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「まままマジで出たぁ?!」
呑気にデカいキャリーを引っ張りながら歩いていた俺の下に飛び出てきたのはイノシシっぽいモンスター、イビルボア。多分普通のイノシシより二回りくらいデカい。ライオンくらいのサイズ感がある。そいつは興奮した様子で鼻息荒く、涎を垂らしながらギラついた金色の目がこちらを見ていた。
ガツガツと前足の蹄は土を蹴っていて、今にもこちらに飛びかかってきそうである。
怖い。マジで怖い。こいつ俺を食う気なの?夢で死んだら現実でもショック死しするとかないよな?
「お、俺は食べても美味くないぞ~。その辺の木の実とか食ってる方がよっぽど美味いぞ~」
どう見ても俺をロックオンしているイビルボアにじりじり後退しつつ説得を試みるが、お察しの通り言語が通じるタイプではないようだ。どうしよう、たとえ夢でも痛い目に会うのは勘弁してもらいたい。
「こ、こう言う時どうしたらいいんだっけ?死んだふり?は駄目なんだっけ。ええと、ええと」
焦っているうちにもイビルボアは俺との間合いを図るようにじりじりと近づいてくる。そして俺がうっかり視線を逸らしてしまった途端、イビルボアはぐっと頭を下げてこっちに向かって物凄い勢いで突進してきた。
「わ、わぁぁぁぁぁ!!!!」
こいつに攻撃されたら死ぬ。本当に腸を引きずり出されて食われてしまう。直前まで夢だと思っていたはずなのに、本能が死を感じている。俺はパニックになって、真正面から突撃してくるイビルボアに向かって持っていたキャリーバッグを振り回した。
がつん!とぶつかり合うイビルボアと俺のキャリーバッグ。だが相手はモンスターで俺は非力な人間。結果は火を見るより明らかで俺はキャリーバッグごと後ろへ吹き飛んだ。
「いっ……!」
スライディングするようにデコボコの道に投げ出されて全身を強かにぶつけた。一瞬息が止まるほどの衝撃だったが意識はある。折角苦労して作った甲冑はぼろぼろになってしまったけど、多少のクッションにはなってくれたのかもしれない。苦痛に歪む顔をなんとか上げると、イビルボアは頭を激しく振り乱して唸り声をあげていた。
やべえ、下手に手だしたから滅茶苦茶興奮してる!
逃げなきゃ。こうなったらイチかバチかだけど逃げるしかない。キャリーバッグ投げつけて、奴が怯んでいるうちにダッシュで逃げる!これしかない。
俺は擦り傷だらけの身体を何とか起こし、キャリーバッグを盾にして膝を突いた。
とにかくあいつの意識を少しでも逸らす。それでそのうちに少しでも遠くへ逃げる。
あまりにリアルな感覚に俺はこれが夢であることをすっかり忘れ、生き残るために全力でキャリーバッグをイビルボアに投げつけた。
「ごめんな俺の4万8千円!生き残ったら回収するから!」
投げた瞬間にイビルボアに背を向け走り出す。1秒でさえ無駄にはしていられない。当たっていようが当たっていまいが逃げるしかないんだ!
猛然とダッシュする俺。後方から響き渡る怒りの嘶き。マジで怖いマジで怖い夢なら早く覚めてくれ!
「ひっ、ひっ、はっ」
後ろを振り返らずにまっすぐ前を見て走る。もしかして森の中に入った方が良かったのかもしれないけど、この時の俺にはそれを考える余裕さえなかった。目の前にある頼りない道をオリンピック選手ばりの勢いで只管走った。
後ろで奴の足音がする。奴の息遣いが近づいてくる。
もう駄目だ。
そう思いながら走っていた時、道なりに大きく曲がった先にぽつりと人影が立っていることに気が付いた。
「た、たすけ……!」
絞り出したその声は鳥の囀りにさえ負けるくらい小さなものだった。相手は背中を向けているようだし、目算400メートルほど離れた相手に聞こえたとは思えない。
それなのに人影は振り返り、なんとこちらへ向かって走り出したではないか。
お互い走っているからか、互いの距離はどんどん近くなる。多分イビルボアもどんどん近づいている。
あっ、剣持ってる!あの人剣持ってるぞ!もしかしたら助かるかもしれない!
「あっ!」
そんな風に一瞬でも思ったのがいけなかったのだろう。ほんの少し気が抜けた俺の足はもつれ、それはもう見事に顔面から転倒した。
終わった。あの人が助ける前に俺は死ぬ。死因、イノシシに踏まれて内臓破裂とかレアすぎん?
