上 下
26 / 54

第二十五話

しおりを挟む
 パンパン__

 「はぁーやっぱりこういう場所には出るわよねー」
 「うん、俺も逃げてる時、こういう奴ら見たことあるよ。けどこっちが見付けただけだから、絡まれないですんだけど。」  
 「ま、どのみち準備運動にもならんな。ゴキュゴキュ」
 
 ここは、国境にあるブ-ルセル山で、アーレンベック共和国とクライブ王国を結ぶ山道であった。
 その道中の途中で、レイリア達は立ち回りを終え、パンパンと手を払っていた。ヴァンに至っては見知らぬ寝転がった男の腰あたりを椅子代わりに座りながら、持ってきている水筒の水をゴクゴクと飲んでいた。アレクはキョロキョロと他に打ち漏れがないかと見回して確認していた。

 レイリア達の周りには十名以上のならず者らしき男たちが、気絶かもしくは痛みに悶え苦しんで全員もれなく倒れていた。そして意識のある者たちは後悔していた。
  
 『なんだよ!女とじじいとガキって話が、中身が普通じゃねぇじゃねぇか!!』
 『あれは・・・ヴァンデル・ブロームじゃねぇか!話が全然違う!!じじいはじじいでも、元ギルドマスターじゃただのじじいじゃねぇだろ!』
 『ガキもガキのくせに強ぇえし!どうなってんだよ!!』
 『女の方なんか鼻歌まじりで、のされちっまたのに!』

 
 山道でレイリアたち一行を襲ってきたのは、バルミング伯爵が雇ったならず者達だった。依頼対象者の大まかすぎる特徴だけを聞き、またバルミング伯爵もさほど詳しく調べていなかったため「亜麻色の髪の紫の瞳の若い女と老人と子供の三人組」としか聞いていなかったのだ。
 しかしさほど詳しく調べていなかったのには、バルミング伯爵夫妻なりに一応理由はあったのだが、それはまた後ほどわかることになる。

 「人間相手の立ち回りは、あんまりしたことなかったから、勉強になったわ!」
 「おいおい、この程度のやつらで勉強になったとはいわんだろ」
 「・・・あら、それもそうね。」

 『『『『!!』』』』
 
 それを聞いていたならず者たちは、少なからずショックを受けていた。    
 
 「俺は勉強になったよ!」

 『『『『少年ありがとう!』』』』

 アレクの前向きなセリフにならず者たちはちょっと救われた!

 「アレクは優しいのねー」
 「へへっ」

 レイリアはいつものようにアレクの頭を良い子とばかりに撫でていた。





 クライブ王国への道のりは、アーレンベック共和国から王都までは馬で走って丸一日ほどかかるほどの距離だ。二つの国は隣国で、国境にはブールセル山があった。そのため、道のりの大半は山道がほとんどであった。とはいえ、二つの国は貿易の交流があるため、馬車が通れるくらいは整備されている。 

 「よーし、今日はこの辺りで野宿でもするか」
 「「さんせーい」」 
 
 夕方になったので、ここで一晩過ごすことにした。野宿するのにちょうどいい拓けた場所があり、そこにテントを構えることにした。乗ってきた馬達はすぐ近くの川の浅瀬で水を飲ませていた。ちなみに馬は二頭で、まだ乗馬が不慣れなアレクはレイリアと二人乗りだった。 

 「結局、あの後は特に何もなかったわねー」
 「そんな頻繁にごろつき共がウロウロされてても困るけどな。めんどくせぇし」
 「♪」

 少し暗くなってきた頃、テント前では焚き火をし、川で釣った魚を焼き、持ってきていたパンや干した肉・野菜などを簡単にスープなどにして三人は早めの夕飯をしていたが、中でもアレクは嬉しそうだった。

 「アレクなんだか嬉しそうね?何かあったの?」
 「あーえっとさ。」

 ポリポリと頬を掻いて照れくさそうにしたアレクは話を続けた。

 「俺さ、リアねぇさんに会うまで必死で逃げ回ってきたからさ。こういうちゃんとした野宿ってしたことなかったから、なんか新鮮で、楽しいなって・・・」

 レイリアとヴァンはそれを聞いて、ショックを受けた。

 『そっか、そうだよね。逃げて来たって言ってたもん。わかってたけど、こういう場所を掻い潜ってきたのよね・・・』

 レイリアはそれを聞いて、改めてアレクの境遇に同情していた。そしてヴァンはいきなりアレクの肩を組むと、焚き火の前に刺してあった焼き魚の串をとり、それをずずっずいっとアレクの前に差し出した。

 「アレク、食え!!」
 「え?」
 「いいか、俺が必ずアレク強くしてやる!だから食え!!」
 「えっと食べてるけど?」
 「バカやろう!前から思ってたがお前さんは男のくせに小食すぎる!!本当に強くなりたかったのなら、たくさん食べて身体を作らねぇとな!」
 
 今では初対面時の『小僧』呼びはなくなっていた。アレクはあれから鍛錬して、短剣を的のど真ん中に当てられたからだ。ヴァンは約束通り、その後はちゃんとアレクと名前を呼んでいる。

 「小食じゃ・・・だめなのかな?」
 「あったり前だろ!アレク!お前そんなんじゃリアよりもおっきくなれねぇぞ!」
 「!!!」
 「やだ、じっちゃんそんなわけ・・・」
 
 ムシャムシャムシャ!

 アレクはそれを聞くなり、急に焼き魚にがっつき始めた。
 
 「えーと、アレク?」
 「俺・・・ムシャムシャ リアねぇさんより絶対でっかくなる!!ムシャムシャてかならないと!!」
 「そ、それはわかったけど、食べながら喋るのは行儀が悪いからやめようね・・・」
 「!!!」

 レイリアに注意されたアレクは喉につまった。

 「げほっげほっ!」
 「あーもう何やってるの。」

 レイリアは水筒を差し出した。

 ゴクゴクゴク
 アレクはすごい勢いで飲み、そして落ち着いてから、真剣な顔で話しだした。

 「あの・・・」
 「ん?」
 「今回のリアねぇさんのことが解決したら、俺話したいんだ。」
 「話?」

 レイリアはピンっとこなかったが、ヴァンには何のことかわかっていた。

 「・・・・お前さんがなんで逃げてきたってことをか?」
 「・・・アレクいいの?それ聞いちゃっても」
 「うん。というか、黙ってるのしんどくってさ。」

 レイリアもヴァンも今はそれ以上深くは聞かなかった。

 「わかった。アレクが話したいときに話してね。」
 「うん。もし聞いてその時は、また決めてくれたらいいから。」
 「決める?」
 「うん!」

 アレクはなぜか意味深なことをいい、そしてなぜか吹っ切ったような、それでいて少し寂し気な笑顔だったのが、レイリアは気になっていた。

 その様子をヴァンは口を放むことなく、静観していた。


 そうしてテントでの一夜は空け、クライブ王国への道のりを再開した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...