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その後は最初の段取り通りにステータスチェックのできる不思議なパネルでステータスの確認をしてもらった。チェックは神殿の中心部である祈りの間で行われ、終わったらハガキサイズのカードを1枚手渡される。これが俺の身分証になるらしい。
カードには名前、年齢、職業、この神殿の名前が記載されている。年齢は生年月日の登録があれば自動更新、それ以外は変更があれば神殿で変更手続きが必要らしい。他にも既往歴や犯罪歴を記載する欄もあり、俺の場合は空欄だ。必要があれば病院や軍の判断で追記する決まりがあると教えられた。
「これは洗礼証明書と呼ばれるものだ。この世界に生まれた者は必ず出生後に洗礼を受けてこの証明書を発行してもらう。以降はこれが本人確認のための証明書になるから無くさないようにな」
「なくした場合はどうなるんですか?」
「洗礼を受けた神殿には亡くなるまで証明書の原本を保管していますから、お近くの神殿に申し出て下されば再発行できますよ。とは言っても再発行までに時間も頂戴しますし、手続きの費用も少しばかりかかりますので無くさないように保管していただくのがベストですね」
「なるほど。わかりました」
神殿は役所のような役割も担っているということかな。アルフォンスとアン=マリーからの説明を聞きながら、俺は引っ越しで役所に住民票とかを取りに行った時のことを思い出した。多分キャリーバッグの中にチケットホルダーがあったはずだし、しばらくは肌身離さず持っておこう。
ひとまずポケットにカードをしまいながら、祈りの間と呼ばれるホールをぐるりと見回す。石造りの壁は重さを感じさせるが、等間隔に窓が配置されているので暗いと言った感じはない。正面の祭壇は特に大きな天窓が設置されていて、天窓から注ぐ陽の光が乳白色の女神の像を優しく照らしていた。
「オークラ様、よろしければ祈りを捧げて行かれますか?無事ここへ辿り着いたことを直接あなた様の口からお伝えすれば女神も喜ばれることでしょう」
アン=マリーはそう促すと礼拝の仕方を教えてくれる。俺は言われるまま祭壇に置かれた女神像の前に膝を突き、像の足元に己の額をそっと当てた。ここでは額づくような姿勢で祈りを捧げることが最上の礼拝方法であるらしく、額を当てた部分は多くの人々が祈りを捧げた証のように削れて窪んでいた。
静かに目を伏せて、一度会っただけの女神の姿を思い浮かべる。
『女神ユーミル、俺はあんたの言葉に応じてこの世界にやってきた。ここから俺はどうすればいい?あんたは俺に何をさせたいんだ?一体俺に何ができる?教えてくれ』
ここなら何か答えてくれるんじゃないかと一縷の望みをかけて懸命に問いかける。しかし呼びかけに応える声は一向に聞こえては来なかった。
「何なんだよ……クソっ」
無視を決め込んだ女神に小さく悪態を吐く。直後にはっとして慌てて後ろを振り返ったが、祭壇の下に立っている二人には届いていないようだ。不思議そうに首を傾げる二人に何でもないと頭を振った。女神に暴言を吐いたなんて知られたら何を言われるかわかったもんじゃないからな。気をつけないと。
正直な話、今のところ女神への好感度と信頼は底辺を下回っている。依頼するなら状況説明と成果目標を明らかにしてもらわないと困る。神様だからってその辺りを蔑ろにされては不信感も募るってものだ。内心ではスキルだけ渡して選択を丸投げしてきた女神に憤りつつ、俺は女神の像に背を向けた。
「是非またいらしてくださいね。お待ちしております」
にこやかに微笑むアン=マリーと多くの修道士に見守られ、用事をすませた俺たちは再び王宮へと戻る。国王との謁見が午後からだったので、今はもう夕方。そろそろ空も赤く染まってくる時間帯だった。
カードには名前、年齢、職業、この神殿の名前が記載されている。年齢は生年月日の登録があれば自動更新、それ以外は変更があれば神殿で変更手続きが必要らしい。他にも既往歴や犯罪歴を記載する欄もあり、俺の場合は空欄だ。必要があれば病院や軍の判断で追記する決まりがあると教えられた。
「これは洗礼証明書と呼ばれるものだ。この世界に生まれた者は必ず出生後に洗礼を受けてこの証明書を発行してもらう。以降はこれが本人確認のための証明書になるから無くさないようにな」
「なくした場合はどうなるんですか?」
「洗礼を受けた神殿には亡くなるまで証明書の原本を保管していますから、お近くの神殿に申し出て下されば再発行できますよ。とは言っても再発行までに時間も頂戴しますし、手続きの費用も少しばかりかかりますので無くさないように保管していただくのがベストですね」
「なるほど。わかりました」
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ひとまずポケットにカードをしまいながら、祈りの間と呼ばれるホールをぐるりと見回す。石造りの壁は重さを感じさせるが、等間隔に窓が配置されているので暗いと言った感じはない。正面の祭壇は特に大きな天窓が設置されていて、天窓から注ぐ陽の光が乳白色の女神の像を優しく照らしていた。
「オークラ様、よろしければ祈りを捧げて行かれますか?無事ここへ辿り着いたことを直接あなた様の口からお伝えすれば女神も喜ばれることでしょう」
アン=マリーはそう促すと礼拝の仕方を教えてくれる。俺は言われるまま祭壇に置かれた女神像の前に膝を突き、像の足元に己の額をそっと当てた。ここでは額づくような姿勢で祈りを捧げることが最上の礼拝方法であるらしく、額を当てた部分は多くの人々が祈りを捧げた証のように削れて窪んでいた。
静かに目を伏せて、一度会っただけの女神の姿を思い浮かべる。
『女神ユーミル、俺はあんたの言葉に応じてこの世界にやってきた。ここから俺はどうすればいい?あんたは俺に何をさせたいんだ?一体俺に何ができる?教えてくれ』
ここなら何か答えてくれるんじゃないかと一縷の望みをかけて懸命に問いかける。しかし呼びかけに応える声は一向に聞こえては来なかった。
「何なんだよ……クソっ」
無視を決め込んだ女神に小さく悪態を吐く。直後にはっとして慌てて後ろを振り返ったが、祭壇の下に立っている二人には届いていないようだ。不思議そうに首を傾げる二人に何でもないと頭を振った。女神に暴言を吐いたなんて知られたら何を言われるかわかったもんじゃないからな。気をつけないと。
正直な話、今のところ女神への好感度と信頼は底辺を下回っている。依頼するなら状況説明と成果目標を明らかにしてもらわないと困る。神様だからってその辺りを蔑ろにされては不信感も募るってものだ。内心ではスキルだけ渡して選択を丸投げしてきた女神に憤りつつ、俺は女神の像に背を向けた。
「是非またいらしてくださいね。お待ちしております」
にこやかに微笑むアン=マリーと多くの修道士に見守られ、用事をすませた俺たちは再び王宮へと戻る。国王との謁見が午後からだったので、今はもう夕方。そろそろ空も赤く染まってくる時間帯だった。
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