100 / 105
100: 小さな凱旋
しおりを挟む
「そろそろいいかな? これ以上、ミザレに近づくと人目につきそうだね。アスカお願いね!」
私の依頼にミーナと並んで歩いていたアスカに声を掛けた。何度かの戦闘での連携のお陰だろうか、二人は結構仲良くなったようで、一緒に行動する事が多いようだ。
「了解! リヤカーとかもあるけど、流石に車輪のゴムタイヤは不味いよね……それじゃあ、これでと……えいっ!」
アスカは掛け声と共に街道に木造の荷車を取り出し、そこにデリム村で倒したオークを積み込んでいく。
これもアスカがゲーム時代に採取した木材と、一部、車軸部分に鉄を用いてクラフトした物らしい。
基本、ソロプレイヤーでレベルが上げられなくなってからの彼女は、素材採集とクラフトばかりやっていたらしいので、アイテムボックスには無目的に作った色々な物で溢れ返っているらしい。
かなりの大きくて丈夫な荷車だったので、人より一回りくらい大きく2メートル程ある巨体のオークを1台当たり2匹を余裕で積み込む事が出来た。
実は、オークコマンドやゴブリンコマンドは荷車に無かった。分解して魔石を取り出し、セナのギルドへの報告用としてしまったからだ。
その魔石の数とセナの報告内容……獣人族とエルフ達との共同でのデリム村の解放に驚いた都市ミザレのギルド長との面会という運びとなったのだ。
かなりの数になったが、ここに積み込んだオークは、実はアスカが私達と出会う前に倒して持っていた物だった。
(皆と話し合って実力を知らしめる為に、どうせなら派手に乗り込もうって事にしたけど……デリム村から都市迄の運搬能力も示せるし一石二鳥かな?)
かなり大掛かりな荷車の行列が出来てしまったが、人気のない街道なので迷惑を気にする必要はなさそうだ。
デリムから都市ミザレへの街道は、終点に当たる港湾都市カイエスブルグ壊滅によりすっかり寂れてしまったようで、人の通行も殆ど無いような有り様だった。
「それじゃあ、まだ少し距離があって大変だけど、お願いね!」
私の合図で、アスカが準備した荷車の列に獣人族やエルフ達が取りついて押し始めた。
街道は舗装されていないのでガラガラかなり大きな音を立て荷車の列が移動を始めた。
「なかなか出来の良い荷車じゃねえか! これならそう苦労も無さそうだ」
ガルフが大声でそう返事を返してくる。周りの騒音のせいで皆、大声で会話を始めて余計に騒がしくなってきた。
「元気なのは結構だけど、疲れるでしょうし……騒がしいから皆、【心話】で話しましょう」
いい加減、うるさく感じて来たので私はそう提案してみた。
「あれな! あれ戦闘では便利なんだが……少し苦手なんだよな」
ガルフがそう言うと、他の獣人族達も「俺もちょっと苦手だわ」とか「耳元で囁かれてるようでよ」と口々に大声で言い出した。
エルフ達からは、特に苦情がないところを見ると、魔法が得意な種族とそうでない種族で【心話】の得手不得手に関係があるのかもしれない。
「どうせ誰もいないんだから陽気に行こうじゃねえか! おい誰か景気付けだ! 歌でも歌え!」
そう言うと、なんかよく知らない歌を順番に歌い始めた。
「そんな事してたら魔物が寄って来ても……まあ、この辺の相手だったら心配ないか……ところで、この歌ってどういう歌なの?」
私はガルフの側で一緒に荷車を押しながら一緒に歌っているサリーナさんに尋ねた。
「そうさね……近頃はあんまり歌われる事も無くなった古い歌……確か……」
そして少し思い出すような素振りの後、こう付け加えた。
「凱旋の歌……だったさね」
◻ ◼ ◻
暫くすると都市ミザレの門が見えて来た。それでも皆の歌は止まらず、それどころか、最初の内は、獣人族だけが陽気に歌い継いでいたのだが、門が見えてくる頃には、エルフ達も含めてミーナやアスカも一緒に歌いだして合唱状態になっていた。
荷車の数は10台ほどあり、1台四人で押すこのかなりの大人数の集団が一斉に凱旋の歌を歌う様子は、端から観れば遠征部隊の勝利の凱旋のようにも見えなくもなかった。
このような派手な登場をすれば、避難民の増えているミザレで注目を集めない訳がなかった。
それでも荷台に無造作に積み上げられたオークを見て、この集団の力を侮るような者もいないようだ。
膨れ上がった野次馬の群れも、遠巻きにしながらこの集団の様子を伺っている。
ただ、中には同じように歌いだす者もいて、「何やら久しぶりに明るい気分になった」だの、オークを大量に倒した私達への声援のような物も漏れ聞こえて来た。
(私達が初めてこの都市に来たときより門周辺の人出が多いな……流れてくる避難民が増えてるみたいね……これは門衛と少し揉める事になるかもしれない……)
予想はしていた事だけど、私が少し大事になりすぎたと考え始めた頃に……
「皆さんお疲れ様です!」
