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 後は自分に与えられたスキルの把握とレベリングが必要かな。本当にメイクで別人になれるのかもう一度試してみないと。
 例えば目の前のシグルドとかどうだろう。アルフォンスとは違うタイプの男前だし、やりがいはありそうだ。そうと決まれば早速顔の造形の観察を……

「それと、不要なトラブルを避けるためスキルの使用は必ず我々の監視下で行ってください」
「え?ダメなんですか?」

 思った傍から釘を刺されて思わず素っ頓狂な声が上がる。そんな俺の反応を見たシグルドは呆れたように溜息を吐いて首を振った。

「いいですか。我々は殿下とあなたを見分けることができなかったんですよ?あなたのそれは他人の空似とは訳が違うんです。不用意にスキルを使用してトラブルに巻き込まれることは十分に考えられます。最初に私があなたを捕縛したこと、忘れた訳じゃないでしょう?」
「ウッ」

 シグルドの淡々とした言葉に昨日のやり取りを思い出して鎖で締め上げられた腕を摩る。痛みも跡も残っていないが、あの時の恐怖心はありありと蘇った。

「あなたのスキルは潜入や身代わり、成り代わり、逃走に有効な能力です。あらぬ誤解を受けないためにも、慎重に行動してください」
「はぁい、わかりましたー」

 残念だが、その懸念は的外れではないだろう。メタモルフォーゼは裏仕事と相性が良い。好き勝手に使ってはならないという主張は当然と言えた。
 俺ももう二度とスパイ扱いされて捕まりたくはないのでその指示に仕方がないと渋々頷いた。

 しかし!ここでコスプレ自体を諦めては先に進めない。ぶっちゃけ途中経過を見られるのは死ぬほど恥ずかしいが監視が必要と言うなら甘んじて受けよう。その代わり、シグルドにも俺のレベリングを手伝ってもらうのだ。
 俺は打って変わって笑顔を作り、にっこりシグルドに笑いかけた。

「でも監視つきならいいんですよね?ならシグルドさんにモデルになってもらって変身の練習するのはアリですよね?よし、そうしよ~っと。いやあ、実物が目の前にあれば再現性も上がるってもんだよな!お願いしますね!」
「は?」

 突然早口になった俺に言われた意味が飲み込めなかったのか、シグルドが眉を顰める。そうか、わからんか。俺は一口お茶を飲んでもう一度同じことを告げた。
 するとシグルドは待て、とでも言うように片手で己の額を押さえつつこちらにもう片手を翳した。

「ちょ、ちょっと待ってください?モデルってもしかして……」
「スキルレベル上げたいんでシグルドさんになる練習します」
「私ですか?!」

 キッパリと言い切った3回目でようやく理解したのか覿面に慌てだすシグルド。その様子は淡々としているいつもの姿に比べると少し幼さを感じさせた。

「メイクの完成度で変身のクオリティも変わるらしいんで、数をこなした方がいざって時に役に立つと思うんですよね。監視してくれていいんでモデルになってくださいよ」
「だからって私じゃなくても……使用人ではいけませんか?」
「そりゃ使用人さんたちでも構いませんけど、まずはシグルドさんで。他の方はその後に協力してもらいます」
「えぇー……」

 かなり嫌そうなシグルドにいやいやと首を横に振る。
 今俺がやりたいのはシグルドだからね。コスプレイヤーは自分がやりたいと思ったキャラをやるものなのだ。実益も兼ねてるんだから嫌とは言わせないぞう。

 そうと決まれば紫紺のロングウィッグと紺碧のカラコンを買わなければ。服は作る暇なさそうだし借りられるかな。あやば、公式衣装着れるかもじゃん。

 いひひ、ちょっと楽しくなってきた!
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