「何をやっているんですかあなたは!」
叱責とともにだん!と強く地面を蹴る音が聞こえたかと思うと這いつくばった俺の上を人影が飛び越えていく。そしてその直後、イビルボアの断末魔の叫びが森に響き渡った。
呑気にデカいキャリーを引っ張りながら歩いていた俺の下に飛び出てきたのはイノシシっぽいモンスター、イビルボア。多分普通のイノシシより二回りくらいデカい。ライオンくらいのサイズ感がある。そいつは興奮した様子で鼻息荒く、涎を垂らしながらギラついた金色の目がこちらを見ていた。
ガツガツと前足の蹄は土を蹴っていて、今にもこちらに飛びかかってきそうである。
怖い。マジで怖い。こいつ俺を食う気なの?夢で死んだら現実でもショック死しするとかないよな?
「お、俺は食べても美味くないぞ~。その辺の木の実とか食ってる方がよっぽど美味いぞ~」
どう見ても俺をロックオンしているイビルボアにじりじり後退しつつ説得を試みるが、お察しの通り言語が通じるタイプではないようだ。どうしよう、たとえ夢でも痛い目に会うのは勘弁してもらいたい。
「こ、こう言う時どうしたらいいんだっけ?死んだふり?は駄目なんだっけ。ええと、ええと」
焦っているうちにもイビルボアは俺との間合いを図るようにじりじりと近づいてくる。そして俺がうっかり視線を逸らしてしまった途端、イビルボアはぐっと頭を下げてこっちに向かって物凄い勢いで突進してきた。
「わ、わぁぁぁぁぁ!!!!」
こいつに攻撃されたら死ぬ。本当に腸を引きずり出されて食われてしまう。直前まで夢だと思っていたはずなのに、本能が死を感じている。俺はパニックになって、真正面から突撃してくるイビルボアに向かって持っていたキャリーバッグを振り回した。
がつん!とぶつかり合うイビルボアと俺のキャリーバッグ。だが相手はモンスターで俺は非力な人間。結果は火を見るより明らかで俺はキャリーバッグごと後ろへ吹き飛んだ。
「いっ……!」
スライディングするようにデコボコの道に投げ出されて全身を強かにぶつけた。一瞬息が止まるほどの衝撃だったが意識はある。折角苦労して作った甲冑はぼろぼろになってしまったけど、多少のクッションにはなってくれたのかもしれない。苦痛に歪む顔をなんとか上げると、イビルボアは頭を激しく振り乱して唸り声をあげていた。
やべえ、下手に手だしたから滅茶苦茶興奮してる!
逃げなきゃ。こうなったらイチかバチかだけど逃げるしかない。キャリーバッグ投げつけて、奴が怯んでいるうちにダッシュで逃げる!これしかない。
俺は擦り傷だらけの身体を何とか起こし、キャリーバッグを盾にして膝を突いた。
とにかくあいつの意識を少しでも逸らす。それでそのうちに少しでも遠くへ逃げる。
あまりにリアルな感覚に俺はこれが夢であることをすっかり忘れ、生き残るために全力でキャリーバッグをイビルボアに投げつけた。
「ごめんな俺の4万8千円!生き残ったら回収するから!」
投げた瞬間にイビルボアに背を向け走り出す。1秒でさえ無駄にはしていられない。当たっていようが当たっていまいが逃げるしかないんだ!
猛然とダッシュする俺。後方から響き渡る怒りの嘶き。マジで怖いマジで怖い夢なら早く覚めてくれ!
「ひっ、ひっ、はっ」
後ろを振り返らずにまっすぐ前を見て走る。もしかして森の中に入った方が良かったのかもしれないけど、この時の俺にはそれを考える余裕さえなかった。目の前にある頼りない道をオリンピック選手ばりの勢いで只管走った。
後ろで奴の足音がする。奴の息遣いが近づいてくる。
もう駄目だ。
そう思いながら走っていた時、道なりに大きく曲がった先にぽつりと人影が立っていることに気が付いた。
「た、たすけ……!」
絞り出したその声は鳥の囀りにさえ負けるくらい小さなものだった。相手は背中を向けているようだし、目算400メートルほど離れた相手に聞こえたとは思えない。
それなのに人影は振り返り、なんとこちらへ向かって走り出したではないか。
お互い走っているからか、互いの距離はどんどん近くなる。多分イビルボアもどんどん近づいている。
あっ、剣持ってる!あの人剣持ってるぞ!もしかしたら助かるかもしれない!
「あっ!」
そんな風に一瞬でも思ったのがいけなかったのだろう。ほんの少し気が抜けた俺の足はもつれ、それはもう見事に顔面から転倒した。
終わった。あの人が助ける前に俺は死ぬ。死因、イノシシに踏まれて内臓破裂とかレアすぎん?
「何をやっているんですかあなたは!」
叱責とともにだん!と強く地面を蹴る音が聞こえたかと思うと這いつくばった俺の上を人影が飛び越えていく。そしてその直後、イビルボアの断末魔の叫びが森に響き渡った。
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