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77:ランスロットの過去~後編~

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 イェルク先生は、奥様が病気を煩わせてしまったので、今は冒険者としての仕事は休業して、王立学院の講師をしていると聞いていた。それに彼は言葉遣いは決していいとは言えないが、初めこそはその乱暴な口調で戸惑っていた者も、彼の人となりと、実力から悪くいう人はほとんどいなくなっていた。

___騎士科2年後

 「おいおいおい本気か?」

 「はい!俺、イェルク先生のような冒険者になりたいです!!」
  
 「いやいやいや、なぁ前に例えでは言ったけどよ、王子様だよ?冒険者だよ?」

 「俺、いろいろ考えたんです。剣=騎士ってすっかり思い込んでいたけど、先生の話を聞いて目から鱗が落ちる思いだったんです。先生に気付かせてもらいました!それに・・・」

 「それに?」

 「騎士は今の所戦争もありませんし、落ち着いていますからね、もちろん戦うだけが騎士の仕事ではありませんが、ギルドは身軽というか、国民の要望にすぐに動いている機関だと俺なりに解釈したんです。」

 「まぁ依頼があって、すぐ調査してと、流れは早いからなぁ。騎士が動くにはお役所仕事なところがあるから、対応が遅いっていっちゃあそうだけどな・・・」

 「でしょ!だから冒険者になりたいんです!」

 「そんなこと、王様が許可するわけないと思うけどねぇ・・・」

 「今は無理でも、必ず説得します!だから・・先生お願いがあるんです。」

 「うわ、なんか嫌な予感しかしねぇんだが・・・」

 「先生、協力してください!勿論悪いようにはしませんから。」

 この時、俺は悪い顔をしていたと思う。そして考えていた取引材料を提案した。

 「・・・痛いところ突くねぇ。伊達に王子様じゃないってわけか。だが、そういうの俺は嫌いじゃねぇぜ。」

イェルク先生は、ニヤリと笑った。

 

 それから、俺は偽名を使いギルドに登録したのだが、そのノウハウはイェルク先生に教えてもらった。
 ギルドは、実は訳アリが登録するのはそう珍しいことではないらしい。ただし、その発行された身分証明書、つまりはプレートになるのだが、ソレを作る際にはお手軽ではあるものの、生涯において必ず付きまとうことになるという代物だと聞いた。というのも、プレートと発行した本人を結ぶ術式が組み込まれているので、例えばギルド登録後に何かよからぬことから身バレを防ぐために、違うギルドで偽名で再登録しようとしても、初めの登録は消えていないので、そういうズルはできない仕組みらしい。

 そう言うわけで、俺の場合は、王子であるランスロットと、平民である冒険者ランベルクの2つの身分が存在することになったのだ。

 イェルク先生には、ギルドについてのノウハウと引き換えに、先生の奥様を腕のいい治癒師に診せるといったのだ。先生は愛妻家だから、この条件ならば飲んでくれると思い、そしてその通りなった。

 それからは主に学業の合間に、ギルドの依頼を『ランベルク』という名でこなしていくようになっていた。幸い、母はこの頃の俺にはさほど感心はなく、放置されていたから、バレずにすんだ。イェルク先生は、奥様の病がよくなってから、一緒にギルドで活動することも増え、約束通りいろいろと学ばせてもらった。そのおかげで、ランクは順調に上がっていった。

 ランスロット18歳 ライル14歳の頃

 「・・・はぁ。」

 「機嫌を直してくれよ、ライル。」

 「直るわけないでしょう?僕は、兄さんが騎士か文官になって、二人でこの国の政をしていくことを夢見ていたのに、まさか冒険者になっていたなんて・・・」

 ライルに冒険者になったと打ち明けた時、ライルがそれはそれは不機嫌になった。俺達は、異母兄弟ではあったが仲は良かったのだ。ライルは昔から俺に懐いていたので、悪い気はしなかった。

 「ごめん。でも俺は剣の道を極めたいんだ。それに、俺は頭を使う仕事は向いていないよ。」

「あ~もう!兄さんは自分を過小評価しすぎだよ!僕がその辺りは保証する!だからもう少し自信を持ってくれればいいのに。」

 確かに、筆記の成績は悪くない自覚はあったが・・・

 「気持ちは嬉しいけど、ダメだ。ここは魔力がモノをいう国だから。魔力の少ない俺が政に加わるのは、周りが良しとしないだろう。ライル、お前にまで迷惑をかけるのは本意じゃないんだ。」

 「兄さん・・・」

 ライルも俺の言っている意味がわかったのだろう。それ以上は何も言わなかった。
 
 そして、俺が王立学院卒業の時、ライルは真っ直ぐな目で俺に言った。

 「兄さん、いえ兄上、ご卒業おめでとうございます。」

 「あぁ、ありがとう。」

 ライルは何かを意を決したように、切り出した。

 「兄上、今すぐには難しいけれど、俺はこの国の価値観をきっと変えてみせます!今このバランドールは魔力至上ですが・・・それはそれでいい面もあるかもしれませんが、あまりに偏っています。魔力だけに拘らず、お互いをちゃんと認め合えるように、偏見のない、そんな国にしていこうと思います!」

 あぁ、ライルは・・・ずっと考えてくれていたんだな。流石だよ。やっぱり俺はお前のそういうところは敵わない。俺は、ライルの前に跪き臣下の礼をした。

 「うん。お前なら・・・いえ、ライル王太子貴方なら、きっとそんな国づくりができると確信しています。俺は・・・そんな貴方の志のお手伝いができるように、違う方向から支えていくと誓いましょう。」

 「に、兄さん!」

 ライルは泣きそうになっていた。

 「こらこら、兄上じゃなかったのか?」

 「い、今は二人だから兄さんでいいんです!」

 「勝手なやつだなぁ。」

 俺達は、偏見のない国づくりをするべく、誓い合った。


 こうして、ライルは国政そして貴族方面から、俺はそのままギルドに所属して、平民目線からの問題や現状を調査していくことになった。

 その後、父への説得はライルの弁護が功を成し、父は渋々ながら納得してくれたが、母については、性格的に受け入れられないだろうと、全員の意見が一致し、俺が冒険者をしていることは、父とライルだけの秘密となった。母には、表向きは特別外交官と報告し、遠征ではなく実際は近場でギルド活動をしていた。



 だから、シエラ王女の奪還には、素知らぬ顔でいかにも遠征に行ってきましたを装い、離宮に帰ってきたのだ。
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