24 / 37
24
しおりを挟む
その後は最初の段取り通りにステータスチェックのできる不思議なパネルでステータスの確認をしてもらった。チェックは神殿の中心部である祈りの間で行われ、終わったらハガキサイズのカードを1枚手渡される。これが俺の身分証になるらしい。
カードには名前、年齢、職業、この神殿の名前が記載されている。年齢は生年月日の登録があれば自動更新、それ以外は変更があれば神殿で変更手続きが必要らしい。他にも既往歴や犯罪歴を記載する欄もあり、俺の場合は空欄だ。必要があれば病院や軍の判断で追記する決まりがあると教えられた。
「これは洗礼証明書と呼ばれるものだ。この世界に生まれた者は必ず出生後に洗礼を受けてこの証明書を発行してもらう。以降はこれが本人確認のための証明書になるから無くさないようにな」
「なくした場合はどうなるんですか?」
「洗礼を受けた神殿には亡くなるまで証明書の原本を保管していますから、お近くの神殿に申し出て下されば再発行できますよ。とは言っても再発行までに時間も頂戴しますし、手続きの費用も少しばかりかかりますので無くさないように保管していただくのがベストですね」
「なるほど。わかりました」
神殿は役所のような役割も担っているということかな。アルフォンスとアン=マリーからの説明を聞きながら、俺は引っ越しで役所に住民票とかを取りに行った時のことを思い出した。多分キャリーバッグの中にチケットホルダーがあったはずだし、しばらくは肌身離さず持っておこう。
ひとまずポケットにカードをしまいながら、祈りの間と呼ばれるホールをぐるりと見回す。石造りの壁は重さを感じさせるが、等間隔に窓が配置されているので暗いと言った感じはない。正面の祭壇は特に大きな天窓が設置されていて、天窓から注ぐ陽の光が乳白色の女神の像を優しく照らしていた。
「オークラ様、よろしければ祈りを捧げて行かれますか?無事ここへ辿り着いたことを直接あなた様の口からお伝えすれば女神も喜ばれることでしょう」
アン=マリーはそう促すと礼拝の仕方を教えてくれる。俺は言われるまま祭壇に置かれた女神像の前に膝を突き、像の足元に己の額をそっと当てた。ここでは額づくような姿勢で祈りを捧げることが最上の礼拝方法であるらしく、額を当てた部分は多くの人々が祈りを捧げた証のように削れて窪んでいた。
静かに目を伏せて、一度会っただけの女神の姿を思い浮かべる。
『女神ユーミル、俺はあんたの言葉に応じてこの世界にやってきた。ここから俺はどうすればいい?あんたは俺に何をさせたいんだ?一体俺に何ができる?教えてくれ』
ここなら何か答えてくれるんじゃないかと一縷の望みをかけて懸命に問いかける。しかし呼びかけに応える声は一向に聞こえては来なかった。
「何なんだよ……クソっ」
無視を決め込んだ女神に小さく悪態を吐く。直後にはっとして慌てて後ろを振り返ったが、祭壇の下に立っている二人には届いていないようだ。不思議そうに首を傾げる二人に何でもないと頭を振った。女神に暴言を吐いたなんて知られたら何を言われるかわかったもんじゃないからな。気をつけないと。
正直な話、今のところ女神への好感度と信頼は底辺を下回っている。依頼するなら状況説明と成果目標を明らかにしてもらわないと困る。神様だからってその辺りを蔑ろにされては不信感も募るってものだ。内心ではスキルだけ渡して選択を丸投げしてきた女神に憤りつつ、俺は女神の像に背を向けた。
「是非またいらしてくださいね。お待ちしております」
にこやかに微笑むアン=マリーと多くの修道士に見守られ、用事をすませた俺たちは再び王宮へと戻る。国王との謁見が午後からだったので、今はもう夕方。そろそろ空も赤く染まってくる時間帯だった。
カードには名前、年齢、職業、この神殿の名前が記載されている。年齢は生年月日の登録があれば自動更新、それ以外は変更があれば神殿で変更手続きが必要らしい。他にも既往歴や犯罪歴を記載する欄もあり、俺の場合は空欄だ。必要があれば病院や軍の判断で追記する決まりがあると教えられた。
