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やっぱりこの世界じゃ魔鉱石に溜まった自然エネルギーが電力の代わりになっているんだな。わかりやすくて助かる。
「ありがとうございます。後は自分でやるので」
「そうですか?また何かありましたらいつでもお声かけください」
無事に浴槽に湯が溜まり始めたのでメイドさんには仕事に戻ってもらって早速風呂の準備を始める。
バスタオルは持ち合わせがないので拝借して、バスグッズはキャリーバッグの中の旅行用を使う。脱いだシャツはところどころ擦れたり破れたりしていて、皮のパンツはよく見ると尻が破れていて独り笑った。死に物狂いで全力疾走したせいだ。
「ウィッグ、外れないかなぁ……めっちゃ地肌なんだよな」
ちょいちょいと毛先を引っ張ると肌が引っ張られる感触がある。それでも物は試しと頭に手をかけ、ウィッグを外すように髪の毛を生え際からめくり上げようとした。
ら、それは予想外にもずるりと動いて当然のように外れたのである。
「え」
俺の手には金髪のウィッグが当然のように納まり、頭に触れるとウィッグネットの感触がした。ネットをはぎ取った後にはらりと落ちてくる髪の色は黒だ。
「ウィッグ外れた?!何で?!」
滅茶苦茶地毛の感覚だったのに外れた!わけがわからない!だがこの状況に活路を見い出した俺はメイク落としを引っ掴み、それはもう丹念に顔を洗った。
これはアルフォンスのメイク。洗えば落ちる、洗えば落ちる。
そう心で念じながらオイルクレンジングの後にもこもこの泡で洗顔し、頭からお湯を被って急いで風呂場を飛び出した。そして洗面台に設置された鏡を鷲掴みにする勢いで掴んで見た光景は。
「お、お、俺の顔ぉぉぉぉ!!!」
そう、この顔!この凹凸の浅い平たい顔に切れ長の一重!可もなく不可もない誰の知り合いにも一人はいそうな平凡な顔立ち!これが!俺の顔です!
「よかった……顔、元に戻った……よかった」
ぺたぺたと顔を触りまくって心の底から安堵の息を吐く。知らない世界に飛ばされて、姿形まで変わってしまったと思っていた俺にはこの変化は救いだった。最後の違和感であるコンタクトも触ってみたら普通に外せた。現れたのは少し茶味がかった黒い目。
これで俺は完全にいつもの大倉健一だ。自信を持って言える。
あまりの嬉しさに目に涙を滲ませながら服に袖を通していると、忙しなく浴室の扉を叩く音と焦ったような声が耳に飛び込んできた。
「オークラ様、如何なさいました?叫び声か聞こえましたがご無事でございますか?!」
「えっ?マルクスさん?」
どうやらさっきの雄叫びで何かあったと心配になったらしい。俺は慌てて服を着て、濡れた髪もそのままに浴室の扉を開けた。
「すみませんマルクスさん!ちょっと驚いて大きな声が出てしまって……」
「オ、オークラ様?」
「はい?」
出てきた俺を見てマルクスさんは目を見開いて固まっている。その上疑問符付きで名前を呼ばれ、首を傾げて返事を返した。
「本当にオークラ様でございますか?その、お姿が……」
「あ」
そうだった。さっきまでと今の姿は見るからに別人だ。このままではまた不審者に逆戻りしてしまう。
胡乱な目つきでこちらを見てくるマルクスさんにどう説明したものかと視線を泳がせるが、そもそも俺自身なんでこうなったのかわからない。日本人にありがちな誤魔化し笑いで微笑みかけるとぐっと眉間に皺が寄った。
残念逆効果でした。
「ありがとうございます。後は自分でやるので」
「そうですか?また何かありましたらいつでもお声かけください」
無事に浴槽に湯が溜まり始めたのでメイドさんには仕事に戻ってもらって早速風呂の準備を始める。
バスタオルは持ち合わせがないので拝借して、バスグッズはキャリーバッグの中の旅行用を使う。脱いだシャツはところどころ擦れたり破れたりしていて、皮のパンツはよく見ると尻が破れていて独り笑った。死に物狂いで全力疾走したせいだ。
「ウィッグ、外れないかなぁ……めっちゃ地肌なんだよな」
ちょいちょいと毛先を引っ張ると肌が引っ張られる感触がある。それでも物は試しと頭に手をかけ、ウィッグを外すように髪の毛を生え際からめくり上げようとした。
ら、それは予想外にもずるりと動いて当然のように外れたのである。
「え」
俺の手には金髪のウィッグが当然のように納まり、頭に触れるとウィッグネットの感触がした。ネットをはぎ取った後にはらりと落ちてくる髪の色は黒だ。
「ウィッグ外れた?!何で?!」
滅茶苦茶地毛の感覚だったのに外れた!わけがわからない!だがこの状況に活路を見い出した俺はメイク落としを引っ掴み、それはもう丹念に顔を洗った。
これはアルフォンスのメイク。洗えば落ちる、洗えば落ちる。
そう心で念じながらオイルクレンジングの後にもこもこの泡で洗顔し、頭からお湯を被って急いで風呂場を飛び出した。そして洗面台に設置された鏡を鷲掴みにする勢いで掴んで見た光景は。
「お、お、俺の顔ぉぉぉぉ!!!」
そう、この顔!この凹凸の浅い平たい顔に切れ長の一重!可もなく不可もない誰の知り合いにも一人はいそうな平凡な顔立ち!これが!俺の顔です!
「よかった……顔、元に戻った……よかった」
ぺたぺたと顔を触りまくって心の底から安堵の息を吐く。知らない世界に飛ばされて、姿形まで変わってしまったと思っていた俺にはこの変化は救いだった。最後の違和感であるコンタクトも触ってみたら普通に外せた。現れたのは少し茶味がかった黒い目。
これで俺は完全にいつもの大倉健一だ。自信を持って言える。
あまりの嬉しさに目に涙を滲ませながら服に袖を通していると、忙しなく浴室の扉を叩く音と焦ったような声が耳に飛び込んできた。
「オークラ様、如何なさいました?叫び声か聞こえましたがご無事でございますか?!」
「えっ?マルクスさん?」
どうやらさっきの雄叫びで何かあったと心配になったらしい。俺は慌てて服を着て、濡れた髪もそのままに浴室の扉を開けた。
「すみませんマルクスさん!ちょっと驚いて大きな声が出てしまって……」
「オ、オークラ様?」
「はい?」
出てきた俺を見てマルクスさんは目を見開いて固まっている。その上疑問符付きで名前を呼ばれ、首を傾げて返事を返した。
「本当にオークラ様でございますか?その、お姿が……」
「あ」
そうだった。さっきまでと今の姿は見るからに別人だ。このままではまた不審者に逆戻りしてしまう。
胡乱な目つきでこちらを見てくるマルクスさんにどう説明したものかと視線を泳がせるが、そもそも俺自身なんでこうなったのかわからない。日本人にありがちな誤魔化し笑いで微笑みかけるとぐっと眉間に皺が寄った。
残念逆効果でした。
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