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思わぬ再会
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その後も俺はルキーノのエスコートでレストランで昼食。その後靴屋で買い物を楽しんだ。
そこはまるで天国かと思ったよ。『祥平』だった頃の俺はファッションの中でも特に靴を好んだ。大枚叩いてオーダーで作ったこともある。案内された靴屋のキラキラツヤツヤの革靴がずらりと並んだ光景にはるか昔を思い出してついつい熱が入ってしまって、端から端まで全部試し履きしようとしてルキーノに止められてしまったのだ。
「今度屋敷に呼んでやるから今日はこのくらいにしておけ。この調子では日が暮れる」
「絶対、絶対ですよ?約束してくださいね!」
「わかった、わかったから大人しくしていろ」
うんざり顔で叱られて半ば強制的に退店。結局一足しか買えなかった。馬車の中で隣り合わせに座り、絶対だぞ!約束だぞ!と何度もしつこくしてたらデコピンされた。
この世界でもデコピンってあるんだ、とか変なところで感動して大人しくなった俺を反省したと勘違いしたルキーノはやれやれと首を振っていた。
「それほど靴に興味があるなら娼館にいる時にも買ってやればよかったな」
「え?」
何でもないように軽く言うルキーノに驚いてぽかんと彼の顔を見る。ルキーノは娼館にいる時も時々ちょっとしたお土産をくれた。お菓子とか花とか消え物ばっかりだったから惰性で選んでいるものとばかり思っていたけど、もしかしたら違ったのかもしれない。
今みたいに俺が好きそうな物を自分で考えてくれてたのかな。それって、もしかして。
「ルキーノ様、結構俺のこと好きです?」
「喧しい」
「えぇ~?答えになってないんですけど~」
ふい、とわざとらしく顔ごと視線を逸らされる。そんな彼のらしくない態度に自然と自分の顔がにやけてしまうのがわかった。
今俺普通の夫夫みたいじゃない?雇われ伯爵夫君、悪くないなぁ。これで破滅の未来さえなかったら本当最高の結婚なんだけど。俺はすっかりご機嫌でルキーノとの買い物デートを楽しんでいた。
次に訪れたのは文具店。俺が使うためのレターセットと万年筆を買うんだって。
「ベネディクティス様、まさかお越しいただけるとは!ご用命のインクができましたのでご連絡差し上げようとしたところでした。確認していただけますか?」
「ああ、そうだったか。さて……」
出迎え早々担当者にそう言われたルキーノはちらと俺を見る。その視線に俺は気にしないでいいと首を横に振った。
「ルキーノ様、俺この辺り見てますね」
「ああ、悪いな。すぐ終わらせる」
「ごゆっくりどうぞぉ」
ルキーノが何やら注文していた物を確認している間、俺は整然と並んだ文具や雑貨を眺めて過ごす。照明を受けて艶々に光る万年筆や羽ペンも、ずらりと並べられた様々な色のインク瓶も魅力的だ。
「あ、2階もあるんだ」
上がってみた2階にも沢山の雑貨が置いてある。レターセット、しおり、額縁や観賞用の置物もある。その中で俺は主に観劇用に用いられる双眼鏡、オペラグラスを手に取り物珍しく眺めた。俺が知ってる双眼鏡は実用一辺倒な無骨な物で、細かな飾り彫りや彫金が施されたものは見たことがない。これだけでも美術的な価値がありそうなそれを覗き込んでみる。
おお、案外遠くまで見える。
「あ!ねぇねぇ、斜め向かいの凄い並んでるお店お菓子屋さんみたい。美味しいのかな?ジュリエッタ様甘い物が好きだよね」
「ネロ様、私が一度見て参りましょうか?」
「いいの?じゃあお願い」
「かしこまりました」
2階の窓から街を見下ろして見えたお菓子屋にブリジッタが向かう。その様子もオペラグラスを通せばはっきりと見えて面白かった。
他にはどんな店が並んでるのかな、と視線を辿らせる。見える範囲だけでもいろんな店があって、貴族街らしく煌びやかな人たちが行き交っていた。
娼館にいる時もこうやって自分の部屋から街を眺めていたな。あそこで見るのは男が多かったけど、ここだと女の人も子供もいて……
「えっ……?」
そんな中で見つけた1人の女性。偶々何かの店から出てくる瞬間にその顔が見えて、俺の視線は釘付けになった。
「そんな、まさか」
俺と同じ紅茶色の髪をアップにした、地味な濃い緑色のドレスの夫人。一瞬見えた顔立ちは俺のよく知る人のもので、オペラグラスを持つ手に力がこもった。
こんな偶然あるはずない。初めて外に出て、その日にあの人を見つけるなんて。
でも、俺があの人を見間違えるはずがない。今だって時々夢に見るんだ。優しく撫でてくれる温かい手を。愛おしいと語る俺と同じ灰色の瞳を。優しい綺麗な微笑みを。
ふらふらと、オペラグラスを手にしたまま引き寄せられるように俺は店を出る。
その時にはルキーノのことも、ブリジッタのことも忘れていた。オペラグラスを通して見えたあの人が本当にそうなのか。それだけを知りたくて人通りの多い道を歩く。
「おかあさん」
どこに行ったの?
