16 / 37
16
しおりを挟む
やっぱりこの世界じゃ魔鉱石に溜まった自然エネルギーが電力の代わりになっているんだな。わかりやすくて助かる。
「ありがとうございます。後は自分でやるので」
「そうですか?また何かありましたらいつでもお声かけください」
無事に浴槽に湯が溜まり始めたのでメイドさんには仕事に戻ってもらって早速風呂の準備を始める。
バスタオルは持ち合わせがないので拝借して、バスグッズはキャリーバッグの中の旅行用を使う。脱いだシャツはところどころ擦れたり破れたりしていて、皮のパンツはよく見ると尻が破れていて独り笑った。死に物狂いで全力疾走したせいだ。
「ウィッグ、外れないかなぁ……めっちゃ地肌なんだよな」
ちょいちょいと毛先を引っ張ると肌が引っ張られる感触がある。それでも物は試しと頭に手をかけ、ウィッグを外すように髪の毛を生え際からめくり上げようとした。
ら、それは予想外にもずるりと動いて当然のように外れたのである。
「え」
俺の手には金髪のウィッグが当然のように納まり、頭に触れるとウィッグネットの感触がした。ネットをはぎ取った後にはらりと落ちてくる髪の色は黒だ。
「ウィッグ外れた?!何で?!」
滅茶苦茶地毛の感覚だったのに外れた!わけがわからない!だがこの状況に活路を見い出した俺はメイク落としを引っ掴み、それはもう丹念に顔を洗った。
これはアルフォンスのメイク。洗えば落ちる、洗えば落ちる。
そう心で念じながらオイルクレンジングの後にもこもこの泡で洗顔し、頭からお湯を被って急いで風呂場を飛び出した。そして洗面台に設置された鏡を鷲掴みにする勢いで掴んで見た光景は。
「お、お、俺の顔ぉぉぉぉ!!!」
そう、この顔!この凹凸の浅い平たい顔に切れ長の一重!可もなく不可もない誰の知り合いにも一人はいそうな平凡な顔立ち!これが!俺の顔です!
「よかった……顔、元に戻った……よかった」
ぺたぺたと顔を触りまくって心の底から安堵の息を吐く。知らない世界に飛ばされて、姿形まで変わってしまったと思っていた俺にはこの変化は救いだった。最後の違和感であるコンタクトも触ってみたら普通に外せた。現れたのは少し茶味がかった黒い目。
これで俺は完全にいつもの大倉健一だ。自信を持って言える。
あまりの嬉しさに目に涙を滲ませながら服に袖を通していると、忙しなく浴室の扉を叩く音と焦ったような声が耳に飛び込んできた。
「オークラ様、如何なさいました?叫び声か聞こえましたがご無事でございますか?!」
「えっ?マルクスさん?」
どうやらさっきの雄叫びで何かあったと心配になったらしい。俺は慌てて服を着て、濡れた髪もそのままに浴室の扉を開けた。
「すみませんマルクスさん!ちょっと驚いて大きな声が出てしまって……」
「オ、オークラ様?」
「はい?」
出てきた俺を見てマルクスさんは目を見開いて固まっている。その上疑問符付きで名前を呼ばれ、首を傾げて返事を返した。
「本当にオークラ様でございますか?その、お姿が……」
「あ」
そうだった。さっきまでと今の姿は見るからに別人だ。このままではまた不審者に逆戻りしてしまう。
胡乱な目つきでこちらを見てくるマルクスさんにどう説明したものかと視線を泳がせるが、そもそも俺自身なんでこうなったのかわからない。日本人にありがちな誤魔化し笑いで微笑みかけるとぐっと眉間に皺が寄った。
残念逆効果でした。
「ありがとうございます。後は自分でやるので」
「そうですか?また何かありましたらいつでもお声かけください」
無事に浴槽に湯が溜まり始めたのでメイドさんには仕事に戻ってもらって早速風呂の準備を始める。
バスタオルは持ち合わせがないので拝借して、バスグッズはキャリーバッグの中の旅行用を使う。脱いだシャツはところどころ擦れたり破れたりしていて、皮のパンツはよく見ると尻が破れていて独り笑った。死に物狂いで全力疾走したせいだ。
「ウィッグ、外れないかなぁ……めっちゃ地肌なんだよな」
ちょいちょいと毛先を引っ張ると肌が引っ張られる感触がある。それでも物は試しと頭に手をかけ、ウィッグを外すように髪の毛を生え際からめくり上げようとした。
ら、それは予想外にもずるりと動いて当然のように外れたのである。
「え」
俺の手には金髪のウィッグが当然のように納まり、頭に触れるとウィッグネットの感触がした。ネットをはぎ取った後にはらりと落ちてくる髪の色は黒だ。
「ウィッグ外れた?!何で?!」
滅茶苦茶地毛の感覚だったのに外れた!わけがわからない!だがこの状況に活路を見い出した俺はメイク落としを引っ掴み、それはもう丹念に顔を洗った。
これはアルフォンスのメイク。洗えば落ちる、洗えば落ちる。
そう心で念じながらオイルクレンジングの後にもこもこの泡で洗顔し、頭からお湯を被って急いで風呂場を飛び出した。そして洗面台に設置された鏡を鷲掴みにする勢いで掴んで見た光景は。
「お、お、俺の顔ぉぉぉぉ!!!」
そう、この顔!この凹凸の浅い平たい顔に切れ長の一重!可もなく不可もない誰の知り合いにも一人はいそうな平凡な顔立ち!これが!俺の顔です!
