上 下
104 / 105

104: ゴーレム

しおりを挟む
「つまり、あの村出身の自警団員のリサさんが、元デリム出身者達に声をかけたら皆、今すぐにでも戻りたがってるらしいって事ね」

 1度は滅んだ村に戻りたがるというのが、私にとっては意外だった。初めは冒険者達が拠点に使うようになり、その噂を聞いた元村民や移住希望者が徐々にやってきて、難民街の人々にエルフや獣人族達には解放する力がある事を示す計画だった。

「……概ねは報告した通りです。ですが実際のところ、難民街の人の流入の増加で状況はかなり厳しいみたいですね……都市ミザレも問題を放置する方針のようですし、老人達の中にはどうせ死ぬのなら故郷の村でとまで言い出す者もいるような状況です」

 セナには自警団の団長に冒険者ギルドとの協力取り付けた旨の報告を頼んでいたのだ。

 彼女にはメッセンジャーのような役割を押し付けてしまっていたが、港湾都市ガイエスブルグの準騎士爵の娘である立場は、この一連の解放計画の明確な当事者で、彼女自身も積極的にこの面倒な役割を担ってくれている。

「かなり厳しいようね……精霊樹の村から多少なら援助出来るだろうけど……その程度だと焼け石に水か」

 直ぐにでもどうにかしたいところだったが、精霊樹の村の食料事情は、入り江の海や精霊樹の森の恵みにより余裕が出てきている。それでも、難民街の全ての住人を支えるのは無理だった。

 村では芋や豆類の栽培も始めているが、其ほど広くない畑では精霊樹の村の住民を支える程度の収穫しか見込めなかった。

「いっちょ狩りでもしてみるか、居るだろ森んなかに奴等なら大量に……肉は固いが、この際、贅沢は言えねえだろう」

 ガルフがそう言うとニヤリと笑った。

「確かに昼間に街道を移動する時も、フォレストウルフの群れをよく見かけたけど、此方が格上だと解るのか、襲ってこず直ぐに離れて行くんだよね」

 集団で襲って来て、素早い動きのフォレストウルフは、比較的低ランクの魔物だったが、油断して良い相手ではなかった。魔物のランクはあくまでも目安に過ぎないのだ。

「森の中は狼のテリトリーだよ? 危険じゃない?」

 このあとも港湾都市ガイエスブルグでの戦いが恐らく控えている。ここは無理をする時ではないのだ。

「なあに、デリム村の連中が来るまで復興は暇になるんだろ? まあ奴等の住む村だ、意見を聞くのは当然だからな」

 復興作業はデリム村の住民が戻ってからの再開となったのだ。村の中央に宿泊施設を勝手に作ってしまって今更な気もしたが、戻ってくるというのであれば、話し合いは必要だった。

「それによ、森の中がテリトリーなのは、なにも奴等だけじゃねえぜ」

 どちらにしても街道の安全確保は必要だったし、住民の移動も安全になるだろう。自信満々のガルフにこの件は、任せる事になったのだった。

 ◻ ◼ ◻

「人を運べるような馬車があれば良いんだけど……ギルドに相談すれば融通出来るかな? この前の荷車の収入でなんとかならないかな?」
 
 元デリム村の住民達は徒歩で戻ってくるらしい。老人や子供もいるようなので大変な移動になるだろう。

「どうでしょうか……今は色々あって馬はとても貴重ですから……金銭だけで解決出来る問題ではないかもしれません」

 私の発言に、メイドのロゼが皆にお茶を用意しながらそう答えた。クランルームに移動した私達は、セナ達やエリスと休息がてら少し話をする事にした。

 最近は、色々と別行動も多かったので、眠る時や移動の時以外は、クランルームで過ごす時間もなかった。

 あれからガルフ達は直ぐに行動に移った。ミーナも参加したがったが、森の中での移動狩りに、まだまだ不安を感じたので今回は遠慮させたのだ。

「あのう、私に考えがあるんですけど……ゴーレム馬車なんかどうです?」

 アスカは、何か考えがある時には、手を挙げて発言するのが癖らしいだが慎重に手を挙げる様子は、思い付いた事は即座に実行しようとする以前の様子からは変化が見られた。

「アスカお姉ちゃん、ゴーレムって何?」

 アスカが調理スキルで作ったというクッキーを、マナは嬉しそうに頬張りながら尋ねた。

 以前は姉のセナにべったりだった彼女も、ガルフの娘のナタリーや、孤児院のちび猫双子娘のミンとナン達と、精霊樹の村を子供らしく駆け回り、すっかり此処での暮らしに馴染んでいる。

 それでも久し振りにクランメンバーとして、この部屋に皆と集まれてご機嫌な様子だった。

「えっ! う~んゴーレムだよね……えっと、ロボット……は知らないだろうし……自分で動く人形みたいな物かな?」

 知らない者にゴーレム等と言っても説明は難しいしだろう。アスカは若干しどろもどろになりながら、この世界の人間にも理解できそうな説明を試みている。

「えっ! 動くお人形! マナそれが欲しい!」

 マナの凄い食い付きぶりに、困ったように私を見た。

「それは、気になりますね……確認しておく必要がありそうです」

 セナは澄ました表情でお茶を飲んでいる。だが声には期待のこもった雰囲気がありありと感じられた。大人びていてもまだまだ子供なのだ。

 ミーナはあまり感心無さそうに、クッキーを食べ終わり、催促するようにアスカにお皿を差し出している。

「まあ、セナ様、お人形はどんな大きさでしょうか……ドレスを作る必要があるかもしれません……」

 ロゼが楽しそうに布が手に入ればとか、セナと盛り上がっている。

「あ~、残念だけど馬車だけに馬だから、馬! そうだよねアスカ」

 なんだか妙に盛り上がっていて、何故かエリスもちょっと期待した表情でアスカを見ているので、私は助け船を出すようにそう言った。

「う、うん。そうそう馬だよ馬、全然可愛くない奴だよ。……そうだ! 庭に出してみよう! うん、それがいいよ!」

 慌てたアスカは、クッキーではなくショートケーキのような物をミーナに渡してしまい、それを食べたミーナのシッポが驚くほど太くピンと立っていた。

「やっちゃったよ……」

 ゴーレムの与える影響よりも、ミーナに与えたショートケーキの影響の方が、私には余程気になる問題だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...