玉の輿だったはずなのに!

木島

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初対面

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 引き続きエヴァンドロに案内され俺は漸く目指すローニヤ文具店に辿り着いた。

「ネロ様!」

 店の前で忙しなく視線を彷徨わせていたブリジッタが俺を見つけた途端駆け寄ってくる。俺も足早に彼女に近寄って、初めて崩れたブリジッタの表情を前に頭を下げた。

「ブリジッタ……!ごめん、俺」
「ご無事でようございました!旦那様も心配しておられますよ。さぁ、ひとまず中にお入りください」
「え!あ、うん」

 俺の肩にそっと触れたブリジッタが安堵の息を吐きながら告げる。俺は言い訳にしかならない謝罪を続けようとしたが、それよりも前にブリジッタに背中を押されて店の中に入ることになった。

「あ、ちょっと待って!そこの警備隊の人、俺をここまで連れてきてくれたんだ。お礼を……」
「左様でございますか。ではそこの方も、事情をお伺いしたいのでご同席ください。勿論そこの護衛も」
「はい。もちろんです」
「承知しました」

 せっかく見つけた主人公、ここで別れてなるものか。理由を付けて引き留めようとするとブリジッタもついて来いとエヴァンドロに言った。素直に頷いたエヴァンドロは護衛と共に俺たちの後ろをついてくる。
 中ではさぞ好奇の視線に晒されるだろうと思ったが、中には店員しかいなかった。どうやら俺がいなくなった後に店は人払いされたらしい。奥の応接室でルキーノが待っていると俺たちはそこへ通された。

「旦那様、ネロ様がお戻りに」
「入れ」

 ぎゃ、すげえイラついた声。嫌な予感。思わず背筋が伸びる。
 扉越しでも感じた不吉な予感に違うことなく、開かれた重厚な扉の先には立派なソファに腕を組んで座っている鬼がいた。

「ネロ」
「ル、ルキーノ様……」

 これでもかと言うくらい眉間に皺を寄せたルキーノから地獄のような声で名前を呼ばれる。俺を認めてゆっくりと立ち上がる姿に恐怖を感じ、思わず一歩後退った。
 するとそれが気に入らなかったのかルキーノの眉が跳ね上がり、顔面に叩きつけるようなアルファの威圧をぶつけられた。

「ぅぐ……!」
「外に出した途端に逃げ出すとは、見上げた根性だな。こんな飾りの首輪でなく鎖の着いた鉄の首輪が所望か?この駄犬が」
「ひぇ」

 首に手が触れたと感じた瞬間、ネックガードを捕まれ強く引っぱられた体はたたらを踏んだ。
 ヤバいヤバいヤバいルキーノ見たことないくらい怒ってる。ちょ、待ってネックガード引っ張らないで首痛い!これ絶対本気で言ってる!
 いつもより険しい青い目からアルファの威圧と痛いくらいの怒りを感じて俺は竦み上がった。
 固まってしまった俺は怒気を孕む青い目から目が逸らせない。ぞぞぞ、と背中から頭に熱が昇って意味もなくはくはくと口を閉口させる俺。か弱いオメガの俺にその威圧はダメだ。あ、ダメ倒れそう。

「乱暴はやめてください!どうか一度落ち着いて。ただ道に迷っていたこの方にそのような物言いはあんまりではないですか」

 なんということでしょう。オメガだけでなくベータやアルファですら色を無くしそうなルキーノの怒りを物ともせずエヴァンドロが口を挟んできたではないですか。
 案の定ルキーノはぎろりと尖り切った目でエヴァンドロを睨みつけた。

「誰だ貴様は」
「王都警備隊のエヴァンドロと申します。先程道に迷われていたこの方を発見しこちらまでお連れしました」
「警備隊の隊員如きが私に意見するつもりか?」
「間違いは正さねばなりませんから」
「ほう……?」

 エヴァンドロの物怖じしない毅然とした口ぶりにルキーノの手が弛む。助かった。俺はほっとして解放された首を撫でる。
 そんな俺の姿を気遣うようにちらと見てからエヴァンドロは再びルキーノに向き合った。

「私はこの方にご自分からこの店に連れて行ってほしいと依頼されました。逃げ出すなどという意思はなかったと思います。ですので、先ほどの物言いは訂正してください」
「エヴァンドロさんいいんです。俺が勝手に店を出たのは事実ですから」
「いいえ、たとえ貴族の方でも誤解を与えたまま暴言を吐かれることを見逃せません」
「暴言だなんて……」

 いや、駄犬は暴言か。
 ちょっと納得しかけたけど、このままエヴァンドロがルキーノに対峙するのを放置はできない。この二人に敵対してもらっちゃ困るんだよ。

「ごめんなさいルキーノ様。逃げるつもりなんてなくて。ただちょっと、母さんが……」
「母親?」
「罰はあとでいくらでも。この人は俺を連れてきてくれただけですから、許してあげてください。ね?」

 自分から近寄ってルキーノの腕に触れて上目遣いでじっと見つめる。しばらく俺を見ていたルキーノだったが、やがて腹の底から吐き出すようなため息を吐いた。
 その瞬間、息も詰まるくらい重かった威圧感が和らぐ。

「後で詳しく話せ」
「もちろんです」

 ルキーノはこくこくと何度も頷く俺を見て、エヴァンドロに視線を移す。エヴァンドロは緊張した面持ちでその視線を受け止めた。

「エヴァンドロと言ったか。今回は我が伴侶に助力したことを評価し不問とする。だが、王都で身を立てたくば時に口を噤むことも学ぶといい。貴族とは私のように懐の広い者ばかりではないからな」
「……はい。お心遣いに感謝致します」

 水に流すよ、と譲歩したうえにちょっとしたアドバイスまで。随分甘いルキーノの態度にエヴァンドロは頭を下げるがその顔はなんかまだ不満そうだ。ヒーロー然としたタイプの主人公って正義感強すぎなタイプ多いよね。それが俺たちの破滅の一因になると知っている俺はエヴァンドロを懐柔すべく彼に微笑みかけた。
 少し控えめに、恥じらいながら。でも目には少しの熱と好意を込めて。必殺、娼館仕込みのアルファ悩殺スマイルだ。

「あの、連れてきてくれてありがとうございました。このお礼はいずれ正式にさせてください」
「っ、いえ!礼なんて勿体ない。私は王都警備として当然のことをしただけですから」
「それでも私は助かりましたから」

 ほんのり頬を染めたエヴァンドロが慌てている。よしよし動揺しているな。俺のルキーノには一切効いてる気のしないオメガとしての魅力も捨てたもんじゃないってことだ。

「街で何かお困りのことがありましたらいつでもお声かけください。力になりますから」
「ああ、心強いです。ありがとうございます。エヴァンドロさん」

 ルキーノとは対照的な明るく爽やかな笑顔のエヴァンドロ。どうやら宿敵である主人公に好感触を残せたようでほっとする。
 ここで更にもう一息、と一歩踏み出せば横からブリジッタが俺を遮るように手を差し出してきた。

「ネロ様、後は私が。ルキーノ様のお側にいてくださいませ」
「あぁ、うん。わかったお願い。ちゃんと連絡先聞いておいてね!」

 この縁を途切れさせてはいけないとブリジッタに念押しすると、ぐいと腰を強く引かれる。驚いて見上げるとまだ不機嫌そうなルキーノが顔を寄せてきた。





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