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第1章 はじまりの1歩

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 ここはブリドニクっていう街の外れにある森の中らしい。聞いたことない街の名前だ。アルさんは、薬草茶や塗り薬、それからちょっとしたお薬を作っていて、時々街の雑貨屋さんに卸しにいく。その帰りにいろんな野菜やお肉なんかを買ってくる。

 アルさんとの毎日は、とても穏やかだった。



 アルさんがあたしの頭の上にポンって手を置いてくれるから、あたしの魔力の開放も少しずつ上達してきた。

 頭のてっぺんに向けて魔力をグーっと押し上げる感じ。アルさんの言う頭の印にぶつかるとぽわんって温かくなるから、そこから魔力が降り注いで体全体を覆う感じだ。



 その魔力の動きに慣れたら、今度は魔力の循環だ。

 これはちょっと難しくて、頭のてっぺんに押し上げた魔力をお尻のほうに落としてくる。それができるようになったら手足の指先にまでずっと魔力を流していく。今度は流した魔力を丁寧に全部戻してくる感じ。最初はぜんぜん魔力が落ちてこなかったけど、できるようになったら、指先に魔力を流すのはあまり時間がかからずにできた。

 今度は魔力を戻してくるのができなかった。


 魔力をもどせるようになってから、一通り循環するのに1日かかってしまった。
 でも、だんだんと1周循環させる時間が短くなってきて、しばらくすると魔力の循環もそれほど意識しないでも、ぐるぐる流れているのがわかるようになってきた。



 アルさんは、「木の枝を伸ばす感じだよ。大きい魔力の木を育てる感じだよ。枝葉がたくさん伸びた木は生命力にあふれているでしょ? そんな感じで魔力を育てて流すんだよ」って言ってくれた。

 なんとなく、わかったような気がする。大きい魔力の木を育てるぞ!!












 あたしは、自分のこと、魔王城でのこと 全部アルさんに話した。

「仲間に裏切られたんだね。つらかったね、マルルカは・・・・・・」


 仲間? 不細工でちんくしゃなあたしが、ハリーとデレクの仲間だった?
 あたしが2人と仲間だって思ったことは一度もなかった。



 裏切られた? そう思ったことも一度もなかった。

 あたしは、もう用済みなんだなぁって思っただけ・・・・・・



 あたしって何だったんだろう・・・・・・考えたこともなかった。

 ・・・・・・なんか悲しい気持ちになった。

 よくわからない。





 どこにいても、あたしの居場所はなかったような気がする。

 メザク様のところにも、ハリーとデレクのところにも・・・・・・



 アルさんがずっとここにいていいよって言ったから、ここがあたしの居場所?

 ハリーとデレクとは1年一緒にいたのに、メザク様は生まれてからずっと育ててくれたのに、あたしの帰る場所だって思えない。 あたしを殺そうとした人のところに戻りたいって思うわけない。



 魔王を倒した後、あたしはどうするつもりだったんだろう? どこに行くつもりだったんだろう?
 今は、どこかに行ったら、ここに、アルさんのところに帰りたいって思ってる。



 何が違うんだろう??



 アルさんは、あたしの魔力の歪みを取ろうとしてくれてる。



 メザク様は?  ハリーとデレクは?









 あぁ、あの人たちはあたしの中にある膨大な魔力を使うことしか考えてなかったんだ。

 あたしを見てたわけじゃなくて、魔力を利用することしか興味なかった。



 アルさんは、膨大な魔力じゃなくって、あたしを見てくれてる。



 やっとわかった。

 アルさんと、ずっと前から一緒に暮らしているような気持ちになっていた。





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