25 / 37
25
しおりを挟む
朝はゆっくり寝かせてもらったが、謁見に神殿にと緊張しっぱなしで疲労感で体が重い。女神とのコンタクトも不発だったし、まだ何も始まっていないうちからこれでは先が思いやられると言うもんだ。
「今日は疲れただろ。もう今日の予定は何もないから、飯食ったら休むといい」
「確かに疲れましたね……でも、こんな状況でも落ち着いていられるのは殿下の計らいのお陰です。本当、ありがとうございます」
わざわざ王太子宮の部屋の前まで送ってくれたアルフォンスにぺこりと頭を下げると、アルフォンスはいやいやと首を振る。そうは言うが実際、シグルドとアルフォンスがいなかったらどうなっていたかわからないのだ。感謝してもし足りない。
「あ、それとな。お前の護衛はシグルドが務めることになったから、何かあったら頼れよ」
「そうなんですか?えっ、いや、いいんですか?騎士の仕事があるんじゃ……」
「近衛騎士は要人を護衛することも任務のうちですから問題ありません。業務の引継ぎも終了しています」
今日一日付かず離れずの位置でずっと立っていたシグルドが朝の挨拶以降閉じられていた口を開いた。なるほど、それでずっと俺の近くにいたのか。
アルフォンスに促され俺たちの後ろにいたシグルドが一歩踏み出して目の前に立つ。そうして真剣味を帯びた紺碧の瞳が俺を見下ろした。
「オークラ様。このシグルド・リンドベリ、身命を賭して御身をお守りいたします」
俺に向かって胸に手を当てて礼をするシグルド。身命を賭して、なんて現代日本では滅多に耳にしない言葉を投げかけられて背筋が伸びる思いがした。
俺にそれほどの価値があるとは全く思えないが、それは言ってはいけない言葉だろう。代わりに俺も深々と頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします。シグルドさん」
「はい、よろしくお願いいたします。本日より任に就かせていただきますので、王太子宮からお出でになる時は必ず私に声をかけてください。お供致します」
「シグルドは騎士としての腕は折り紙付きだし、頭も切れる。頼りになる奴だからどんどんこき使ってやってくれ」
「こき使うなんてそんな。でも、頼りにします」
「光栄です」
ばしばしとシグルドの肩を叩くアルフォンスに苦笑しながら頷く。シグルドは俺に対してはにこやかに微笑んでいたが、肩を叩くアルフォンスには嫌そうな顔をしている。
昨日今日と見ていて思ったが、二人にはどうも主従より気安い空気がある。どういう関係なのか機会があったら訊いてみよう。
「じゃあ、今日のところはこれで。また明日な!」
「あっ、はい!お疲れ様です!」
アルフォンスはまだ政務があるようで、再び王宮へと戻るらしい。王太子としての仕事に俺の世話が追加されたのだからそりゃあ忙しいことだろう。推しの負担になるのは心苦しい。これから先、できる限り面倒を起こさずに過ごそうと俺は心に刻み込んだ。
そのために俺ができることは、この世界の実情と知識を得ることだ。俺が知っているのはあくまでゲームのLoDの世界だからな。
「シグルドさん、この世界やナルグァルド国についてと以前現れた異界人の記録があれば知りたいんですが、教えてもらうことは可能ですか?」
「問題ありません。元々お教えする予定でしたから、教本を用意させています。明日にはお持ちできますよ」
「そうなんですね。助かります」
部屋に入るとすかさず従僕がお茶を淹れてくれる。シグルドにも座るよう促して、温かいお茶を啜りながら今後の段取りを話し合った。
女神が教えてくれないなら自分で調べるしかないのだ。現状を把握すれば自ずとやらなければいけないことも見えてくるだろう。
「今日は疲れただろ。もう今日の予定は何もないから、飯食ったら休むといい」
「確かに疲れましたね……でも、こんな状況でも落ち着いていられるのは殿下の計らいのお陰です。本当、ありがとうございます」
わざわざ王太子宮の部屋の前まで送ってくれたアルフォンスにぺこりと頭を下げると、アルフォンスはいやいやと首を振る。そうは言うが実際、シグルドとアルフォンスがいなかったらどうなっていたかわからないのだ。感謝してもし足りない。
「あ、それとな。お前の護衛はシグルドが務めることになったから、何かあったら頼れよ」
「そうなんですか?えっ、いや、いいんですか?騎士の仕事があるんじゃ……」
「近衛騎士は要人を護衛することも任務のうちですから問題ありません。業務の引継ぎも終了しています」
今日一日付かず離れずの位置でずっと立っていたシグルドが朝の挨拶以降閉じられていた口を開いた。なるほど、それでずっと俺の近くにいたのか。
アルフォンスに促され俺たちの後ろにいたシグルドが一歩踏み出して目の前に立つ。そうして真剣味を帯びた紺碧の瞳が俺を見下ろした。
「オークラ様。このシグルド・リンドベリ、身命を賭して御身をお守りいたします」
俺に向かって胸に手を当てて礼をするシグルド。身命を賭して、なんて現代日本では滅多に耳にしない言葉を投げかけられて背筋が伸びる思いがした。
俺にそれほどの価値があるとは全く思えないが、それは言ってはいけない言葉だろう。代わりに俺も深々と頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします。シグルドさん」
「はい、よろしくお願いいたします。本日より任に就かせていただきますので、王太子宮からお出でになる時は必ず私に声をかけてください。お供致します」
「シグルドは騎士としての腕は折り紙付きだし、頭も切れる。頼りになる奴だからどんどんこき使ってやってくれ」
「こき使うなんてそんな。でも、頼りにします」
「光栄です」
