【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん

文字の大きさ
上 下
28 / 233

27:イシュタルという女

しおりを挟む
 「やぁ、待ってたよ。」

 ユージィンはいい笑顔で、ドアを開けるなり開口一番そう言ってのけた。






 セレスティアは、あれから卒業パーティを後にした。兄と一緒に帰宅後は早々と着替え、邸宅を抜け出した。

 馬を駆り、急いでユージィンの住む家に向かった。ユージィンの家は住宅街から少し離れたところにあり、飛竜と同居するにあたって人気の少ないところに居を構えていた。セレスティアがユージィンの家に近くまで来くると、カイエルと合流することができた。
 ユージィンの住処は独り暮らし故、セレスティアの実家よりは当然こじんまりとした造りにはなっているが、それでも充分な広さや部屋数もあり、そしてやたら庭が広いのが特徴だった。飛竜と暮らす上で、室内飼いは土台無理なので、広い庭は絶対条件なのだ。
 ユージィンの家に急遽深夜訪問となってしまい、恐縮していたセレスティアであったが、出迎えたユージィンの発言は、まるで彼女の行動を見越しているかのようであった。

 「え?叔父様、私が訪問することわかってたの?」

 「うーん、まぁさっきね。多分来るだろうなーと。」

 「あ、またイールね!イールが何かを気付いてくれたんでしょう?」

 「ふふ、当たり。」

 「流石イールね!」

 セレスティアはイールには幼い頃に助けられたことが何度もあるので、今回もその能力で、イールはきっと何かをまた感じ取ってくれらのだろうと、納得した。

 「でも、夜分遅くに本当にごめんなさい。だけど叔父様でなければ相談できない案件だったから・・・。」

 「ふふ、話は奥で聞くよ。さ、入って。お連れさんも一緒にどうぞ。」

 「ありがとう叔父様。ではお邪魔します。」

 セレスティアとカイエルはユージィンの促され、家の中に入った。

 「その前に僕も紹介したい女性がいるんだ。」

 「え?!女性って?」

 女性と聞いて、こんな夜の遅い時間にいるのだ、セレスティアはユージィンについに恋人ができたのだと思い、

 「もしかして、叔父様のいい人?」

 ユージィンは結婚せず、この年までずっと独身だったため、実は不能だの、男が好きだのと陰でいろいろ言われていた。そんな噂をセレスティアも知っていたがユージィンは飛竜を特に大事にしていたので、飛竜に入れ込んでいるからだろうと、セレスティアは特に気にしていなかったのだが、これには驚いた。

 「当たり。」

 「ま、まぁ!叔父様ついになのね、おめでとう!」

 「ふふ、まずはそのまま奥のサロンに入ってくれ。」
 
 いつの間にユージィンに恋人がいたとはと、セレスティアは自分の置かれた状況も忘れて嬉しくなった。セレスティアとカイエルはユージィン宅のサロンに通された。そこは窓から広い庭に直結していて、開放感があった。とはいえ、今は闇夜であるから景色はほぼ見えない。そして、サロンには一人の女がソファに座っていた。女はサロンに人が入ってきたことがわかると、立ち上がり振り向いた。
 
 その女は、豪華な長いウェーブのかかった赤毛に切れ長の金色の目をもつ、豊満な胸に肉感的なスタイルを持つ妖艶な美女であった。身体の線にピッタリなロングドレスが彼女の魅力をさらに引き立てていた。ユージィンは美丈夫で有名だが、そのユージィンに並んでも全く見劣りしない美女だったのだ。セレスティアは相手が女性だというのに、見惚れてしまった。女はセレスティアの傍まできて、少し笑みを浮かべながら声をかけた。

 「うふふ、イシュタルよ。よろしくね。」

 「・・・・・・?」

 セレスティアは、イシュタルと名乗る女性に何かしらの初対面ではないようなものを一瞬感じたが、気のせいかな、と思うようにした。

 「あの、初めまして。私はユージィン叔父様の姪に当たります、セレスティア・ローエングリンと申します。」

 「えぇ、よく知ってるわ。・・・昔からね。」
 
 昔から?だがセレスティアには全く覚えがない。

 「え?もしかして小さい頃にお会いしましたか?」

 「えぇ、小さい頃から今に至るまで、何度もね。」

 「???」

 セレスティアは思い出せなかった。こんなインパクトのある凄い美人なら、忘れるはずもないのに、一体どこで会ったのだろうと。

 「くっ・・・」

 カイエルが何か言ったようで、セレスティアが顔を覗き込んだ。

 「カイエル?」

 「・・・なんだかわからねぇけど、この女見てると気分が悪い!」

 カイエルはモロに不快そうな表情と、射るような眼差しでイシュタルを見ていた。

 「ちょっと!カイエル失礼よ!」

 「うふふ、そうでしょうね。」

 だけど、イシュタルと名乗った女性は動じないどころか、賛同した。

 「ほら!こいつもこう言ってるじゃねぇか!」

 「また、そういう物の言い方をする!」

 「いいのよ、セレスティア。」

 そう言うと、イシュタルはセレスティアに優し気に制した。そして次の瞬間、カイエルに向かって、

 「だって・・・貴方をこんな目に合わせた張本人だものね。」

 「え?」

 セレスティアはイシュタルの言葉に動揺した。

 (カイエルをこんな目に合わせた調本人って、どういうこと?)

 窓を背に立つイシュタルは髪を揚げる仕草をし、妖艶さがさらに引き立っていたのだが、セレスティアはイシュタルの顔をさらによく見て気がついた。

  「瞳が、カイエルと同じ・・・」

 イシュタルの金の目の瞳孔は、カイエルと同じく縦長だったのだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...