玉の輿だったはずなのに!

木島

文字の大きさ
上 下
2 / 36

精霊のギフト

しおりを挟む
 さて、一旦冷静になろう。
 俺の名前はネロ。家名はない。いや、昔はあるにはあったんだけど諸事情あってなくなった。サルビエト王国のお貴族様、そして超優良アルファのルキーノ・デ・ベネディクティス辺境伯と昨日婚姻を結び、初夜も恙無く終えたばかりの新婚オメガである。
 ……うん、恙無くは嘘だ。初夜と言えば初めての床入りが定石だけど、これから暮らす王都のタウンハウスに着いた頃にとうとう耐えられなくなった俺はぶっ倒れ、夜が明けるまで1人で寝ていた。まあ正直大失態である。
 それでもルキーノは怒るでもなく俺を寝かせておいてくれたし、朝起きた時も『婚礼の準備で疲れていたのだろう』と体調を気遣ってから仕事に向かった。結婚翌朝にもう仕事行くわけ?と自分のやらかしを棚に上げて思ったのは内緒ね?

 で、その新婚ホヤホヤの俺は結婚宣誓書にサインをした時におかしなビジョンを見た。
 見たこともない物に溢れた世界を『誰か』を介して見る。その『誰か』は今俺が生きる世界を物語を通して知っていて、この先訪れるだろう不幸を娯楽として楽しんでいた。そんなビジョン。
 最初は訳がわからず随分と混乱したが、ぶっ倒れて一晩明けたらそれがなんであるか理解できるようになっていた。一度寝たことで頭の中が整理されたのかもしれない。

 昨日倒れたせいで今日一日安静を言いつかった俺はひろーいベッドの上で胡座を組んで頭を捻る。

 あれは俺の前世と言うやつなんじゃないかな。今俺が住む国にも生まれ変わりという概念があるし、そういう物語が流行っているとビジョンの中の女の子が話していた。
 ビジョンの中では生前と全く違う世界に生まれ変わることを異世界転生と呼んでいた。そしてそれは大抵が実際に存在する物語とよく似た世界に転生するらしい。俺は多分それをしたんじゃないかと思う。

「サルビエト王国再生記。その小説の世界に、生まれ変わった?」
 
 声に出して言ってみる。しっくりくるような、こないような。ちなみに『サルビエト王国再生記』はビジョンの中で女の子と『俺の視点』が読んでいた小説のタイトルだ。

 国王の庶子であった日陰者の主人公が、数々の問題を知恵と勇気と時々力技で解決しながら平民から貴族、果てはサルビエトの国王へと登り詰めていくサクセスストーリー。その壮大な物語の舞台であるサルビエト王国は俺が生まれ育ったこの国の名前である。
 現在の国王陛下の名前も、町の名前や景観、生活水準に至るまで物語のサルビエト王国と同じ。その上俺の夫になったルキーノは物語に登場している。それも国賊として断罪される悪人として。

「俺の頭がイカれたわけじゃないなら、めちゃくちゃマズい状況だよねぇ……」

 妄想と片付けるには目にしたビジョンは世界観がちゃんとし過ぎてる。こことは似ても似つかないあの世界が、頭の中で作り上げた妄想や幻覚だとは思えないのだ。
 だからあのビジョンは前世だと思う。きっと精霊様が気紛れに授けてくれたギフトなんだ。この国では時々説明できない不思議なことがあるって聞くもの。これもその類なんじゃないかな。

「せっかくこの先安定した生活ができると思ってたのに、困ったなぁ~。本当どうしよう」

 顔を顰め、腕を組んだままゆらゆらと前後左右に揺れる。新婚早々こんな予想外のことで悩むなんて思わなかった。
 ルキーノが断罪されれば俺も連座で処刑は確実。俺はこの若さで死にたくはないし、ルキーノにも死んでほしくない。彼は俺が長く待ち望んだ番候補だもの。俺は上品だけど頑丈なネックガードの上から真っ新な頸を撫でる。

 ここに番の証を刻む日を夢見ていた。そうしてもいいと思える相手に会える日を待ち望んでいた。なのにその先待ち受けるのが断頭台なんてあんまりじゃないか。

「うん、助けないと。俺の、番を」

 俺は俺の幸せのため、彼の命を救わないと。だってそのために結婚したんだから!
 さあそのためにまず何をしよう。そう気合を入れた途端に空気を読まない俺の腹がぐうと鳴いた。

「まず……腹ごしらえだな。さすがに昨日から何も食べてないからお腹すいてきちゃった」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

嫌われ者の僕が学園を去る話

おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。 一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。 最終的にはハピエンの予定です。 Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。 ↓↓↓ 微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。 設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。 不定期更新です。(目標週1) 勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。 誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

既成事実さえあれば大丈夫

ふじの
BL
名家出身のオメガであるサミュエルは、第三王子に婚約を一方的に破棄された。名家とはいえ貧乏な家のためにも新しく誰かと番う必要がある。だがサミュエルは行き遅れなので、もはや選んでいる立場ではない。そうだ、既成事実さえあればどこかに嫁げるだろう。そう考えたサミュエルは、ヒート誘発薬を持って夜会に乗り込んだ。そこで出会った美丈夫のアルファ、ハリムと意気投合したが───。

試情のΩは番えない

metta
BL
発情時の匂いが強すぎる体質のフィアルカは、オメガであるにもかかわらず、アルファに拒絶され続け「政略婚に使えないオメガはいらない」と家から放逐されることになった。寄る辺のなかったフィアルカは、幼い頃から主治医だった医師に誘われ、その強い匂いを利用して他のアルファとオメガが番になる手助けをしながら暮らしていた。 しかし医師が金を貰って、オメガ達を望まない番にしていたいう罪で捕まり、フィアルカは自分の匂いで望まない番となってしまった者がいるということを知る。 その事実に打ちひしがれるフィアルカに命じられた罰は、病にかかったアルファの青年の世話、そして青年との間に子を設けることだった。 フィアルカは青年に「罪びとのオメガ」だと罵られ拒絶されてしまうが、青年の拒絶は病をフィアルカに移さないためのものだと気づいたフィアルカは献身的に青年に仕え、やがて心を通わせていくがー一 病の青年‪α‬×発情の強すぎるΩ 紆余曲折ありますがハピエンです。 imooo(@imodayosagyo )さんの「再会年下攻め創作BL」の1次創作タグ企画に参加させていただいたツイノベをお話にしたものになります。素敵な表紙絵もimoooさんに描いていただいております。

処理中です...