「これは洗礼証明書と呼ばれるものだ。この世界に生まれた者は必ず出生後に洗礼を受けてこの証明書を発行してもらう。以降はこれが本人確認のための証明書になるから無くさないようにな」
「なくした場合はどうなるんですか?」
「洗礼を受けた神殿には亡くなるまで証明書の原本を保管していますから、お近くの神殿に申し出て下されば再発行できますよ。とは言っても再発行までに時間も頂戴しますし、手続きの費用も少しばかりかかりますので無くさないように保管していただくのがベストですね」
「なるほど。わかりました」
神殿は役所のような役割も担っているということかな。アルフォンスとアン=マリーからの説明を聞きながら、俺は引っ越しで役所に住民票とかを取りに行った時のことを思い出した。多分キャリーバッグの中にチケットホルダーがあったはずだし、しばらくは肌身離さず持っておこう。
ひとまずポケットにカードをしまいながら、祈りの間と呼ばれるホールをぐるりと見回す。石造りの壁は重さを感じさせるが、等間隔に窓が配置されているので暗いと言った感じはない。正面の祭壇は特に大きな天窓が設置されていて、天窓から注ぐ陽の光が乳白色の女神の像を優しく照らしていた。
「オークラ様、よろしければ祈りを捧げて行かれますか?無事ここへ辿り着いたことを直接あなた様の口からお伝えすれば女神も喜ばれることでしょう」
アン=マリーはそう促すと礼拝の仕方を教えてくれる。俺は言われるまま祭壇に置かれた女神像の前に膝を突き、像の足元に己の額をそっと当てた。ここでは額づくような姿勢で祈りを捧げることが最上の礼拝方法であるらしく、額を当てた部分は多くの人々が祈りを捧げた証のように削れて窪んでいた。
静かに目を伏せて、一度会っただけの女神の姿を思い浮かべる。
『女神ユーミル、俺はあんたの言葉に応じてこの世界にやってきた。ここから俺はどうすればいい?あんたは俺に何をさせたいんだ?一体俺に何ができる?教えてくれ』
ここなら何か答えてくれるんじゃないかと一縷の望みをかけて懸命に問いかける。しかし呼びかけに応える声は一向に聞こえては来なかった。
「何なんだよ……クソっ」
無視を決め込んだ女神に小さく悪態を吐く。直後にはっとして慌てて後ろを振り返ったが、祭壇の下に立っている二人には届いていないようだ。不思議そうに首を傾げる二人に何でもないと頭を振った。女神に暴言を吐いたなんて知られたら何を言われるかわかったもんじゃないからな。気をつけないと。
正直な話、今のところ女神への好感度と信頼は底辺を下回っている。依頼するなら状況説明と成果目標を明らかにしてもらわないと困る。神様だからってその辺りを蔑ろにされては不信感も募るってものだ。内心ではスキルだけ渡して選択を丸投げしてきた女神に憤りつつ、俺は女神の像に背を向けた。
「是非またいらしてくださいね。お待ちしております」
にこやかに微笑むアン=マリーと多くの修道士に見守られ、用事をすませた俺たちは再び王宮へと戻る。国王との謁見が午後からだったので、今はもう夕方。そろそろ空も赤く染まってくる時間帯だった。
12
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
強面な将軍は花嫁を愛でる
小町もなか
BL
異世界転移ファンタジー ※ボーイズラブ小説です
国王である父は悪魔と盟約を交わし、砂漠の国には似つかわしくない白い髪、白い肌、赤い瞳をした異質な末息子ルシャナ王子は、断末魔と共に生贄として短い生涯を終えた。
死んだはずのルシャナが目を覚ましたそこは、ノースフィリアという魔法を使う異世界だった。
伝説の『白き異界人』と言われたのだが、魔力のないルシャナは戸惑うばかりだ。
二度とあちらの世界へ戻れないと知り、将軍マンフリートが世話をしてくれることになった。優しいマンフリートに惹かれていくルシャナ。
だがその思いとは裏腹に、ルシャナの置かれた状況は悪化していった――寿命が減っていくという奇妙な現象が起こり始めたのだ。このままでは命を落としてしまう。
死へのカウントダウンを止める方法はただ一つ。この世界の住人と結婚をすることだった。
マンフリートが立候補してくれたのだが、好きな人に同性結婚を強いるわけにはいかない。
