玉の輿だったはずなのに!

木島

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お勉強、それから

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 衝撃の結婚式の日からあっという間にひと月が経った。ベネディクティス辺境伯夫君となった俺は今、日々貴族のマナーや歴史を勉強している。

 今は呑気にお屋敷の中で暮らしているが、いずれは辺境伯夫君として社交界にも顔を出さねばならない。シーズン最後の王家主催の大夜会で新婚の俺たちは国王陛下にご挨拶しないといけないらしい。なので王族に会っても恥ずかしくない振る舞いと知識を付け焼き刃でも身につけねばならないのだ。
 ぜひ当日は風邪ひいたことにして欠席したい。

「ベネディクティス家は辺境の守護がお役目でしょう?でもそれって国からのお金と税金だけで賄えるもんじゃないよね。他にも何か事業とかやってるの?」

 艶々ですべすべのテーブルに分厚い資料とノートを広げた俺が問いかけたのは家庭教師のレオナルド。彼は子爵家の三男に生まれ、自分の食い扶持を稼ぐために貴族の子女の家庭教師をしている。ベータで既婚者、穏やかで物腰の柔らかい壮年の紳士だ。
 今日のレオナルドは俺にベネディクティス辺境伯領の歴史や現在を教えているのだった。

「もちろんです。ですが、長く辺境の守りを勤めてきた経験からやはり軍需産業が主ですね。武器の開発生産、流通から兵士・騎士の育成や派遣などを行なっておりますよ」
「てことは、領民も兵士が多いわけ?」
「他領に比べると比較的多いとは言えますが、全領民の2割弱程でしょうか。武器の生産に関わる職人を含めればもう少し増えますが、土地が広いので酪農家や農家もそれなりにいますよ。戦う者だけでは生活は成り立ちませんからね」
「そりゃ確かにそうだ」

 戦時下じゃないのだ。軍需だけで人は食べてはいけない。俺は渡された資料にメモを取りながらレオナルドの話を頭に詰め込む。

 他にもベネディクティス領は隣国イ・プルームとの交易も行っているらしい。辺境ゆえイ・プルームとの国境争いに長く携わってきたが、今彼の国とは休戦中。遺恨は横に置いておいて友好的に交易を行っているらしい。
 むしろイ・プルーム側の辺境伯領と口裏を合わせて交易の窓口を自分たちだけに限ることで独占的な利益を得ているのだとか。さすがルキーノだ、私腹を肥やすことに余念がない。

「ちなみに王都に我が国初の騎士学校を建てたのはベネディクティス家なのですよ。出自を問わず実力さえあれば入学できますから、立身出世を夢見る平民の若者がこぞって受験するのです」
「へぇ、そりゃ凄い」

 騎士の資格は貰えなくとも卒業すれば兵士や貴族の護衛、傭兵と引く手数多で職には困らないので平民や貴族の三男四男に大人気。中にはルキーノが出資している孤児院から受験する子もいるのだとか。そこからルキーノの私設傭兵団に流れている者も結構いると見た。

 それにしても、と天を仰ぐ。

「ベネディクティス領の事業がかなり手広いことはよーっくわかった。こりゃ覚えるの大変だ」
「ふふ、毎日復習して少しずつ覚えていきましょうね」

 レオナルドは基礎知識もままならない俺を馬鹿にしたりはしない。が、だからといって甘くしたりもしてくれない。
 にこにこ笑っているレオナルドの講義は次の議題に移り良い子の俺は大人しくその講義に耳を傾ける。

 そしてその約30分後、飽き始めた俺の元にアンジェラが待ちかねた来客の知らせと共にやってきた。

「ネロ様、ララサバル男爵がおいでになりました」
「ん、わかった。小サロンに通して」
「畏まりました」

 ララサバル男爵、つまりはクソ野郎ミケランジェロ。今日俺は買い物をするという名目で奴を呼びつけ、これまでの経過報告をさせるつもりだ。
 ミケランジェロが来たところで今日の授業は終了。俺は奴の待つサロンへと向かう。
 エヴァンドロのこと、賭場に入り浸る使用人のこと、ルキーノのこと何でもいい。何か有益な情報を持ってきているだろうか。情報によってはご褒美に俺の予算から何か買ってもいいと思ってる。あ、別にクソ野郎のためじゃないよ?母さんの豊かな生活のためだから。

「こちらでお待ちです」
「ん、ありがと。入るよ~」
「は、はい!」

 サロンに足を踏み入れると強張った顔のミケランジェロが背筋を伸ばしてソファに腰かけていた。彼の背後にはカモフラージュに持ってきたらしき大小様々な箱や袋が積んである。

「やぁやぁ、いらっしゃいララサバル男爵。今日はどんないいもの持ってきてくれたのかな?」

 わざとらしいくらい明るく声をかけるとびくりと肩を震わせたミケランジェロが勢いよく立ち上がる。そして勢いよく俺に向かって頭を下げた。面白いくらいにビビってて笑えてくる。

「ご無沙汰しております。ベネディクティス辺境伯夫君におか」
「ああ、そういうのいいから座って。アンジェラ、お茶お願い」
「承知いたしました」

 今更お前相手に丁寧な挨拶とかいらねーのよ。1人がけのソファに腰かけ、ぞんざいに手を振ってミケランジェロにも座るように促した。
 出鼻を挫かれたミケランジェロはしおしおと力なくソファに座り、不安げな顔で俺を見る。何か言いたげなその視線を無視して俺はアンジェラが淹れた紅茶を受け取り優雅に口をつけた。

 ふわりと香るのはすっきりした爽やかな香り。勉強で凝り固まった体が解れるようで、ほうとひとつ息を吐く。これで目の前にいるのがこいつじゃなかったらもっと美味しかっただろうなぁ。

「で?俺が頼んでたことで何かわかったことある?」
「あ、ああ。これを」

 俺とこいつは仲良く世間話をするような間柄じゃない。さっさと本題をすませてしまおうと問いかけると、ミケランジェロは慌てて横に置いた鞄からいくつかの紙を取り出した。

「これは?」

 会議の資料みたいに数枚の紙が綴られた冊子がひとつ。それを手に取りパラパラ捲る。

「ご夫君が探していた、賭場に入り浸る使用人を何人か見つけてきました。それはその報告書です」
「えっ」

 ウッソ、もう見つかったの?!




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