる。途中、アルフォンス用のメイク道具しか入っていなかったはずのメイクポーチから容量を超える道具がどんどこ出てくることに気付いてまた引いた。ポーチの中から家に置いてあるメイク道具が全部出てきたのだ。
俺の収納、悉く四次元〇ケットになってる……怖。
「先程の顔は割と似ていると思いましたが、確かに殿下の時ほどは似ていませんでしたね。何が違うんでしょう?」
「僕はご兄弟のように見えました。お化粧でそんなことができるなんてビックリです」
「うん、そこまでは寄せられたけど、並べてみると明らかに別人なんだよな。これじゃあまだまだ完璧とは言えませんわ」
結果、シグルドと俺の距離は少し縮まったと思う。というか俺から遠慮が消えた。敬語も敬称も不要と言われて素直にやめてしまったのだ。
客観的な意見に耳を傾けながら従僕君が淹れてくれたお茶を啜る。ちなみにこの若い従僕君は俺専属らしい。俺ってば貴族みたい。
「しかし不思議ですね。確かに化粧を施している姿を見ているのに、筆を滑らせる度それが作り物ではないあなたの素顔になっていく。理解し難いスキルです」
「似てないけどな」
「まあそれは置いておいて」
俺の一言にシグルドが苦笑を浮かべる。
朝食を終えてからずっと観察と実践を続けているのだが、流石に一度や二度ではアルフォンスの時ほどの変化は起きていなかった。
アルフォンスは数年かけて仕上げてきたコスだし、スキルがあってもそう簡単にあの域へは達しないのかもしれない。
そう考えるとこのスキル、実は物凄く面倒で使い勝手が悪いのではないだろうか。
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