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218:ローエングリン家の一悶着~③~
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「俺がセレスティア以外に行くことぜってぇねぇから。」
カイエルはもう一度言った。
「な・・・どうして、そう言い切れるんですか?!」
ソフィアは納得がいかないとばかり悲痛な面様で、カイエルに聞いた。
「んー?だって・・・」
カイエルはセレスティアに向き合い、熱のこもった目でセレスティアを見て、彼女の頬に手を添えた。その仕草にセレスティアはドキっとした。
「セレスティアは俺の唯一無二の存在だ。何人たりとも、俺達の間に入る隙間なんざない。」
セレスティアはそれを言われた瞬間、顔が真っ赤になった。二人きりの時ならいざ知らず、今は家族の前だったので、余計に恥ずかしかったのだ。
「な、何よ!バカにして!!」
その光景を目の当たりにしたソフィアは、その場にいるのはいたたまれず、サロンから飛び出して行った。残った一同はあまりの唐突な出来事に面を食らっていたが、セレスティアは我に返った。
「そういえば、あの子、何かあったから帰ってきたのではなかったかしら?」
「確かに。ドアの前でそんなことを言っていたな。」
セレスティアの言葉にディーンも同調した。
セレスティアは先程のソフィアの言葉を思い返し、ソフィアが去ったドアをジッと見つめていた。
ソフィアはローエングリン邸の庭の木陰で泣いていた。いろいろなことが入り混じって感情が不安定になっていたのだ。セレスティア達の思った通り、ソフィアは何かあったから、実家に帰ってきたのだ。
ソフィアが嫁いだパトリクソン家は、侯爵の爵位を持つ家であった。爵位はパトリクソン家が格上ではあったが、これには理由があった。ローエングリン家が女竜騎士を排出した家、ということでローエングリン家は貴族の間では、注目を浴びる存在になっていた。そのために縁談話が、実はセレスティアが知らない間にこぞって申し込みがあったのだ。竜騎士は五年縛りがあるものの、それでも待つといった声もあったのだ。しかし当のセレスティアにはカイエルが既に親(セスのみ)公認になっていたこともあり、セスはセレスティアの耳に入れることはしなかった。そして妹であったソフィアは、その縁談話をあやかることになり、数あるお見合い話の中、母ジョアンナの厳選の結果、パトリクソン家に白羽の矢が当たったのだ。
そしてソフィアはお見合い結婚をすることになった。ソフィアは、カイエルの思いを消しきれることはできなかったものの、夫になったニコラス・パトリクソンは外見こそ華やかさを持っている訳ではなかったが、穏やかな人柄には、好感を持てるものだった。それ故、夫婦仲は思った以上に良好な関係を築けていた。ソフィアもカイエルのことは、淡い恋の思い出として消化できそうだった。
しかし一つだけ不安要素があった。それはソフィアの姑に当たる、キャリーナの存在であった。つまりは嫁いびりをされていたのだ。はじめこそは、たまに会う時に嫌味を言われる程度ですんでいたのだが、ここ最近はその頻度が上がっていた。今ではわざわざソフィアの元に出向いて、嫌味を言ってくるようになっていたのだ。理由はソフィアがまだ子供を生んでいなかったからである。
嫡男であるニコラスに嫁いだソフィアは、当然跡継ぎを切望される。だが、まだ妊娠していないソフィアは、初めの2年ほどは新婚ということで、子供について言及されることはなかったのだが、結婚3年目に突入すると、跡継ぎはまだかと催促されるようになっていた。
それに言われるまでもなく、ソフィア自身も焦っていたが、夫であるニコラスは、
「こういうことは自然に任せればいい。気にしなくていいんだよ。」
と、優しい言葉をかけてくれるのは救いであった。
しかしそれでも義母キャリーナの言う嫌味には、聞くに堪えないものばかりで、
「あらあら、そのドレスは何なのかしら?センスを疑うわね。かりにもパトリクソン侯爵家に嫁いでいるのですから、もう少し着るものは考えてもらわないと。」
「いやだわ。こんなことも知らないの?お里が知れるわね。どんな教育を受けてきたのやら。」
「あら~?もう三年にもなるのに、まだできないのかしら?」
「とんだ外れだったわね、まさか石女遣わされるとは。」
難癖からデリケートな内容まで、だんだんと悪化していった。
今日ローエングリン家に急に帰ってきたのも、ついに嫌味に耐えかね、実家に愚痴を聞いてもらうために急遽訪れたのだった。だが帰ってみれば母ジョアンナは外出で不在だった。
しかしソフィアは居ても立っても居られず、父セスと兄のディーンだけでも話を聞いてもらおうと、不躾ながらもサロンに入ってきたのだ。だがそこでまさかの再会だった。せっかくしぼんできた思いが、もう会えないと思っていたカイエルに会えたことで再燃しそうになった。とはいえ結局カイエルの拒絶により、ソフィアはただでさえ、気持ちが参っていたところに、さらに追い討ちをかけることになってしまったのだが。
「何よ!私だって、本当は好きな人と結婚したかったわよ!なのになんで私が毎日あの女に嫌味を言われなくちゃいけないのよ!なんで私だけがこんな目に会わなきゃいけないの?!」
ソフィアは悲しみと怒りで、心の中で思っていることをそのまま口に出していた。
「ふーん、私には随分な物言いだったと思うけど、自分がその立場だとかなり打たれ弱いのね?」