「よかった……顔、元に戻った……よかった」
ぺたぺたと顔を触りまくって心の底から安堵の息を吐く。知らない世界に飛ばされて、姿形まで変わってしまったと思っていた俺にはこの変化は救いだった。最後の違和感であるコンタクトも触ってみたら普通に外せた。現れたのは少し茶味がかった黒い目。
これで俺は完全にいつもの大倉健一だ。自信を持って言える。
あまりの嬉しさに目に涙を滲ませながら服に袖を通していると、忙しなく浴室の扉を叩く音と焦ったような声が耳に飛び込んできた。
「オークラ様、如何なさいました?叫び声か聞こえましたがご無事でございますか?!」
「えっ?マルクスさん?」
どうやらさっきの雄叫びで何かあったと心配になったらしい。俺は慌てて服を着て、濡れた髪もそのままに浴室の扉を開けた。
「すみませんマルクスさん!ちょっと驚いて大きな声が出てしまって……」
「オ、オークラ様?」
「はい?」
出てきた俺を見てマルクスさんは目を見開いて固まっている。その上疑問符付きで名前を呼ばれ、首を傾げて返事を返した。
「本当にオークラ様でございますか?その、お姿が……」
「あ」
そうだった。さっきまでと今の姿は見るからに別人だ。このままではまた不審者に逆戻りしてしまう。
胡乱な目つきでこちらを見てくるマルクスさんにどう説明したものかと視線を泳がせるが、そもそも俺自身なんでこうなったのかわからない。日本人にありがちな誤魔化し笑いで微笑みかけるとぐっと眉間に皺が寄った。
残念逆効果でした。
12
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界召喚に巻き込まれましたが、神様の機転で心機一転異世界ライフを満喫します
りまり
BL
腐れ縁の幼馴染二人と交通事故に巻き込まれ気が付いたら真っ白な空間。
「ごめん巻き込んじゃった」
と、土下座をしながら軽く言われてしまった。
迷惑をかけたのでとかなりのチート能力と元のままだと何かと不便だからと新しい顔に体をもらった。
ファンタジーの世界と言っていたので俺は煩わしい二人に邪魔されず異世界ライフを満喫します。
優しくしなさいと言われたのでそうしただけです。
だいふくじん
BL
1年間平凡に過ごしていたのに2年目からの学園生活がとても濃くなってしまった。
可もなく不可もなく、だが特技や才能がある訳じゃない。
だからこそ人には優しくいようと接してたら、ついでに流されやすくもなっていた。
これは俺が悪いのか...?
悪いようだからそろそろ刺されるかもしれない。
金持ちのお坊ちゃん達が集まる全寮制の男子校で平凡顔男子がモテ始めるお話。
強面な将軍は花嫁を愛でる
小町もなか
BL
異世界転移ファンタジー ※ボーイズラブ小説です
国王である父は悪魔と盟約を交わし、砂漠の国には似つかわしくない白い髪、白い肌、赤い瞳をした異質な末息子ルシャナ王子は、断末魔と共に生贄として短い生涯を終えた。
死んだはずのルシャナが目を覚ましたそこは、ノースフィリアという魔法を使う異世界だった。
伝説の『白き異界人』と言われたのだが、魔力のないルシャナは戸惑うばかりだ。
二度とあちらの世界へ戻れないと知り、将軍マンフリートが世話をしてくれることになった。優しいマンフリートに惹かれていくルシャナ。
だがその思いとは裏腹に、ルシャナの置かれた状況は悪化していった――寿命が減っていくという奇妙な現象が起こり始めたのだ。このままでは命を落としてしまう。
死へのカウントダウンを止める方法はただ一つ。この世界の住人と結婚をすることだった。
マンフリートが立候補してくれたのだが、好きな人に同性結婚を強いるわけにはいかない。
だから拒んだというのに嫌がるルシャナの気持ちを無視してマンフリートは結婚の儀式である体液の交換――つまり強引に抱かれたのだ。
だが儀式が終了すると誰も予想だにしない展開となり……。
鈍感な将軍と内気な王子のピュアなラブストーリー
※すでに同人誌発行済で一冊完結しております。
一巻のみ無料全話配信。
すでに『ムーンライトノベルズ』にて公開済です。
全5巻完結済みの第一巻。カップリングとしては毎巻読み切り。根底の話は5巻で終了です。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
孤独な蝶は仮面を被る
緋影 ナヅキ
BL
とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。
全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。
さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。
彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。
あの日、例の不思議な転入生が来るまでは…
ーーーーーーーーー
作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。
学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。
所々シリアス&コメディ(?)風味有り
*表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい
*多少内容を修正しました。2023/07/05
*お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25
*エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。
篠崎笙
BL
斎藤一は平均的日本人顔、ごく普通の高校生だったが、神の戯れで超絶美形だらけの異世界に送られてしまった。その世界でイチは「カワイイ」存在として扱われてしまう。”夏の国”で保護され、国王から寵愛を受け、想いを通じ合ったが、春、冬、秋の国へと飛ばされ、それぞれの王から寵愛を受けることに……。
※子供は出来ますが、妊娠・出産シーンはありません。自然発生。
※複数の攻めと関係あります。(3Pとかはなく、個別イベント)
※「黒の王とスキーに行く」は最後まではしませんが、ザラーム×アブヤドな話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる