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促されるまま椅子に腰を下ろし、テーブルを挟んだ向かいに男が座った。その眼光は鋭く、一欠片の見落とさないという意思を感じる。
そろそろ尋問開始だろうか。俺は緊張に身を強張らせた。
「まず、私の名はシグルド・リンドベリ。ナルグァルド王国近衛騎士団所属の騎士です。あなたは今不法入国の疑いとスパイ容疑がかかっています。今から私が質問することに嘘偽りなく答えてください。返答次第では解放、投獄、どちらの可能性もあることを心得ておくように」
「と、投獄?!」
「無実を証明できなければそうなる可能性もあります」
男改めシグルドは淡々とした調子で恐ろしいことを言う。投獄って、完全に犯罪者じゃないか!俺何もしてないのにそんな展開嫌すぎる!
助けてお巡りさーん!って多分お巡りさんこいつだわ、詰んだ。
名前を聞いて思い出した。この顔、メインストーリーのサポートキャラにいた生真面目インテリ騎士だ。
「オークラケニーチ。あなたはニホンからここまでどのようにして訪れたか覚えていないと言いましたね?それは真実ですか」
俺が青ざめていることなど気付いているだろうに、シグルドが意に介した様子はない。さっさと質問に答えろとシグルドの視線が語っている。
俺は初めから真実しか口にしていないが、疑う気持ちもよくわかる。信じてもらえるかはわからないが俺はシグルドの問いにもう少し経緯を詳細に答えた。投獄は嫌だからね!
「は、はい。俺は今日休日で、共通の趣味の人たちが集まるイベントに参加するために家から少し離れた街に出ていました。イベントの会場に着いて、いざ入場しようと入口を通ったら……次の瞬間にはあの森に」
と言っても詳細に答えてこの程度。何もわからないに等しい。シグルドは自信なさそうに話す俺の顔をじっと見ている。そして考え込むように口元に手を当てた。
何か似たような事例を知っていたら俺の疑いも晴れるかもしれない。彼が何か思いだしやしないかと俺もシグルドを固唾を呑んで見つめた。
「入口が森に繋がっていたと?転移の魔法陣でも敷かれていたということか……?」
「魔法陣?」
「ではそのゲートを通ってきた他の者もいたのでは?」
俺の疑問には答えてくれないらしい。俺は仕方なくここに来た時のことを振り返った。
「いいえ、気付いた限りでは俺一人でした。ていうか、他にも人がいたならあんなところで独りになったりしません」
まともな武器も持っていない、ハリボテの甲冑を着込んだだけの姿でモンスターのいる森に独りぼっち。そんな状況に自主的になるわけがない。例えそいつが見知らぬ誰かだとしても同じ日本から来たなら仲間だと思って行動を共にしたことだろう。
「それもそうですね。では次の質問ですが、あなたは我が国の王太子の顔を知っていますか?」
「王太子の顔?」
そう問われて首を捻る。
王太子の顔。ナルグァルド王国の王太子の顔なんて、そりゃあ知っているに決まっている。なんたって俺が今日コスプレしているのはその王太子で……王太子で……?
「あ」
「あ?」
「ああああ?!そういうこと?!」
俺が王太子アルフォンスのコスプレをしてるから勘違いしたってことか!俺は強烈なアハ体験に尋問されていることも忘れて大絶叫を上げる。
これで最初に殿下と呼ばれたことも今スパイ容疑がかけられている原因もわかった。LoD3章のヒーロー、ナルグァルド王国の王太子アルフォンス・ラーゲルブラード。俺の推しでありここ数年研究に研究を重ねてコスプレしてきたキャラクターだ。一番得意なキャラと言ってもいい。
なるほど、そういうことだったのか。
「お、俺のコスプレが完璧だったばっかりに……」
顔をぎゅっと顰めて拳を握りしめる。確かに今日の顔面は会心の出来だった。現在それが仇となっているわけだが、それでも本物と見間違えたなんてかなり嬉しい。あの平凡塩顔を目鼻立ちくっきり西洋人風顔にメイクで激変させられていたとは。
ふふふ、自分の才能が怖いぜ。
「何か……思うことがあるようですね」
「ヒェッ」
思いもよらぬところで己の技術の高さを実感して感動している俺。その姿にシグルドは氷のように凍てついた声音と刺すような視線を向けてきた。これが殺気と言うものだろうか。イビルボアと対峙した時のような恐怖感が俺の全身を支配する。
シグルドの質問にはまだ答えていないが態度で丸わかりだろう。俺が王太子アルフォンスを知っていて、ついでに完璧に何かを成したと口走った。あいつの中で俺の危険度は格段に上がってしまったはずだ。
「全て話しなさい。どこの誰に命じられてこの国へ訪れたか。王太子に酷似した姿で一体何をしようとしていたのか」
「うわっ!わっ、なっ?!いだだだだ!」
解放されたはずの光る鎖が再び姿を現し俺の体を拘束する。今度は手だけでなく椅子に体を縛り付けたうえにギチギチに締め上げてきてあまりの痛みに叫び声をあげたが、シグルドの視線が和らぐことはなかった。
そろそろ尋問開始だろうか。俺は緊張に身を強張らせた。
「まず、私の名はシグルド・リンドベリ。ナルグァルド王国近衛騎士団所属の騎士です。あなたは今不法入国の疑いとスパイ容疑がかかっています。今から私が質問することに嘘偽りなく答えてください。返答次第では解放、投獄、どちらの可能性もあることを心得ておくように」
「と、投獄?!」
「無実を証明できなければそうなる可能性もあります」
男改めシグルドは淡々とした調子で恐ろしいことを言う。投獄って、完全に犯罪者じゃないか!俺何もしてないのにそんな展開嫌すぎる!