「!!」
ソフィアはその声を聞いて驚いた。今この中で一番会いたくなかったセレスティアだったからである。
カイエルはもう一度言った。
「な・・・どうして、そう言い切れるんですか?!」
ソフィアは納得がいかないとばかり悲痛な面様で、カイエルに聞いた。
「んー?だって・・・」
カイエルはセレスティアに向き合い、熱のこもった目でセレスティアを見て、彼女の頬に手を添えた。その仕草にセレスティアはドキっとした。
「セレスティアは俺の唯一無二の存在だ。何人たりとも、俺達の間に入る隙間なんざない。」
セレスティアはそれを言われた瞬間、顔が真っ赤になった。二人きりの時ならいざ知らず、今は家族の前だったので、余計に恥ずかしかったのだ。
「な、何よ!バカにして!!」
その光景を目の当たりにしたソフィアは、その場にいるのはいたたまれず、サロンから飛び出して行った。残った一同はあまりの唐突な出来事に面を食らっていたが、セレスティアは我に返った。
「そういえば、あの子、何かあったから帰ってきたのではなかったかしら?」
「確かに。ドアの前でそんなことを言っていたな。」
セレスティアの言葉にディーンも同調した。
セレスティアは先程のソフィアの言葉を思い返し、ソフィアが去ったドアをジッと見つめていた。
ソフィアはローエングリン邸の庭の木陰で泣いていた。いろいろなことが入り混じって感情が不安定になっていたのだ。セレスティア達の思った通り、ソフィアは何かあったから、実家に帰ってきたのだ。
ソフィアが嫁いだパトリクソン家は、侯爵の爵位を持つ家であった。爵位はパトリクソン家が格上ではあったが、これには理由があった。ローエングリン家が女竜騎士を排出した家、ということでローエングリン家は貴族の間では、注目を浴びる存在になっていた。そのために縁談話が、実はセレスティアが知らない間にこぞって申し込みがあったのだ。竜騎士は五年縛りがあるものの、それでも待つといった声もあったのだ。しかし当のセレスティアにはカイエルが既に親(セスのみ)公認になっていたこともあり、セスはセレスティアの耳に入れることはしなかった。そして妹であったソフィアは、その縁談話をあやかることになり、数あるお見合い話の中、母ジョアンナの厳選の結果、パトリクソン家に白羽の矢が当たったのだ。
そしてソフィアはお見合い結婚をすることになった。ソフィアは、カイエルの思いを消しきれることはできなかったものの、夫になったニコラス・パトリクソンは外見こそ華やかさを持っている訳ではなかったが、穏やかな人柄には、好感を持てるものだった。それ故、夫婦仲は思った以上に良好な関係を築けていた。ソフィアもカイエルのことは、淡い恋の思い出として消化できそうだった。
しかし一つだけ不安要素があった。それはソフィアの姑に当たる、キャリーナの存在であった。つまりは嫁いびりをされていたのだ。はじめこそは、たまに会う時に嫌味を言われる程度ですんでいたのだが、ここ最近はその頻度が上がっていた。今ではわざわざソフィアの元に出向いて、嫌味を言ってくるようになっていたのだ。理由はソフィアがまだ子供を生んでいなかったからである。
嫡男であるニコラスに嫁いだソフィアは、当然跡継ぎを切望される。だが、まだ妊娠していないソフィアは、初めの2年ほどは新婚ということで、子供について言及されることはなかったのだが、結婚3年目に突入すると、跡継ぎはまだかと催促されるようになっていた。
それに言われるまでもなく、ソフィア自身も焦っていたが、夫であるニコラスは、
「こういうことは自然に任せればいい。気にしなくていいんだよ。」
と、優しい言葉をかけてくれるのは救いであった。
しかしそれでも義母キャリーナの言う嫌味には、聞くに堪えないものばかりで、
「あらあら、そのドレスは何なのかしら?センスを疑うわね。かりにもパトリクソン侯爵家に嫁いでいるのですから、もう少し着るものは考えてもらわないと。」
「いやだわ。こんなことも知らないの?お里が知れるわね。どんな教育を受けてきたのやら。」
「あら~?もう三年にもなるのに、まだできないのかしら?」
「とんだ外れだったわね、まさか石女遣わされるとは。」
難癖からデリケートな内容まで、だんだんと悪化していった。
今日ローエングリン家に急に帰ってきたのも、ついに嫌味に耐えかね、実家に愚痴を聞いてもらうために急遽訪れたのだった。だが帰ってみれば母ジョアンナは外出で不在だった。
しかしソフィアは居ても立っても居られず、父セスと兄のディーンだけでも話を聞いてもらおうと、不躾ながらもサロンに入ってきたのだ。だがそこでまさかの再会だった。せっかくしぼんできた思いが、もう会えないと思っていたカイエルに会えたことで再燃しそうになった。とはいえ結局カイエルの拒絶により、ソフィアはただでさえ、気持ちが参っていたところに、さらに追い討ちをかけることになってしまったのだが。
「何よ!私だって、本当は好きな人と結婚したかったわよ!なのになんで私が毎日あの女に嫌味を言われなくちゃいけないのよ!なんで私だけがこんな目に会わなきゃいけないの?!」
ソフィアは悲しみと怒りで、心の中で思っていることをそのまま口に出していた。
「ふーん、私には随分な物言いだったと思うけど、自分がその立場だとかなり打たれ弱いのね?」
「!!」
ソフィアはその声を聞いて驚いた。今この中で一番会いたくなかったセレスティアだったからである。
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