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27:イシュタルという女
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「やぁ、待ってたよ。」
ユージィンはいい笑顔で、ドアを開けるなり開口一番そう言ってのけた。
セレスティアは、あれから卒業パーティを後にした。兄と一緒に帰宅後は早々と着替え、邸宅を抜け出した。
馬を駆り、急いでユージィンの住む家に向かった。ユージィンの家は住宅街から少し離れたところにあり、飛竜と同居するにあたって人気の少ないところに居を構えていた。セレスティアがユージィンの家に近くまで来くると、カイエルと合流することができた。
ユージィンの住処は独り暮らし故、セレスティアの実家よりは当然こじんまりとした造りにはなっているが、それでも充分な広さや部屋数もあり、そしてやたら庭が広いのが特徴だった。飛竜と暮らす上で、室内飼いは土台無理なので、広い庭は絶対条件なのだ。
ユージィンの家に急遽深夜訪問となってしまい、恐縮していたセレスティアであったが、出迎えたユージィンの発言は、まるで彼女の行動を見越しているかのようであった。
「え?叔父様、私が訪問することわかってたの?」
「うーん、まぁさっきね。多分来るだろうなーと。」
「あ、またイールね!イールが何かを気付いてくれたんでしょう?」
「ふふ、当たり。」
「流石イールね!」
セレスティアはイールには幼い頃に助けられたことが何度もあるので、今回もその能力で、イールはきっと何かをまた感じ取ってくれらのだろうと、納得した。
「でも、夜分遅くに本当にごめんなさい。だけど叔父様でなければ相談できない案件だったから・・・。」
「ふふ、話は奥で聞くよ。さ、入って。お連れさんも一緒にどうぞ。」
「ありがとう叔父様。ではお邪魔します。」
セレスティアとカイエルはユージィンの促され、家の中に入った。
「その前に僕も紹介したい女性がいるんだ。」
「え?!女性って?」
女性と聞いて、こんな夜の遅い時間にいるのだ、セレスティアはユージィンについに恋人ができたのだと思い、
「もしかして、叔父様のいい人?」
ユージィンは結婚せず、この年までずっと独身だったため、実は不能だの、男が好きだのと陰でいろいろ言われていた。そんな噂をセレスティアも知っていたがユージィンは飛竜を特に大事にしていたので、飛竜に入れ込んでいるからだろうと、セレスティアは特に気にしていなかったのだが、これには驚いた。
「当たり。」
「ま、まぁ!叔父様ついになのね、おめでとう!」
「ふふ、まずはそのまま奥のサロンに入ってくれ。」
いつの間にユージィンに恋人がいたとはと、セレスティアは自分の置かれた状況も忘れて嬉しくなった。セレスティアとカイエルはユージィン宅のサロンに通された。そこは窓から広い庭に直結していて、開放感があった。とはいえ、今は闇夜であるから景色はほぼ見えない。そして、サロンには一人の女がソファに座っていた。女はサロンに人が入ってきたことがわかると、立ち上がり振り向いた。
その女は、豪華な長いウェーブのかかった赤毛に切れ長の金色の目をもつ、豊満な胸に肉感的なスタイルを持つ妖艶な美女であった。身体の線にピッタリなロングドレスが彼女の魅力をさらに引き立てていた。ユージィンは美丈夫で有名だが、そのユージィンに並んでも全く見劣りしない美女だったのだ。セレスティアは相手が女性だというのに、見惚れてしまった。女はセレスティアの傍まできて、少し笑みを浮かべながら声をかけた。
「うふふ、イシュタルよ。よろしくね。」
「・・・・・・?」
セレスティアは、イシュタルと名乗る女性に何かしらの初対面ではないようなものを一瞬感じたが、気のせいかな、と思うようにした。
「あの、初めまして。私はユージィン叔父様の姪に当たります、セレスティア・ローエングリンと申します。」
「えぇ、よく知ってるわ。・・・昔からね。」
昔から?だがセレスティアには全く覚えがない。
「え?もしかして小さい頃にお会いしましたか?」
「えぇ、小さい頃から今に至るまで、何度もね。」
「???」
セレスティアは思い出せなかった。こんなインパクトのある凄い美人なら、忘れるはずもないのに、一体どこで会ったのだろうと。
「くっ・・・」
カイエルが何か言ったようで、セレスティアが顔を覗き込んだ。
「カイエル?」
「・・・なんだかわからねぇけど、この女見てると気分が悪い!」
カイエルはモロに不快そうな表情と、射るような眼差しでイシュタルを見ていた。
「ちょっと!カイエル失礼よ!」
「うふふ、そうでしょうね。」
だけど、イシュタルと名乗った女性は動じないどころか、賛同した。
「ほら!こいつもこう言ってるじゃねぇか!」
「また、そういう物の言い方をする!」
「いいのよ、セレスティア。」
そう言うと、イシュタルはセレスティアに優し気に制した。そして次の瞬間、カイエルに向かって、
「だって・・・貴方をこんな目に合わせた張本人だものね。」
「え?」
セレスティアはイシュタルの言葉に動揺した。
(カイエルをこんな目に合わせた調本人って、どういうこと?)