だから拒んだというのに嫌がるルシャナの気持ちを無視してマンフリートは結婚の儀式である体液の交換――つまり強引に抱かれたのだ。
だが儀式が終了すると誰も予想だにしない展開となり……。
鈍感な将軍と内気な王子のピュアなラブストーリー
※すでに同人誌発行済で一冊完結しております。
一巻のみ無料全話配信。
すでに『ムーンライトノベルズ』にて公開済です。
全5巻完結済みの第一巻。カップリングとしては毎巻読み切り。根底の話は5巻で終了です。
超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。
篠崎笙
BL
斎藤一は平均的日本人顔、ごく普通の高校生だったが、神の戯れで超絶美形だらけの異世界に送られてしまった。その世界でイチは「カワイイ」存在として扱われてしまう。”夏の国”で保護され、国王から寵愛を受け、想いを通じ合ったが、春、冬、秋の国へと飛ばされ、それぞれの王から寵愛を受けることに……。
※子供は出来ますが、妊娠・出産シーンはありません。自然発生。
※複数の攻めと関係あります。(3Pとかはなく、個別イベント)
※「黒の王とスキーに行く」は最後まではしませんが、ザラーム×アブヤドな話になります。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】ハードな甘とろ調教でイチャラブ洗脳されたいから悪役貴族にはなりたくないが勇者と戦おうと思う
R-13
BL
甘S令息×流され貴族が織りなす
結構ハードなラブコメディ&痛快逆転劇
2度目の人生、異世界転生。
そこは生前自分が読んでいた物語の世界。
しかし自分の配役は悪役令息で?
それでもめげずに真面目に生きて35歳。
せっかく民に慕われる立派な伯爵になったのに。
気付けば自分が侯爵家三男を監禁して洗脳していると思われかねない状況に!
このままじゃ物語通りになってしまう!
早くこいつを家に帰さないと!
しかし彼は帰るどころか屋敷に居着いてしまって。
「シャルル様は僕に虐められることだけ考えてたら良いんだよ?」
帰るどころか毎晩毎晩誘惑してくる三男。
エロ耐性が無さ過ぎて断るどころかどハマりする伯爵。
逆に毎日甘々に調教されてどんどん大好き洗脳されていく。
このままじゃ真面目に生きているのに、悪役貴族として討伐される運命が待っているが、大好きな三男は渡せないから仕方なく勇者と戦おうと思う。
これはそんな流され系主人公が運命と戦う物語。
「アルフィ、ずっとここに居てくれ」
「うん!そんなこと言ってくれると凄く嬉しいけど、出来たら2人きりで言って欲しかったし酒の勢いで言われるのも癪だしそもそも急だし昨日までと言ってること真逆だしそもそもなんでちょっと泣きそうなのかわかんないし手握ってなくても逃げないしてかもう泣いてるし怖いんだけど大丈夫?」
媚薬、緊縛、露出、催眠、時間停止などなど。
徐々に怪しげな薬や、秘密な魔道具、エロいことに特化した魔法なども出てきます。基本的に激しく痛みを伴うプレイはなく、快楽系の甘やかし調教や、羞恥系のプレイがメインです。
全8章128話、11月27日に完結します。
なおエロ描写がある話には♡を付けています。
※ややハードな内容のプレイもございます。誤って見てしまった方は、すぐに1〜2杯の牛乳または水、あるいは生卵を飲んで、かかりつけ医にご相談する前に落ち着いて下さい。
感想やご指摘、叱咤激励、有給休暇等貰えると嬉しいです!ノシ
優しくしなさいと言われたのでそうしただけです。
だいふくじん
BL
1年間平凡に過ごしていたのに2年目からの学園生活がとても濃くなってしまった。
可もなく不可もなく、だが特技や才能がある訳じゃない。
だからこそ人には優しくいようと接してたら、ついでに流されやすくもなっていた。
これは俺が悪いのか...?
悪いようだからそろそろ刺されるかもしれない。
金持ちのお坊ちゃん達が集まる全寮制の男子校で平凡顔男子がモテ始めるお話。
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる