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 手足に鎖が食い込み、胸も腹も圧迫されて苦しい。これが拘束と言うなら、両手を繋がれていた鎖なんて犬の散歩に使うリードみたいなもんだったんだな。

「さあ、お前の目的と首謀者の名を答えろ。内容次第では温情を与えることも考えてやろう」

 痛みに呻く俺に冷水のように冷たい声が浴びせられる。完全に勘違いされた。この状態から首謀者も目的もないと言って信じてもらえるだろうか。いや、無理だろう。それくらいは俺でもわかる。
 サポートNPCのシグルドは生真面目で王家に忠誠を誓うキャラクターだった。この男もそうなら王家に仇なすと思われる人間をこのまま生きて返しはしないだろう。その場しのぎの嘘を吐いたところでバレたら今より酷い目に合うかもしれない。詰んだ。完全に詰んだ。

 さらば我が人生。30年か、短かったぜ……

「目的は、ありません。これは俺が王太子に憧れていて、王太子のモノマネをしているだけです……」
「最初はここがどこかも知らないと言った癖によくもそんなことが言えたものだ。馬鹿にしているのか」

 ですよねぇ、知ってた。
 さっきからシグルドの全身から怒りとか苛立ちとかのオーラが撒き散らかされている気がする。でもここは俺がやってたゲームの世界にそっくりなんです、とか言えるかよ。頭のおかしい奴だと思われるだけじゃん。

「いや、まあそれには色々と事情がありまして……」
「その事情とやらを包み隠さず話せと言っているんだ」

 いつの間にか口調も変わり、足を組んで高圧的な態度を取るシグルド。拘束する光の鎖はゆっくりと体に食い込んできていて、俺は痛みに呻いた。
 痛い痛い!こんなことされたら喋れるもんも喋れんわ!口開いたら痛いしか出ませんよこれ!

「答えないと言うのなら、少々手荒い手段を用いることになるが……」

 涙目で呻いている俺の耳にそう恐ろしい言葉が届いた丁度その時、閉め切られた扉を叩く音が部屋に響いた。
 天の助けか、拘束が少し緩んで俺はほっと息を吐く。

「何かありましたか」
「リンドベリ卿、職務中に申し訳ありません。アルフォンス殿下がお越しです」
「殿下が?」

 驚いたシグルドが慌てて立ち上がり扉の方へ向かう。一度俺を睨みつけてからその扉を開き、廊下にいるであろう兵士と会話をしている。
 兵士はアルフォンスが来たと言った。そういえばアイツ、最初アルフォンスを探していたようなことを言ってたな。不審者を見つけてそれどころじゃなくなったみたいだけど。

 この状況、吉と出るか凶と出るか。ゲームのアルフォンスなら俺に興味を持つだろう。もしかしたらこの危機的状況から抜け出せるかもしれない。俺は廊下から聞こえる声に聞き耳を立てた。

「御用があるならこちらから出向きますといつも言っているでしょう」
「いやあ、さっき兵士の話を小耳に挟んでさ。面白そうだから俺にも会わせてよ、俺のそっくりさん」
「無理です。奴の目的と身元がはっきりしないうちは会わせられません」
「硬いこと言うなって」

 よし!興味持ってるっぽい!ゲームのアルフォンス同様ここのアルフォンスも好奇心旺盛なタイプのようだ。扉の前で俺に会わせろとゴネている。
 俺の推し、是非一度ご尊顔を拝見させてください!そんでもって俺を絶体絶命の状況から救ってください!

 などと他力本願に祈っていると、廊下の外で話していた声が足音と共に徐々に部屋の方へ近づいてくる。どうやらシグルドが折れたようだ。

「丸腰のようですが、何をしてくるかわかりません。あまり近づかないように。それと、念のため殿下にシールドを張ります」
「はいはい、わかったよ。さて入るぞー。俺のそっくりさん!」

 そう言って姿を現したのは俺の推し、アルフォンス・ラーゲルブラードその人だった。
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