【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん

文字の大きさ
上 下
21 / 233

20:卒業プロムの準備~後編~

しおりを挟む
 セレスティアは兄ディーンにプロムのエスコートをお願いしようと、実家に帰宅した。すると、兄からも話があると言われ、ガゼボで兄ディーンとテーブルを挟みお茶をすることになった。主に聞かれたくない話の時は、ここでお茶をするのが、兄妹の暗黙の了解となっていた。庭の中にあるのだが、聞き耳を立てられにくい構造なので、聞かれたくない話をするには絶好の場所だったのだ。

 そして、兄から言われた言葉に耳を疑った。

 「・・・兄さま、えーとごめんなさい。私の聞き間違いじゃないかしら?」

 「聞き間違いではないよ。フェルディナント王子がセレスの卒業プロムのパートナーを希望されている。」 

  フェルディナント王子はフェリス王国の第二王子で、ディーンはこの王子の近衛騎士をしているため、直接話を受けたのだ。

 「・・・・・」

  セレスティアは本当に聞き間違いならよかったのに、と思ったのだが、やはり聞き間違いではなかったようだ。セレスティアは紅茶を啜り、

 「どうして、そんな話に?」

 「そりゃ、王国初の女性竜騎士だ。言い方は悪いけれど、物珍しいだろう?」

 ディーンは淡々と答えた。

 「物珍しいというのは否定はしませんが・・・だけど、婚約者でもないのに、そんなことをすればいらぬ風聞を招くことになるのでは?」

 「俺もそのように意見具申はした。」

 「ですよね。」

 そつのない兄の事だ。そりゃそーか、とセレスティアも納得した。

 「そこでだ。妥協案として、ダンスで何とか手を打つことはできたんだ。さすがにプロムで婚約者でもないセレスのエスコートをするなど、どんなあらぬ噂が立つかわからんからな。お前のことだ。気が進まないことは聞かなくてもわかってる。だが、フェルディナント王子のダンスの相手はしてもらうことになる。それを伝えたかった。」

 「・・・だから、ここで話そうと言ったのですね。」

 実は、プロムで王族とダンスすることは大変物珍しいことなのだ。王族が学校に通っていた場合や、またその婚約者が学校を卒業する際にはプロムでダンスをすることは通例であったが、セレスティアとフェルディナント王子は、同じ学校でもなければ、学年も違う。むしろ年上である王子は本来は公務の一環として臨席するだけのはずであった。そう言うわけで、ダンスをするだけでも、否が応でも注目されるのは決定事項のようなものだったのだ。

 「そういうことだ。王子云々の話題をソフィアやあの継母が聞きつけたら面倒なことになるだろう?」

 ディーンは以前はセレスティアが、ジョアンナやソフィアからぞんざいな扱いを受けて事は知らなかったが、現在では、父セスや叔父のユージィンから事情を聞いているので知っている。

 「ですね・・・」

 セレスティアは合点がいった。ディーンがガゼボでお茶しようと言ったから、きっとジョアンナやソフィアに聞かれたくない話であろうことは想像はしていたが、まさか王子が出てくるとは、と。確かにジョアンナやソフィアに聞きつけられたら。面倒になるであろうことは、想像に難しくなかった。むしろ此方は迷惑な話だというのに。

 「・・・・当日病気になってもいいですか?」

 「無駄だろう。王宮医師か治癒師を我が家に派遣されるのが目に見えている。」

 「・・・・・ちっ」

 「舌打ちするな。・・・気持ちはわかるがな。」

 「はぁ、仕方ありませんね。エスコートは何とか兄さまが食い止めてくれたようだし、ダンスだけなら、やり過ごすしかなさそうですね。」

 セレスティアは大きな溜息をした。本当ならプロムのダンスも適当にすませて早々に帰宅するつもりだったからだ。

 「すまないな。俺からの話は以上だ。」

 「わかりました。兄さま、事前にお話ししていただいてありがとうございます。カイエルにも言い聞かせて置いた方がいいので、助かります。」

 「あぁ、件の飛竜だな。どうだ調子は?」

 「ふふ、それはもう絶好調ですよ。私新人の中でもカイエルとのフィーリング度合いは一番なんですよ。」

 セレスティアはカイエルの話題になったとたんに、先ほどまでの仏頂面か途端に笑顔になって話し始めた。
 
 「普段は全然表情に出さないくせに、飛竜のこととなると途端に顔に出てるな。」

 「だって、彼は私の唯一無二のですもの。」

 ディーンはセレスティアのうっとりした様子からピンときた。

 「・・・セレス、お前独身でいるつもりだろう。」

 「はい。竜騎士になったのですから、問題ないと思っています。」

 セレスティアはあっさりと肯定した。

 「・・・そこは否定せんがな。」

 「でしょう?」

 「まぁ、それはお前の好きにしたらいい。父上も恐らく言わないだろう。だが・・・」

 「だが?」

 「父上は言葉には出さないが、セレスには子を生んで貰いたいと思ってると思うぞ。」

 「・・・・」

セレスティアは多少はそんな気はしていたので、やっぱりとは思ったが顔にも口にも出さなかった。

 「ただ単に、お前の子を抱っこしたいとか、まぁ孫が見たいとかそういう親心的なものだ。父上はセリスの事を政略結婚で嫁いで欲しいとは微塵も思ってはいないよ。それは俺も同じだしな。」

 遠まわしではあるが、要は好いた人物と結婚をして、家庭を作り子を生んで欲しいとそういうことを言っているのだろうというのはセレスティアにもよくわかった。

 「今は、そんな気は全然ないのだけど・・・そうね、もしカイエルが人にでもなってくれたなら、考えられるのにね。」

 「ほぉ~そこまで、あの飛竜に思い入れがあるのだな。まぁ叔父貴も似たようなことを言っていたのは聞いたことがあるし、竜騎士というのは、そこまでパートナーである飛竜に思い入れるのだな。」

 ディーンは、身近ににユージィンやセレスティアのような飛竜に特に入れ込む姿を見ていたので、竜騎士とは飛竜にのめり込むと結婚もしたくなくなるのだなと勘違いをしていた。補足をすると、他の竜騎士はちゃんと飛竜と結婚相手は別に考えている。

 「取りあえずは元気そうで良かったよ。話は以上だ。俺はそろそろ職場に戻らなければいけないのでな。当日のエスコートは任せておいてくれ。」

 「えぇ兄さまよろしくね。」  
 
 そうして、ディーンとは別れた。その後、カイエルには王子と踊ることになったことを、よく言い聞かせないとな、とセレスティアは考えていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

[完結]悪役令嬢様。ヒロインなんかしたくないので暗躍します

紅月
恋愛
突然の事故死の後、なんでこんなアニメか乙女ゲームのヒロインの様な子に転生してるの?しかもコイツ(自分だけど)事故物件。 家とか周りに迷惑かけない様にしようとしたら……。 可愛い悪役令嬢様とも出会い、ヒロインなんてしたくないので、私、暗躍します。

処理中です...