ばしばしとシグルドの肩を叩くアルフォンスに苦笑しながら頷く。シグルドは俺に対してはにこやかに微笑んでいたが、肩を叩くアルフォンスには嫌そうな顔をしている。
昨日今日と見ていて思ったが、二人にはどうも主従より気安い空気がある。どういう関係なのか機会があったら訊いてみよう。
「じゃあ、今日のところはこれで。また明日な!」
「あっ、はい!お疲れ様です!」
アルフォンスはまだ政務があるようで、再び王宮へと戻るらしい。王太子としての仕事に俺の世話が追加されたのだからそりゃあ忙しいことだろう。推しの負担になるのは心苦しい。これから先、できる限り面倒を起こさずに過ごそうと俺は心に刻み込んだ。
そのために俺ができることは、この世界の実情と知識を得ることだ。俺が知っているのはあくまでゲームのLoDの世界だからな。
「シグルドさん、この世界やナルグァルド国についてと以前現れた異界人の記録があれば知りたいんですが、教えてもらうことは可能ですか?」
「問題ありません。元々お教えする予定でしたから、教本を用意させています。明日にはお持ちできますよ」
「そうなんですね。助かります」
部屋に入るとすかさず従僕がお茶を淹れてくれる。シグルドにも座るよう促して、温かいお茶を啜りながら今後の段取りを話し合った。
女神が教えてくれないなら自分で調べるしかないのだ。現状を把握すれば自ずとやらなければいけないことも見えてくるだろう。
11
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
優しくしなさいと言われたのでそうしただけです。
だいふくじん
BL
1年間平凡に過ごしていたのに2年目からの学園生活がとても濃くなってしまった。
可もなく不可もなく、だが特技や才能がある訳じゃない。
だからこそ人には優しくいようと接してたら、ついでに流されやすくもなっていた。
これは俺が悪いのか...?
悪いようだからそろそろ刺されるかもしれない。
金持ちのお坊ちゃん達が集まる全寮制の男子校で平凡顔男子がモテ始めるお話。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界召喚に巻き込まれましたが、神様の機転で心機一転異世界ライフを満喫します
りまり
BL
腐れ縁の幼馴染二人と交通事故に巻き込まれ気が付いたら真っ白な空間。
「ごめん巻き込んじゃった」
と、土下座をしながら軽く言われてしまった。
迷惑をかけたのでとかなりのチート能力と元のままだと何かと不便だからと新しい顔に体をもらった。
ファンタジーの世界と言っていたので俺は煩わしい二人に邪魔されず異世界ライフを満喫します。
強面な将軍は花嫁を愛でる
小町もなか
BL
異世界転移ファンタジー ※ボーイズラブ小説です
国王である父は悪魔と盟約を交わし、砂漠の国には似つかわしくない白い髪、白い肌、赤い瞳をした異質な末息子ルシャナ王子は、断末魔と共に生贄として短い生涯を終えた。
死んだはずのルシャナが目を覚ましたそこは、ノースフィリアという魔法を使う異世界だった。
伝説の『白き異界人』と言われたのだが、魔力のないルシャナは戸惑うばかりだ。
二度とあちらの世界へ戻れないと知り、将軍マンフリートが世話をしてくれることになった。優しいマンフリートに惹かれていくルシャナ。
だがその思いとは裏腹に、ルシャナの置かれた状況は悪化していった――寿命が減っていくという奇妙な現象が起こり始めたのだ。このままでは命を落としてしまう。
死へのカウントダウンを止める方法はただ一つ。この世界の住人と結婚をすることだった。
マンフリートが立候補してくれたのだが、好きな人に同性結婚を強いるわけにはいかない。
だから拒んだというのに嫌がるルシャナの気持ちを無視してマンフリートは結婚の儀式である体液の交換――つまり強引に抱かれたのだ。
だが儀式が終了すると誰も予想だにしない展開となり……。
鈍感な将軍と内気な王子のピュアなラブストーリー
※すでに同人誌発行済で一冊完結しております。
一巻のみ無料全話配信。
すでに『ムーンライトノベルズ』にて公開済です。
全5巻完結済みの第一巻。カップリングとしては毎巻読み切り。根底の話は5巻で終了です。
反抗期真っ只中のヤンキー中学生君が、トイレのない課外授業でお漏らしするよ
こじらせた処女
BL
3時間目のホームルームが学校外だということを聞いていなかった矢場健。2時間目の数学の延長で休み時間も爆睡をかまし、終わり側担任の斉藤に叩き起こされる形で公園に連れてこられてしまう。トイレに行きたかった(それもかなり)彼は、バックれるフリをして案内板に行き、トイレの場所を探すも、見つからず…?
どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~
黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。
※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。
※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。
森光くんのおっぱい
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
「下手な女子より大きくない?」
そう囁かれていたのは、柔道部・森光の胸だった。
僕はそれが気になりながらも、一度も同じクラスになることなく中学校を卒業し、高校も違う学校に進学。結局、義務教育では彼の胸を手に入れることはできなかった。
しかし大学生になってから彼と意外な接点ができ、意欲が再燃。攻略を神に誓う。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる