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第四十六話(アレクの過去⑥)
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アレクが後宮の自室で就寝していた時のこと、
「!」
アレクは何かの気配で目を覚ました。何かはわからない。ただ自分にとってよくないこと、ということだけはわかった。目を覚ましたが、アレクは横向きに寝ていた姿勢のままジッと動かず、あくまで寝たふりを続けていた。自分の背後に、ベッドのそばに誰かがいるのがわかった。そしてそれはアレクを目掛けて何かを振り下ろした。アレクはすぐ様それに気が付き、慌ててベッドから這い出た。
「誰だ?!!」
夜ではあったものの、部屋の明かりは少し目をこらせばわかる程度であったが、見えない訳ではなかった。ベッドの傍にいた人物は、アレクには到底信じられない場景だった。ちょうどその時、雲間から月が出てきて、月明りが窓から差してその人物を照らしていた。
「え・・・・?!」
アレクが驚くのも無理はない。
「せ・・んせい?」
アレクを狙ったのはステファンだったのだから。
「すまない・・・アレク様・・・・」
ステファンは泣きそうな表情をアレクに向けてはいたが、ベッドから引き抜いた剣の構えをとくことはなかった。
「どうして、先生・・・が・・・?」
「そうだね。私もまさか自分がこんなことをするなど、夢にも思わなかったよ。」
「だったらなぜ?!」
アレクは声を荒げた。
「私には妹がいます。悔しいですけどね、そこを第二夫人に狙われました。」
「?!まさか・・・」
「アレク様、そのまさかですよ。私の妹が人質にされてしまった。妹は平民ですからね。お貴族様が妹を連れ去ることなど、造作もないのでしょう。本当にこんなことがなければ、私はアレク様のお目付け役として、ラムレス様からの命令を遂行しただろうに・・・本当に残念です。」
皮肉にそう言ったステファンの表情は、自虐的だった。ステファンなりに苦渋の決断をしたことは明白だった。
「先生!!こんなの嫌だよ!」
「私だって・・・こんなこと嫌ですよ。ですが、従わないと妹が・・・」
まだ幼いアレクにもわかっていた。ステファンが好き好んで自分の殺害を目論むことなどしないことを。だか妹を人質に捕られたステファンの立場では、ヨゼフィーネからの理不尽な命令に逆らうことなどできないことを。そして同時に、今まで散々ヨゼフィーネから嫌がらせを受けたが、それだけでは飽き足らず、遂には自分の存在さえ許せなくなっているのかという、ヨゼフィーネに対し怒りを覚えていた。とはいえ、今はアレクはどうにか抵抗しなければならない。相手は自分の剣術指南役、勝てないとわかっていても、アレクは机に立てていた自分の剣を手に取り、ステファンに向けて剣を構えていた。
「アレク様、無駄ですよ。」
「くっ!」
アレクの中では様々さな思いが交差していた。死にたくないという思い。ステファンと戦いたくないという思い。だけど自分が死なないとステファンの妹の命が危ないということ。
自分が存在するだけで、兄上の王位継承の妨げになっているのではという疑問、そのせいでヨゼフィーネから執拗に嫌がらせを受けていることなど・・・
『あれ・・・そうだよ・・・僕は・・・必要とされていない?生きてるだけで、結局先生や妹さんにも迷惑かけてしまって・・・生きてる意味・・・ある?』
そんなことを考えていたら、アレクはステファンと交戦する気がなくなり、むしろ殺された方がいいのかもしれないと、諦めてしまったのだ。そんな気持ちが構えにも出てしまい、ステファンに向けられていた剣先は床に落ちてしまった。そしてその隙に、
「甘いお方だ・・・・」
ステファンは間合いを一瞬で詰め、アレクを目掛けて剣を振り下ろした。
そこでアレクは意識を手放した。
「!」
アレクは何かの気配で目を覚ました。何かはわからない。ただ自分にとってよくないこと、ということだけはわかった。目を覚ましたが、アレクは横向きに寝ていた姿勢のままジッと動かず、あくまで寝たふりを続けていた。自分の背後に、ベッドのそばに誰かがいるのがわかった。そしてそれはアレクを目掛けて何かを振り下ろした。アレクはすぐ様それに気が付き、慌ててベッドから這い出た。
「誰だ?!!」
夜ではあったものの、部屋の明かりは少し目をこらせばわかる程度であったが、見えない訳ではなかった。ベッドの傍にいた人物は、アレクには到底信じられない場景だった。ちょうどその時、雲間から月が出てきて、月明りが窓から差してその人物を照らしていた。
「え・・・・?!」
アレクが驚くのも無理はない。
「せ・・んせい?」
アレクを狙ったのはステファンだったのだから。
「すまない・・・アレク様・・・・」
ステファンは泣きそうな表情をアレクに向けてはいたが、ベッドから引き抜いた剣の構えをとくことはなかった。
「どうして、先生・・・が・・・?」
「そうだね。私もまさか自分がこんなことをするなど、夢にも思わなかったよ。」
「だったらなぜ?!」
アレクは声を荒げた。
「私には妹がいます。悔しいですけどね、そこを第二夫人に狙われました。」
「?!まさか・・・」
「アレク様、そのまさかですよ。私の妹が人質にされてしまった。妹は平民ですからね。お貴族様が妹を連れ去ることなど、造作もないのでしょう。本当にこんなことがなければ、私はアレク様のお目付け役として、ラムレス様からの命令を遂行しただろうに・・・本当に残念です。」
皮肉にそう言ったステファンの表情は、自虐的だった。ステファンなりに苦渋の決断をしたことは明白だった。
「先生!!こんなの嫌だよ!」
「私だって・・・こんなこと嫌ですよ。ですが、従わないと妹が・・・」
まだ幼いアレクにもわかっていた。ステファンが好き好んで自分の殺害を目論むことなどしないことを。だか妹を人質に捕られたステファンの立場では、ヨゼフィーネからの理不尽な命令に逆らうことなどできないことを。そして同時に、今まで散々ヨゼフィーネから嫌がらせを受けたが、それだけでは飽き足らず、遂には自分の存在さえ許せなくなっているのかという、ヨゼフィーネに対し怒りを覚えていた。とはいえ、今はアレクはどうにか抵抗しなければならない。相手は自分の剣術指南役、勝てないとわかっていても、アレクは机に立てていた自分の剣を手に取り、ステファンに向けて剣を構えていた。
「アレク様、無駄ですよ。」
「くっ!」
アレクの中では様々さな思いが交差していた。死にたくないという思い。ステファンと戦いたくないという思い。だけど自分が死なないとステファンの妹の命が危ないということ。
自分が存在するだけで、兄上の王位継承の妨げになっているのではという疑問、そのせいでヨゼフィーネから執拗に嫌がらせを受けていることなど・・・
『あれ・・・そうだよ・・・僕は・・・必要とされていない?生きてるだけで、結局先生や妹さんにも迷惑かけてしまって・・・生きてる意味・・・ある?』
そんなことを考えていたら、アレクはステファンと交戦する気がなくなり、むしろ殺された方がいいのかもしれないと、諦めてしまったのだ。そんな気持ちが構えにも出てしまい、ステファンに向けられていた剣先は床に落ちてしまった。そしてその隙に、
「甘いお方だ・・・・」
ステファンは間合いを一瞬で詰め、アレクを目掛けて剣を振り下ろした。
そこでアレクは意識を手放した。
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