平凡コスプレイヤー、イベント行ったら異世界転移?!特殊スキルで異世界を生き抜きます!

木島

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 まずナルグァルド王国がLoDの世界でどんな窮地に陥るのか。それを一度しっかり振り返ってみようと思う。

 LoDの世界はどの国、どの地域であれドラゴンを畏れ敬いながら生きている。もちろんヨーグランド大陸の海沿いに位置するここナルグァルドでもそれは例外ではない。ドラゴンは女神ユーミルの血統と言われ、生物の最上位種として君臨している。中でも特に知性が高く、他種族ともコミュニケーションの取れる古竜種と呼ばれるドラゴンはユーミルに次ぐ崇拝の対象だ。
 ドラゴンは古龍を筆頭に4つの種族に大別され、呼び方は古龍・大龍・龍・蛇となっている。古龍・大龍は知性が高く膨大なパワーを持っているが、龍・蛇は知性や生態共にモンスターと大きく変わらない。下位2種は問題を起こせば冒険者や騎士たちが討伐に向かうこともある。

 ナルグァルド王国で問題を起こすのは大龍種、邪竜エンプリオ。古龍にも引けを取らない強さと残虐性、凶暴性を持ち、大陸全土を恐怖に陥れた後に5種族の連合軍により討伐されたドラゴン……の卵である。

 ナルグァルド王国内でドラゴンの生態研究を行っている研究所が長年不明だったエンプリオの巣を発見。中で化石化した卵を発見し研究所に持ち帰ったことが物語の始まりである。
 邪竜の卵などという危険極まりないものを見つけたと報告すれば即座に破壊せよと命じられるだろう。研究所は国には『エンプリオの巣を発見したが、特に目立つものは残っていなかった』と報告した。エンプリオのものらしき卵の存在を秘匿し、秘密裏に研究しようとしたのだ。

 彼らは研究を重ね、卵が休眠しているだけであり孵化が可能な状態であることを知る。そうなればマッドなサイエンティストたちが考えることは一つ。

 『孵化させたい』だ。

 だが孵化させて保育するには今の予算では足りない。しかし国に予算の増額を願い出ることはできない。研究所は自身の欲望と懐具合を秤にかけ、国王との折り合いは良くないがドラゴン研究に理解のある王弟殿下に援助を願い出た。
 王弟はこれを兄王の足元を揺るがすチャンスと快く資金援助を引き受けた。
 潤沢な資金を得た研究所は邪竜エンプリオの卵の孵化作業に着手。経過は順調に過ぎていよいよ迫る孵化の時。その時まで彼らは過信していたのだ。長年研究を続けた自分たちなら、生まれたばかりのドラゴンを手懐けることが可能だと。

 それは正解であり不正解であったことに気が付いたのは、悲劇が起きてからだった。

 血に濡れた玉座。
 床に倒れ伏す国王にそれを守るように体を折り重ねた騎士たちの躯。
 耳を劈く金切り声で鳴く黒いドラゴンは自身に刃を向ける騎士たちを追いかけ、強靭な爪で肉を剥ぎ鋭利な牙で骨を砕く。
 想像を絶する痛みに悲鳴を上げる声は絶え間なく、ドラゴンはぎょろりと黄金の瞳をぎらつかせて次の獲物を探している。

 報告を受けて慌てて広間に駆け付けたアルフォンスの目に映ったのは目を背けたくなるような絶望の光景だった。

『あれは……』
『邪竜エンプリオ。私の可愛いドラゴンだ』
『叔父上!』

 血濡れた玉座の側に王弟はいた。生死不明の兄王を助けようとすることなく、ただ笑ってそこに立っている。
 アルフォンスは父に駆け寄ろうとしたが、玉座へ登る階段を境に結界が張られ近づくことができない。アルフォンスは王弟を鋭く睨みつけた。

『このように凶暴性の強いドラゴンを玉座の間に放つなど、あなたは父を殺す気だったのか?!』
『その通りだかわいい甥っ子、王太子アルフォンス。私が王になるには我が兄も、お前も、邪魔だからな』
『なっ……?!』

 人間たちの悲鳴とドラゴンの鳴き声が響く中、静かに笑う王弟は言う。そうしてふいに腕を上げると、心得たようにドラゴンは彼の足元に舞い降りて大人しく座ったではないか。

『馬鹿な……』

 その光景にアルフォンスは目を見開く。
 王弟はドラゴンをエンプリオと言った。もしそれが事実なら、人間の指示に従うはずがない。奴は人間を勝手に動くオモチャ程度にしか思っていない。そんな存在に従うなどプライドが許さないはずだ。

『驚いているなアルフォンス!ははは!お前にはできまい。これは私が選ばれし者の証だ!』

 歓喜の声を上げる王弟に呼応するようにドラゴンも鳴く。二つの重なる声は不協和音を奏で、ぐらりと頭に痛みを覚えるほどだった。

『これはエンプリオの巣で見つけた卵から孵した正真正銘邪竜の子。強き大龍の力を得た私こそ、古き国ナルグァルドの王に相応しい!さあ、真の王に首を垂……れ……よ?』

 血塗れの玉座に腰かけた王弟がそう高らかに宣言したその瞬間、ドラゴンはギラリと金の目を光らせて王弟の喉に噛みついた。

『は……?』

 突然のことに理解が追いつかないのか、唖然とした王弟の喉からびしゃりと血が噴き出す。首の血管が切れて天をつくように噴き上がる血を間近に浴びながら、ドラゴンは目を細めニタリと笑った。

『な……にを……』

『我、この国の王殺した。お前の願い叶えた。報酬にここ、もらう。ここ、我の国。この国の王の名は、エンプリオ!』

 がしりと王弟の頭を掴んでアルフォンスにその体を投げ捨てる。その弾みで王弟の胴から首が外れ、別々の方向へぼとりと落ちた。
 アルフォンスの喉がヒュッと短く音を立てる。

 やはりドラゴンを使役するなど無謀だったのだ。

『くっ……撤退!撤退だ!全ての者に伝令を!王宮を捨てる!』
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