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朝はゆっくり寝かせてもらったが、謁見に神殿にと緊張しっぱなしで疲労感で体が重い。女神とのコンタクトも不発だったし、まだ何も始まっていないうちからこれでは先が思いやられると言うもんだ。
「今日は疲れただろ。もう今日の予定は何もないから、飯食ったら休むといい」
「確かに疲れましたね……でも、こんな状況でも落ち着いていられるのは殿下の計らいのお陰です。本当、ありがとうございます」
わざわざ王太子宮の部屋の前まで送ってくれたアルフォンスにぺこりと頭を下げると、アルフォンスはいやいやと首を振る。そうは言うが実際、シグルドとアルフォンスがいなかったらどうなっていたかわからないのだ。感謝してもし足りない。
「あ、それとな。お前の護衛はシグルドが務めることになったから、何かあったら頼れよ」
「そうなんですか?えっ、いや、いいんですか?騎士の仕事があるんじゃ……」
「近衛騎士は要人を護衛することも任務のうちですから問題ありません。業務の引継ぎも終了しています」
今日一日付かず離れずの位置でずっと立っていたシグルドが朝の挨拶以降閉じられていた口を開いた。なるほど、それでずっと俺の近くにいたのか。
アルフォンスに促され俺たちの後ろにいたシグルドが一歩踏み出して目の前に立つ。そうして真剣味を帯びた紺碧の瞳が俺を見下ろした。
「オークラ様。このシグルド・リンドベリ、身命を賭して御身をお守りいたします」
俺に向かって胸に手を当てて礼をするシグルド。身命を賭して、なんて現代日本では滅多に耳にしない言葉を投げかけられて背筋が伸びる思いがした。
俺にそれほどの価値があるとは全く思えないが、それは言ってはいけない言葉だろう。代わりに俺も深々と頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします。シグルドさん」
「はい、よろしくお願いいたします。本日より任に就かせていただきますので、王太子宮からお出でになる時は必ず私に声をかけてください。お供致します」
「シグルドは騎士としての腕は折り紙付きだし、頭も切れる。頼りになる奴だからどんどんこき使ってやってくれ」
「こき使うなんてそんな。でも、頼りにします」
「光栄です」
ばしばしとシグルドの肩を叩くアルフォンスに苦笑しながら頷く。シグルドは俺に対してはにこやかに微笑んでいたが、肩を叩くアルフォンスには嫌そうな顔をしている。
昨日今日と見ていて思ったが、二人にはどうも主従より気安い空気がある。どういう関係なのか機会があったら訊いてみよう。
「じゃあ、今日のところはこれで。また明日な!」
「あっ、はい!お疲れ様です!」
アルフォンスはまだ政務があるようで、再び王宮へと戻るらしい。王太子としての仕事に俺の世話が追加されたのだからそりゃあ忙しいことだろう。推しの負担になるのは心苦しい。これから先、できる限り面倒を起こさずに過ごそうと俺は心に刻み込んだ。
そのために俺ができることは、この世界の実情と知識を得ることだ。俺が知っているのはあくまでゲームのLoDの世界だからな。
「シグルドさん、この世界やナルグァルド国についてと以前現れた異界人の記録があれば知りたいんですが、教えてもらうことは可能ですか?」
「問題ありません。元々お教えする予定でしたから、教本を用意させています。明日にはお持ちできますよ」
「そうなんですね。助かります」
部屋に入るとすかさず従僕がお茶を淹れてくれる。シグルドにも座るよう促して、温かいお茶を啜りながら今後の段取りを話し合った。
女神が教えてくれないなら自分で調べるしかないのだ。現状を把握すれば自ずとやらなければいけないことも見えてくるだろう。
「今日は疲れただろ。もう今日の予定は何もないから、飯食ったら休むといい」
「確かに疲れましたね……でも、こんな状況でも落ち着いていられるのは殿下の計らいのお陰です。本当、ありがとうございます」
わざわざ王太子宮の部屋の前まで送ってくれたアルフォンスにぺこりと頭を下げると、アルフォンスはいやいやと首を振る。そうは言うが実際、シグルドとアルフォンスがいなかったらどうなっていたかわからないのだ。感謝してもし足りない。
「あ、それとな。お前の護衛はシグルドが務めることになったから、何かあったら頼れよ」
「そうなんですか?えっ、いや、いいんですか?騎士の仕事があるんじゃ……」
「近衛騎士は要人を護衛することも任務のうちですから問題ありません。業務の引継ぎも終了しています」
今日一日付かず離れずの位置でずっと立っていたシグルドが朝の挨拶以降閉じられていた口を開いた。なるほど、それでずっと俺の近くにいたのか。
アルフォンスに促され俺たちの後ろにいたシグルドが一歩踏み出して目の前に立つ。そうして真剣味を帯びた紺碧の瞳が俺を見下ろした。
「オークラ様。このシグルド・リンドベリ、身命を賭して御身をお守りいたします」
俺に向かって胸に手を当てて礼をするシグルド。身命を賭して、なんて現代日本では滅多に耳にしない言葉を投げかけられて背筋が伸びる思いがした。
俺にそれほどの価値があるとは全く思えないが、それは言ってはいけない言葉だろう。代わりに俺も深々と頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします。シグルドさん」
「はい、よろしくお願いいたします。本日より任に就かせていただきますので、王太子宮からお出でになる時は必ず私に声をかけてください。お供致します」
「シグルドは騎士としての腕は折り紙付きだし、頭も切れる。頼りになる奴だからどんどんこき使ってやってくれ」
「こき使うなんてそんな。でも、頼りにします」
「光栄です」
ばしばしとシグルドの肩を叩くアルフォンスに苦笑しながら頷く。シグルドは俺に対してはにこやかに微笑んでいたが、肩を叩くアルフォンスには嫌そうな顔をしている。
昨日今日と見ていて思ったが、二人にはどうも主従より気安い空気がある。どういう関係なのか機会があったら訊いてみよう。
「じゃあ、今日のところはこれで。また明日な!」
「あっ、はい!お疲れ様です!」
アルフォンスはまだ政務があるようで、再び王宮へと戻るらしい。王太子としての仕事に俺の世話が追加されたのだからそりゃあ忙しいことだろう。推しの負担になるのは心苦しい。これから先、できる限り面倒を起こさずに過ごそうと俺は心に刻み込んだ。
そのために俺ができることは、この世界の実情と知識を得ることだ。俺が知っているのはあくまでゲームのLoDの世界だからな。
「シグルドさん、この世界やナルグァルド国についてと以前現れた異界人の記録があれば知りたいんですが、教えてもらうことは可能ですか?」
「問題ありません。元々お教えする予定でしたから、教本を用意させています。明日にはお持ちできますよ」
「そうなんですね。助かります」
部屋に入るとすかさず従僕がお茶を淹れてくれる。シグルドにも座るよう促して、温かいお茶を啜りながら今後の段取りを話し合った。
女神が教えてくれないなら自分で調べるしかないのだ。現状を把握すれば自ずとやらなければいけないことも見えてくるだろう。
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