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「創世神ユーミルの似姿をした女が、世界を救う助けをせよと……」
「まさか本当に女神に呼ばれて……?」
俺の拙い説明を聞いた二人の様子が徐々に変わっていく。俺に対する憐憫から困惑へ、そして今は真剣な表情で顔を見合わせているのだ。
「あなたの話がすべて真実であるなら、あなたは我々とは異なる世界から女神によって連れてこられたということになりますね」
女神ユーミルの名が出たことでシグルドの中にも何か変化があったのだろう。言葉遣いが穏やかなものに戻り、紺碧の瞳から敵意は消えていた。
LoDでは真実の証言を女神に誓う。虚偽の証言に女神の名を騙れば必ず彼女の怒りをかい、その身は破滅すると伝えられているからだ。彼の生真面目な性格を鑑みるに自ら女神の名を出して偽りを語る人間はいないはずだ、と考えているに違いない。
「俺のいた世界にナルグァルドという国はありませんでした。モンスターもいないし、さっきの光る鎖みたいな魔法?もありません。ピンクの髪の女の人が原因かどうかはわからないですが、違う世界に来たとしか思えないんです」
「モンスターも魔法もない世界か……ではドラゴンはどうだ?」
「ドラゴンもいません。空想上の生き物として御伽噺に出てくることはありますが……」
「ほう?空想とはいえ存在は知られていると。全く共通点がないわけではないようですね」
今いるこの世界そのものが俺が遊んでいたゲームの世界にそっくりだとは……言わない方がいいだろうな。何もわからないうちは迂闊なことは言えない。お口チャックだ。
「ならお前の顔が俺にそっくりなことも、女神の差配によるものかもしれんな。女神が意味のないことをするとは思えない。世界を救うため、お前に与えられたものだろう」
「えっ?」
アルフォンスが納得したように頷いている。彼の『世界を救うために異なる世界から来た』という大それた話を肯定するような態度に俺は驚いた。慌てて彼の後ろに立つシグルドを見るが、そちらも反論はないようだ。
「信じるんですか?俺が、世界を救うために女神に連れてこられたって」
「まあ、前例がないわけではないからな」
「は?!」
アルフォンスが言うには。
『女神ユーミルの姿をした女性に導かれ異界から人間が現れた』という現象は過去に他国で確認されているらしい。俺同様に世界を救ってほしいと乞われて訪れた異界人はその国の人々と協力し合い、稀なる力を発揮してその国の危機を乗り越えたという。
世界的に知られ、記録に残っているのは2件。100年ほど前にオーレリアン共和国、30年ほど前にヤカ国。どちらもドラゴン由来の大災害の可能性があり、放っておけば一国が焦土と化し、世界中に影響を与えただろうと言われている。
俺はその国名を聞いて驚愕した。何故ならLoDの1章はオーレリアン共和国、2章はヤカ国が舞台となっているからだ。
俺がいるこのナルグァルド王国は第3章の舞台。これを偶然と片付けることは難しい。やはりここはゲームの世界で、あのストーリーの通りナルグァルド王国にも危険が迫っているのだろうか。
そしてそれを止めるために、冒険者役として俺がこの世界に放り込まれた。
いやそんなことってある?
「女神の導きであるならば、お前は救国の御使いだ。これから先の生活の保証は俺が責任を持とう。安心してくれ」
「お、王太子がですか?」
「ああ!この国で最も強い後ろ盾だぞ。心強いだろ」
「そりゃまぁ、そうですけど……いいんですか?」
「当然のことだ」
ふっと王子らしい整った笑みを浮かべるアルフォンス。あまりにも眩しい。かっこよすぎる。
それにしても女神効果は絶大だった。俺が女神ユーミルによって遣わされたとわかった途端、不法入国のスパイから女神の御使いにランクアップだ。シグルドからは非礼を謝罪され、放置されていた怪我を丁寧に治療された。そのうえ今後の住処も与えてもらえるらしい。監獄ルートを回避できたのはいいけど落差が激しすぎる。
「ひとまず王宮に部屋を用意しよう。まずは安全な場所でこの世界と我が国のことを学んでもらわないとな」
「は?!王宮に住む?いやそんな、無理ですよ!もっと庶民が暮らすようなところで十分です!」
王宮なんて雲の上の人たちが暮らすところだ。アルフォンスだけじゃなく王様や王妃様もいて、それに漫画の中でしか見たことのないメイドさんとか執事とかそういうのがいるんだろ?!