窓を背に立つイシュタルは髪を揚げる仕草をし、妖艶さがさらに引き立っていたのだが、セレスティアはイシュタルの顔をさらによく見て気がついた。
「瞳が、カイエルと同じ・・・」
イシュタルの金の目の瞳孔は、カイエルと同じく縦長だったのだ。
ユージィンはいい笑顔で、ドアを開けるなり開口一番そう言ってのけた。
セレスティアは、あれから卒業パーティを後にした。兄と一緒に帰宅後は早々と着替え、邸宅を抜け出した。
馬を駆り、急いでユージィンの住む家に向かった。ユージィンの家は住宅街から少し離れたところにあり、飛竜と同居するにあたって人気の少ないところに居を構えていた。セレスティアがユージィンの家に近くまで来くると、カイエルと合流することができた。
ユージィンの住処は独り暮らし故、セレスティアの実家よりは当然こじんまりとした造りにはなっているが、それでも充分な広さや部屋数もあり、そしてやたら庭が広いのが特徴だった。飛竜と暮らす上で、室内飼いは土台無理なので、広い庭は絶対条件なのだ。
ユージィンの家に急遽深夜訪問となってしまい、恐縮していたセレスティアであったが、出迎えたユージィンの発言は、まるで彼女の行動を見越しているかのようであった。
「え?叔父様、私が訪問することわかってたの?」
「うーん、まぁさっきね。多分来るだろうなーと。」
「あ、またイールね!イールが何かを気付いてくれたんでしょう?」
「ふふ、当たり。」
「流石イールね!」
セレスティアはイールには幼い頃に助けられたことが何度もあるので、今回もその能力で、イールはきっと何かをまた感じ取ってくれらのだろうと、納得した。
「でも、夜分遅くに本当にごめんなさい。だけど叔父様でなければ相談できない案件だったから・・・。」
「ふふ、話は奥で聞くよ。さ、入って。お連れさんも一緒にどうぞ。」
「ありがとう叔父様。ではお邪魔します。」
セレスティアとカイエルはユージィンの促され、家の中に入った。
「その前に僕も紹介したい女性がいるんだ。」
「え?!女性って?」
女性と聞いて、こんな夜の遅い時間にいるのだ、セレスティアはユージィンについに恋人ができたのだと思い、
「もしかして、叔父様のいい人?」
ユージィンは結婚せず、この年までずっと独身だったため、実は不能だの、男が好きだのと陰でいろいろ言われていた。そんな噂をセレスティアも知っていたがユージィンは飛竜を特に大事にしていたので、飛竜に入れ込んでいるからだろうと、セレスティアは特に気にしていなかったのだが、これには驚いた。
「当たり。」
「ま、まぁ!叔父様ついになのね、おめでとう!」
「ふふ、まずはそのまま奥のサロンに入ってくれ。」
いつの間にユージィンに恋人がいたとはと、セレスティアは自分の置かれた状況も忘れて嬉しくなった。セレスティアとカイエルはユージィン宅のサロンに通された。そこは窓から広い庭に直結していて、開放感があった。とはいえ、今は闇夜であるから景色はほぼ見えない。そして、サロンには一人の女がソファに座っていた。女はサロンに人が入ってきたことがわかると、立ち上がり振り向いた。
その女は、豪華な長いウェーブのかかった赤毛に切れ長の金色の目をもつ、豊満な胸に肉感的なスタイルを持つ妖艶な美女であった。身体の線にピッタリなロングドレスが彼女の魅力をさらに引き立てていた。ユージィンは美丈夫で有名だが、そのユージィンに並んでも全く見劣りしない美女だったのだ。セレスティアは相手が女性だというのに、見惚れてしまった。女はセレスティアの傍まできて、少し笑みを浮かべながら声をかけた。
「うふふ、イシュタルよ。よろしくね。」
「・・・・・・?」
セレスティアは、イシュタルと名乗る女性に何かしらの初対面ではないようなものを一瞬感じたが、気のせいかな、と思うようにした。
「あの、初めまして。私はユージィン叔父様の姪に当たります、セレスティア・ローエングリンと申します。」
「えぇ、よく知ってるわ。・・・昔からね。」
昔から?だがセレスティアには全く覚えがない。
「え?もしかして小さい頃にお会いしましたか?」
「えぇ、小さい頃から今に至るまで、何度もね。」
「???」
セレスティアは思い出せなかった。こんなインパクトのある凄い美人なら、忘れるはずもないのに、一体どこで会ったのだろうと。
「くっ・・・」
カイエルが何か言ったようで、セレスティアが顔を覗き込んだ。
「カイエル?」
「・・・なんだかわからねぇけど、この女見てると気分が悪い!」
カイエルはモロに不快そうな表情と、射るような眼差しでイシュタルを見ていた。
「ちょっと!カイエル失礼よ!」
「うふふ、そうでしょうね。」
だけど、イシュタルと名乗った女性は動じないどころか、賛同した。
「ほら!こいつもこう言ってるじゃねぇか!」
「また、そういう物の言い方をする!」
「いいのよ、セレスティア。」
そう言うと、イシュタルはセレスティアに優し気に制した。そして次の瞬間、カイエルに向かって、
「だって・・・貴方をこんな目に合わせた張本人だものね。」
「え?」
セレスティアはイシュタルの言葉に動揺した。
(カイエルをこんな目に合わせた調本人って、どういうこと?)
窓を背に立つイシュタルは髪を揚げる仕草をし、妖艶さがさらに引き立っていたのだが、セレスティアはイシュタルの顔をさらによく見て気がついた。
「瞳が、カイエルと同じ・・・」
イシュタルの金の目の瞳孔は、カイエルと同じく縦長だったのだ。
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