平凡コスプレイヤー、イベント行ったら異世界転移?!特殊スキルで異世界を生き抜きます!

木島

文字の大きさ
上 下
10 / 37

10

しおりを挟む
「創世神ユーミルの似姿をした女が、世界を救う助けをせよと……」
「まさか本当に女神に呼ばれて……?」

 俺の拙い説明を聞いた二人の様子が徐々に変わっていく。俺に対する憐憫から困惑へ、そして今は真剣な表情で顔を見合わせているのだ。

「あなたの話がすべて真実であるなら、あなたは我々とは異なる世界から女神によって連れてこられたということになりますね」

 女神ユーミルの名が出たことでシグルドの中にも何か変化があったのだろう。言葉遣いが穏やかなものに戻り、紺碧の瞳から敵意は消えていた。
 LoDでは真実の証言を女神に誓う。虚偽の証言に女神の名を騙れば必ず彼女の怒りをかい、その身は破滅すると伝えられているからだ。彼の生真面目な性格を鑑みるに自ら女神の名を出して偽りを語る人間はいないはずだ、と考えているに違いない。

「俺のいた世界にナルグァルドという国はありませんでした。モンスターもいないし、さっきの光る鎖みたいな魔法?もありません。ピンクの髪の女の人が原因かどうかはわからないですが、違う世界に来たとしか思えないんです」
「モンスターも魔法もない世界か……ではドラゴンはどうだ?」
「ドラゴンもいません。空想上の生き物として御伽噺に出てくることはありますが……」
「ほう?空想とはいえ存在は知られていると。全く共通点がないわけではないようですね」

 今いるこの世界そのものが俺が遊んでいたゲームの世界にそっくりだとは……言わない方がいいだろうな。何もわからないうちは迂闊なことは言えない。お口チャックだ。

「ならお前の顔が俺にそっくりなことも、女神の差配によるものかもしれんな。女神が意味のないことをするとは思えない。世界を救うため、お前に与えられたものだろう」
「えっ?」

 アルフォンスが納得したように頷いている。彼の『世界を救うために異なる世界から来た』という大それた話を肯定するような態度に俺は驚いた。慌てて彼の後ろに立つシグルドを見るが、そちらも反論はないようだ。

「信じるんですか?俺が、世界を救うために女神に連れてこられたって」
「まあ、前例がないわけではないからな」
「は?!」

 アルフォンスが言うには。
 『女神ユーミルの姿をした女性に導かれ異界から人間が現れた』という現象は過去に他国で確認されているらしい。俺同様に世界を救ってほしいと乞われて訪れた異界人はその国の人々と協力し合い、稀なる力を発揮してその国の危機を乗り越えたという。
 世界的に知られ、記録に残っているのは2件。100年ほど前にオーレリアン共和国、30年ほど前にヤカ国。どちらもドラゴン由来の大災害の可能性があり、放っておけば一国が焦土と化し、世界中に影響を与えただろうと言われている。
 俺はその国名を聞いて驚愕した。何故ならLoDの1章はオーレリアン共和国、2章はヤカ国が舞台となっているからだ。

 俺がいるこのナルグァルド王国は第3章の舞台。これを偶然と片付けることは難しい。やはりここはゲームの世界で、あのストーリーの通りナルグァルド王国にも危険が迫っているのだろうか。
 そしてそれを止めるために、冒険者役として俺がこの世界に放り込まれた。

 いやそんなことってある?

「女神の導きであるならば、お前は救国の御使いだ。これから先の生活の保証は俺が責任を持とう。安心してくれ」
「お、王太子がですか?」
「ああ!この国で最も強い後ろ盾だぞ。心強いだろ」
「そりゃまぁ、そうですけど……いいんですか?」
「当然のことだ」

 ふっと王子らしい整った笑みを浮かべるアルフォンス。あまりにも眩しい。かっこよすぎる。
 それにしても女神効果は絶大だった。俺が女神ユーミルによって遣わされたとわかった途端、不法入国のスパイから女神の御使いにランクアップだ。シグルドからは非礼を謝罪され、放置されていた怪我を丁寧に治療された。そのうえ今後の住処も与えてもらえるらしい。監獄ルートを回避できたのはいいけど落差が激しすぎる。

「ひとまず王宮に部屋を用意しよう。まずは安全な場所でこの世界と我が国のことを学んでもらわないとな」
「は?!王宮に住む?いやそんな、無理ですよ!もっと庶民が暮らすようなところで十分です!」

 王宮なんて雲の上の人たちが暮らすところだ。アルフォンスだけじゃなく王様や王妃様もいて、それに漫画の中でしか見たことのないメイドさんとか執事とかそういうのがいるんだろ?!
 そんなところに俺が住むなんて、さしずめ一般人がヴェルサイユ宮殿に住むようなもの。そんなことできないと慌てて首を振れば呆れた顔のシグルドにあっさりと否定されてしまった。

「イビルボアにボロボロにされるような人間が平民街に住めるとは思えませんね。そういうことはせめて常識と身を守る術を身に着けてから言ってください」
「平民街で生きるには最低でも低級モンスターから無事に逃げる腕くらいはないと生きていけないぞ」
「ハイ……わかりました……」

 ゲームじゃボタン一つで攻撃できたけど、現実じゃそうはいかないもんな。逃げることもままならないのに普通に生きていけるわけないか。俺は現地住民のありがたいお言葉に従って王宮へと向かうことになったのだった。

 女神さまも顔面を推しの顔に変えるなんて謎チートじゃなくて、武器や魔法をガンガン使えるチートを授けてくれたらよかったのになぁー。俺はゲームと推しへの愛をコスプレで表現してるだけで、推しになりたいわけじゃないのだ。

 そんなことを考えているうちに駐屯地の馬車に乗せられた俺は王宮へドナドナされ、出会う人全てに顔面を二度見されながら仮の住処となる場所へと案内されたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...