助けてお巡りさーん!って多分お巡りさんこいつだわ、詰んだ。
名前を聞いて思い出した。この顔、メインストーリーのサポートキャラにいた生真面目インテリ騎士だ。
「オークラケニーチ。あなたはニホンからここまでどのようにして訪れたか覚えていないと言いましたね?それは真実ですか」
俺が青ざめていることなど気付いているだろうに、シグルドが意に介した様子はない。さっさと質問に答えろとシグルドの視線が語っている。
俺は初めから真実しか口にしていないが、疑う気持ちもよくわかる。信じてもらえるかはわからないが俺はシグルドの問いにもう少し経緯を詳細に答えた。投獄は嫌だからね!
「は、はい。俺は今日休日で、共通の趣味の人たちが集まるイベントに参加するために家から少し離れた街に出ていました。イベントの会場に着いて、いざ入場しようと入口を通ったら……次の瞬間にはあの森に」
と言っても詳細に答えてこの程度。何もわからないに等しい。シグルドは自信なさそうに話す俺の顔をじっと見ている。そして考え込むように口元に手を当てた。
何か似たような事例を知っていたら俺の疑いも晴れるかもしれない。彼が何か思いだしやしないかと俺もシグルドを固唾を呑んで見つめた。
「入口が森に繋がっていたと?転移の魔法陣でも敷かれていたということか……?」
「魔法陣?」
「ではそのゲートを通ってきた他の者もいたのでは?」
俺の疑問には答えてくれないらしい。俺は仕方なくここに来た時のことを振り返った。
「いいえ、気付いた限りでは俺一人でした。ていうか、他にも人がいたならあんなところで独りになったりしません」
まともな武器も持っていない、ハリボテの甲冑を着込んだだけの姿でモンスターのいる森に独りぼっち。そんな状況に自主的になるわけがない。例えそいつが見知らぬ誰かだとしても同じ日本から来たなら仲間だと思って行動を共にしたことだろう。
「それもそうですね。では次の質問ですが、あなたは我が国の王太子の顔を知っていますか?」
「王太子の顔?」
そう問われて首を捻る。
王太子の顔。ナルグァルド王国の王太子の顔なんて、そりゃあ知っているに決まっている。なんたって俺が今日コスプレしているのはその王太子で……王太子で……?
「あ」
「あ?」
「ああああ?!そういうこと?!」
俺が王太子アルフォンスのコスプレをしてるから勘違いしたってことか!俺は強烈なアハ体験に尋問されていることも忘れて大絶叫を上げる。
これで最初に殿下と呼ばれたことも今スパイ容疑がかけられている原因もわかった。LoD3章のヒーロー、ナルグァルド王国の王太子アルフォンス・ラーゲルブラード。俺の推しでありここ数年研究に研究を重ねてコスプレしてきたキャラクターだ。一番得意なキャラと言ってもいい。
なるほど、そういうことだったのか。
「お、俺のコスプレが完璧だったばっかりに……」
顔をぎゅっと顰めて拳を握りしめる。確かに今日の顔面は会心の出来だった。現在それが仇となっているわけだが、それでも本物と見間違えたなんてかなり嬉しい。あの平凡塩顔を目鼻立ちくっきり西洋人風顔にメイクで激変させられていたとは。
ふふふ、自分の才能が怖いぜ。
「何か……思うことがあるようですね」
「ヒェッ」
思いもよらぬところで己の技術の高さを実感して感動している俺。その姿にシグルドは氷のように凍てついた声音と刺すような視線を向けてきた。これが殺気と言うものだろうか。イビルボアと対峙した時のような恐怖感が俺の全身を支配する。
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「全て話しなさい。どこの誰に命じられてこの国へ訪れたか。王太子に酷似した姿で一体何をしようとしていたのか」
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