さっきはあんなにはっきり見えたのに、オペラグラスを外した瞬間彼女は人混みに埋没してしまった。
そこはまるで天国かと思ったよ。『祥平』だった頃の俺はファッションの中でも特に靴を好んだ。大枚叩いてオーダーで作ったこともある。案内された靴屋のキラキラツヤツヤの革靴がずらりと並んだ光景にはるか昔を思い出してついつい熱が入ってしまって、端から端まで全部試し履きしようとしてルキーノに止められてしまったのだ。
「今度屋敷に呼んでやるから今日はこのくらいにしておけ。この調子では日が暮れる」
「絶対、絶対ですよ?約束してくださいね!」
「わかった、わかったから大人しくしていろ」
うんざり顔で叱られて半ば強制的に退店。結局一足しか買えなかった。馬車の中で隣り合わせに座り、絶対だぞ!約束だぞ!と何度もしつこくしてたらデコピンされた。
この世界でもデコピンってあるんだ、とか変なところで感動して大人しくなった俺を反省したと勘違いしたルキーノはやれやれと首を振っていた。
「それほど靴に興味があるなら娼館にいる時にも買ってやればよかったな」
「え?」
何でもないように軽く言うルキーノに驚いてぽかんと彼の顔を見る。ルキーノは娼館にいる時も時々ちょっとしたお土産をくれた。お菓子とか花とか消え物ばっかりだったから惰性で選んでいるものとばかり思っていたけど、もしかしたら違ったのかもしれない。
今みたいに俺が好きそうな物を自分で考えてくれてたのかな。それって、もしかして。
「ルキーノ様、結構俺のこと好きです?」
「喧しい」
「えぇ~?答えになってないんですけど~」
ふい、とわざとらしく顔ごと視線を逸らされる。そんな彼のらしくない態度に自然と自分の顔がにやけてしまうのがわかった。
今俺普通の夫夫みたいじゃない?雇われ伯爵夫君、悪くないなぁ。これで破滅の未来さえなかったら本当最高の結婚なんだけど。俺はすっかりご機嫌でルキーノとの買い物デートを楽しんでいた。
次に訪れたのは文具店。俺が使うためのレターセットと万年筆を買うんだって。
「ベネディクティス様、まさかお越しいただけるとは!ご用命のインクができましたのでご連絡差し上げようとしたところでした。確認していただけますか?」
「ああ、そうだったか。さて……」
出迎え早々担当者にそう言われたルキーノはちらと俺を見る。その視線に俺は気にしないでいいと首を横に振った。
「ルキーノ様、俺この辺り見てますね」
「ああ、悪いな。すぐ終わらせる」
「ごゆっくりどうぞぉ」
ルキーノが何やら注文していた物を確認している間、俺は整然と並んだ文具や雑貨を眺めて過ごす。照明を受けて艶々に光る万年筆や羽ペンも、ずらりと並べられた様々な色のインク瓶も魅力的だ。
「あ、2階もあるんだ」
上がってみた2階にも沢山の雑貨が置いてある。レターセット、しおり、額縁や観賞用の置物もある。その中で俺は主に観劇用に用いられる双眼鏡、オペラグラスを手に取り物珍しく眺めた。俺が知ってる双眼鏡は実用一辺倒な無骨な物で、細かな飾り彫りや彫金が施されたものは見たことがない。これだけでも美術的な価値がありそうなそれを覗き込んでみる。
おお、案外遠くまで見える。
「あ!ねぇねぇ、斜め向かいの凄い並んでるお店お菓子屋さんみたい。美味しいのかな?ジュリエッタ様甘い物が好きだよね」
「ネロ様、私が一度見て参りましょうか?」
「いいの?じゃあお願い」
「かしこまりました」
2階の窓から街を見下ろして見えたお菓子屋にブリジッタが向かう。その様子もオペラグラスを通せばはっきりと見えて面白かった。
他にはどんな店が並んでるのかな、と視線を辿らせる。見える範囲だけでもいろんな店があって、貴族街らしく煌びやかな人たちが行き交っていた。
娼館にいる時もこうやって自分の部屋から街を眺めていたな。あそこで見るのは男が多かったけど、ここだと女の人も子供もいて……
「えっ……?」
そんな中で見つけた1人の女性。偶々何かの店から出てくる瞬間にその顔が見えて、俺の視線は釘付けになった。
「そんな、まさか」
俺と同じ紅茶色の髪をアップにした、地味な濃い緑色のドレスの夫人。一瞬見えた顔立ちは俺のよく知る人のもので、オペラグラスを持つ手に力がこもった。
こんな偶然あるはずない。初めて外に出て、その日にあの人を見つけるなんて。
でも、俺があの人を見間違えるはずがない。今だって時々夢に見るんだ。優しく撫でてくれる温かい手を。愛おしいと語る俺と同じ灰色の瞳を。優しい綺麗な微笑みを。
ふらふらと、オペラグラスを手にしたまま引き寄せられるように俺は店を出る。
その時にはルキーノのことも、ブリジッタのことも忘れていた。オペラグラスを通して見えたあの人が本当にそうなのか。それだけを知りたくて人通りの多い道を歩く。
「おかあさん」
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