贄の神子と月明かりの神様

木島

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変調の兆し

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「そろそろお腹空いてない?二人共ご飯ができたっすよ~」
「あい」
「はぁい」

 皓月と蛍が離脱した後も篝と二人飽くことなく離れていた間の話をしていると、座敷には夕餉の準備が整えられていた。
 蛍に呼ばれて行くと目に映るそれは明らかにすばるが皓月と二人で事前に用意した膳よりも豪華に仕上がっていて、再会を祝おうと蛍が帰って早々に腕を振るってくれたのが見て取れた。

「いやー久しぶりだったもんで頑張っちゃいました!」
「うわぁ、美味しそう!蛍、ありがとうございます」
「ようございますなぁ。懐かしい食卓にございます」
「さあ、二人とも座れ。いただこう」

 蛍の手料理を食べるのは一年ぶりだ。久しぶりに味わう、ある意味すばるにとって母の味とも言える料理に胸が躍った。皓月に促され二人は味も確かで豪華な食事が並ぶ膳の前に座る。

「さ、たんと食べてくださいよ!おかわりも沢山あるっすよ!」

 ぺんぺんと茶碗に文字通り山盛り御飯をよそいながら蛍は笑う。それに二人は元気よく頷いた。

「あい」
「ええ!勿論だとも」
「嬢ちゃんはちょっと遠慮しようねー」

 そして山盛られた茶碗は篝を飛び越え皓月の膳へ。篝は驚愕の表情を浮かべた。

「何故!」
「だって嬢ちゃん成体に成ってから食べ過ぎよ?いくら体力使ったとはいえいい加減食生活見直さないと太るっすよ」

 そう言いつつ小山に盛った茶碗を篝の膳に置いてやる蛍。皓月によそったものに比べれば少ないが、それでも十分な量だ。それを見てすばるは思わず吹き出してしまった。

「すばる、何を笑っている?」
「いえ、蛍は篝ちゃんに甘いなぁって」
「ああ、まあそうだな」

 成体になっても篝と蛍の関係性は変わっていないようだ。皓月程ではないにしろ蛍も幼い頃から面倒を見続けてきた篝を相当可愛がっている。微笑ましいと二人で笑っていると機嫌の治った篝が満面の笑みですばるの膳に茶碗を置いた。

「さあさ、すばる殿もたくさん食べるのですよ!」

 どどんと音がしそうな勢いで膳の上に鎮座する茶碗。そこには篝と変わらぬほどにこんもり盛られた御飯がよそわれていた。その多さにすばるは目を剥く。

「蛍、篝ちゃん、流石にこんなには」

 目の前のご飯に瞠目し蛍に茶碗を戻そうとすれば茶碗を置いた本人である篝にそっと手を押し留められた。細くすらりとした女性的な手が有無を言わさぬ力ですばるの手を押さえている。力を入れてもびくともしないのに、押さえている本人は空気に触れているかの如く涼しい顔だ。

「いけませぬ。すばる殿はまだまだ育ち盛り、飯は幾ら食っても足りぬのです」
「それでもこの量は無理ですって!」
「まあ!われはあの量でも足りませぬのに!」
「だから嬢ちゃんは食べ過ぎだって」

 わあわあと押し問答をする二人。その間にも蛍は手を休めることなく温かい汁物を椀に注いでいる。大きな椀に根菜と肉がたっぷり入った汁を膳に置かれて、それもまたすばるはこんなに食べられないと大きな声を上げた。

「あまり無駄話ばかりしていると料理が冷めるぞ」
「まあ!それはいけませぬ!はよう食べましょう」
「まあ、偶には腹がはち切れるくらい食う日があってもいいじゃないっすか。ね、神子さん」
「そ、そう、ですかねぇ?」

 まあまあと宥められて改めて膳を見る。炊き立てのご飯に温かい根菜と肉の味噌汁。葉物野菜のお浸しにたっぷり出汁の入ったふわふわの卵焼き、小鉢に入った一口大の鶏の照り焼き、熟成させた青魚の塩焼きと蛍秘伝の漬物が揃った最高の夕餉だ。懐かしく、間違いない美味しい香りが鼻腔を擽ってこくりと喉が鳴る。
 こんなご馳走を前にして問答など時間の無駄。食欲に負けたすばるは彼らの言うようにはち切れるくらい食べる覚悟を決めて箸を取った。
 その様子を見て皓月達も箸を取る。

「いただきます」
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