そんなところに俺が住むなんて、さしずめ一般人がヴェルサイユ宮殿に住むようなもの。そんなことできないと慌てて首を振れば呆れた顔のシグルドにあっさりと否定されてしまった。
「イビルボアにボロボロにされるような人間が平民街に住めるとは思えませんね。そういうことはせめて常識と身を守る術を身に着けてから言ってください」
「平民街で生きるには最低でも低級モンスターから無事に逃げる腕くらいはないと生きていけないぞ」
「ハイ……わかりました……」
ゲームじゃボタン一つで攻撃できたけど、現実じゃそうはいかないもんな。逃げることもままならないのに普通に生きていけるわけないか。俺は現地住民のありがたいお言葉に従って王宮へと向かうことになったのだった。
女神さまも顔面を推しの顔に変えるなんて謎チートじゃなくて、武器や魔法をガンガン使えるチートを授けてくれたらよかったのになぁー。俺はゲームと推しへの愛をコスプレで表現してるだけで、推しになりたいわけじゃないのだ。
そんなことを考えているうちに駐屯地の馬車に乗せられた俺は王宮へドナドナされ、出会う人全てに顔面を二度見されながら仮の住処となる場所へと案内されたのだった。
「まさか本当に女神に呼ばれて……?」
俺の拙い説明を聞いた二人の様子が徐々に変わっていく。俺に対する憐憫から困惑へ、そして今は真剣な表情で顔を見合わせているのだ。
「あなたの話がすべて真実であるなら、あなたは我々とは異なる世界から女神によって連れてこられたということになりますね」
女神ユーミルの名が出たことでシグルドの中にも何か変化があったのだろう。言葉遣いが穏やかなものに戻り、紺碧の瞳から敵意は消えていた。
LoDでは真実の証言を女神に誓う。虚偽の証言に女神の名を騙れば必ず彼女の怒りをかい、その身は破滅すると伝えられているからだ。彼の生真面目な性格を鑑みるに自ら女神の名を出して偽りを語る人間はいないはずだ、と考えているに違いない。
「俺のいた世界にナルグァルドという国はありませんでした。モンスターもいないし、さっきの光る鎖みたいな魔法?もありません。ピンクの髪の女の人が原因かどうかはわからないですが、違う世界に来たとしか思えないんです」
「モンスターも魔法もない世界か……ではドラゴンはどうだ?」
「ドラゴンもいません。空想上の生き物として御伽噺に出てくることはありますが……」
「ほう?空想とはいえ存在は知られていると。全く共通点がないわけではないようですね」
今いるこの世界そのものが俺が遊んでいたゲームの世界にそっくりだとは……言わない方がいいだろうな。何もわからないうちは迂闊なことは言えない。お口チャックだ。
「ならお前の顔が俺にそっくりなことも、女神の差配によるものかもしれんな。女神が意味のないことをするとは思えない。世界を救うため、お前に与えられたものだろう」
「えっ?」
アルフォンスが納得したように頷いている。彼の『世界を救うために異なる世界から来た』という大それた話を肯定するような態度に俺は驚いた。慌てて彼の後ろに立つシグルドを見るが、そちらも反論はないようだ。
「信じるんですか?俺が、世界を救うために女神に連れてこられたって」
「まあ、前例がないわけではないからな」
「は?!」
アルフォンスが言うには。
『女神ユーミルの姿をした女性に導かれ異界から人間が現れた』という現象は過去に他国で確認されているらしい。俺同様に世界を救ってほしいと乞われて訪れた異界人はその国の人々と協力し合い、稀なる力を発揮してその国の危機を乗り越えたという。
世界的に知られ、記録に残っているのは2件。100年ほど前にオーレリアン共和国、30年ほど前にヤカ国。どちらもドラゴン由来の大災害の可能性があり、放っておけば一国が焦土と化し、世界中に影響を与えただろうと言われている。
俺はその国名を聞いて驚愕した。何故ならLoDの1章はオーレリアン共和国、2章はヤカ国が舞台となっているからだ。
俺がいるこのナルグァルド王国は第3章の舞台。これを偶然と片付けることは難しい。やはりここはゲームの世界で、あのストーリーの通りナルグァルド王国にも危険が迫っているのだろうか。
そしてそれを止めるために、冒険者役として俺がこの世界に放り込まれた。
いやそんなことってある?
「女神の導きであるならば、お前は救国の御使いだ。これから先の生活の保証は俺が責任を持とう。安心してくれ」
「お、王太子がですか?」
「ああ!この国で最も強い後ろ盾だぞ。心強いだろ」
「そりゃまぁ、そうですけど……いいんですか?」
「当然のことだ」
ふっと王子らしい整った笑みを浮かべるアルフォンス。あまりにも眩しい。かっこよすぎる。
それにしても女神効果は絶大だった。俺が女神ユーミルによって遣わされたとわかった途端、不法入国のスパイから女神の御使いにランクアップだ。シグルドからは非礼を謝罪され、放置されていた怪我を丁寧に治療された。そのうえ今後の住処も与えてもらえるらしい。監獄ルートを回避できたのはいいけど落差が激しすぎる。
「ひとまず王宮に部屋を用意しよう。まずは安全な場所でこの世界と我が国のことを学んでもらわないとな」
「は?!王宮に住む?いやそんな、無理ですよ!もっと庶民が暮らすようなところで十分です!」
王宮なんて雲の上の人たちが暮らすところだ。アルフォンスだけじゃなく王様や王妃様もいて、それに漫画の中でしか見たことのないメイドさんとか執事とかそういうのがいるんだろ?!
そんなところに俺が住むなんて、さしずめ一般人がヴェルサイユ宮殿に住むようなもの。そんなことできないと慌てて首を振れば呆れた顔のシグルドにあっさりと否定されてしまった。
「イビルボアにボロボロにされるような人間が平民街に住めるとは思えませんね。そういうことはせめて常識と身を守る術を身に着けてから言ってください」
「平民街で生きるには最低でも低級モンスターから無事に逃げる腕くらいはないと生きていけないぞ」
「ハイ……わかりました……」
ゲームじゃボタン一つで攻撃できたけど、現実じゃそうはいかないもんな。逃げることもままならないのに普通に生きていけるわけないか。俺は現地住民のありがたいお言葉に従って王宮へと向かうことになったのだった。
女神さまも顔面を推しの顔に変えるなんて謎チートじゃなくて、武器や魔法をガンガン使えるチートを授けてくれたらよかったのになぁー。俺はゲームと推しへの愛をコスプレで表現してるだけで、推しになりたいわけじゃないのだ。
そんなことを考えているうちに駐屯地の馬車に乗せられた俺は王宮へドナドナされ、出会う人全てに顔面を二度見されながら仮の住処となる場所へと案内されたのだった。
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