再度、先行してギルドへの会合を行う旨の報告を行ってくれたセナが、手を振っている姿が見えた。側にはメイドのロゼとヤンの姿もあった。
そしてもう一人見知った姿の者もいた。都市ミザレの冒険者ギルドの受付嬢ナナリー……そして彼女を従えるように立つ初めて見る男の姿があった。
「やあ皆さん、都市ミザレへようこそ! 冒険者ギルド、ギルド長のナハトレ・ミザレと申します」
門の手前まで来た私達一行に、都市の名前を苗字に持つ非常に厄介そうな男がそう告げたのだった。
私の依頼にミーナと並んで歩いていたアスカに声を掛けた。何度かの戦闘での連携のお陰だろうか、二人は結構仲良くなったようで、一緒に行動する事が多いようだ。
「了解! リヤカーとかもあるけど、流石に車輪のゴムタイヤは不味いよね……それじゃあ、これでと……えいっ!」
アスカは掛け声と共に街道に木造の荷車を取り出し、そこにデリム村で倒したオークを積み込んでいく。
これもアスカがゲーム時代に採取した木材と、一部、車軸部分に鉄を用いてクラフトした物らしい。
基本、ソロプレイヤーでレベルが上げられなくなってからの彼女は、素材採集とクラフトばかりやっていたらしいので、アイテムボックスには無目的に作った色々な物で溢れ返っているらしい。
かなりの大きくて丈夫な荷車だったので、人より一回りくらい大きく2メートル程ある巨体のオークを1台当たり2匹を余裕で積み込む事が出来た。
実は、オークコマンドやゴブリンコマンドは荷車に無かった。分解して魔石を取り出し、セナのギルドへの報告用としてしまったからだ。
その魔石の数とセナの報告内容……獣人族とエルフ達との共同でのデリム村の解放に驚いた都市ミザレのギルド長との面会という運びとなったのだ。
かなりの数になったが、ここに積み込んだオークは、実はアスカが私達と出会う前に倒して持っていた物だった。
(皆と話し合って実力を知らしめる為に、どうせなら派手に乗り込もうって事にしたけど……デリム村から都市迄の運搬能力も示せるし一石二鳥かな?)
かなり大掛かりな荷車の行列が出来てしまったが、人気のない街道なので迷惑を気にする必要はなさそうだ。
デリムから都市ミザレへの街道は、終点に当たる港湾都市カイエスブルグ壊滅によりすっかり寂れてしまったようで、人の通行も殆ど無いような有り様だった。
「それじゃあ、まだ少し距離があって大変だけど、お願いね!」
私の合図で、アスカが準備した荷車の列に獣人族やエルフ達が取りついて押し始めた。
街道は舗装されていないのでガラガラかなり大きな音を立て荷車の列が移動を始めた。
「なかなか出来の良い荷車じゃねえか! これならそう苦労も無さそうだ」
ガルフが大声でそう返事を返してくる。周りの騒音のせいで皆、大声で会話を始めて余計に騒がしくなってきた。
「元気なのは結構だけど、疲れるでしょうし……騒がしいから皆、【心話】で話しましょう」
いい加減、うるさく感じて来たので私はそう提案してみた。
「あれな! あれ戦闘では便利なんだが……少し苦手なんだよな」
ガルフがそう言うと、他の獣人族達も「俺もちょっと苦手だわ」とか「耳元で囁かれてるようでよ」と口々に大声で言い出した。
エルフ達からは、特に苦情がないところを見ると、魔法が得意な種族とそうでない種族で【心話】の得手不得手に関係があるのかもしれない。
「どうせ誰もいないんだから陽気に行こうじゃねえか! おい誰か景気付けだ! 歌でも歌え!」
そう言うと、なんかよく知らない歌を順番に歌い始めた。
「そんな事してたら魔物が寄って来ても……まあ、この辺の相手だったら心配ないか……ところで、この歌ってどういう歌なの?」
私はガルフの側で一緒に荷車を押しながら一緒に歌っているサリーナさんに尋ねた。
「そうさね……近頃はあんまり歌われる事も無くなった古い歌……確か……」
そして少し思い出すような素振りの後、こう付け加えた。
「凱旋の歌……だったさね」
◻ ◼ ◻
暫くすると都市ミザレの門が見えて来た。それでも皆の歌は止まらず、それどころか、最初の内は、獣人族だけが陽気に歌い継いでいたのだが、門が見えてくる頃には、エルフ達も含めてミーナやアスカも一緒に歌いだして合唱状態になっていた。
荷車の数は10台ほどあり、1台四人で押すこのかなりの大人数の集団が一斉に凱旋の歌を歌う様子は、端から観れば遠征部隊の勝利の凱旋のようにも見えなくもなかった。
このような派手な登場をすれば、避難民の増えているミザレで注目を集めない訳がなかった。
それでも荷台に無造作に積み上げられたオークを見て、この集団の力を侮るような者もいないようだ。
膨れ上がった野次馬の群れも、遠巻きにしながらこの集団の様子を伺っている。
ただ、中には同じように歌いだす者もいて、「何やら久しぶりに明るい気分になった」だの、オークを大量に倒した私達への声援のような物も漏れ聞こえて来た。
(私達が初めてこの都市に来たときより門周辺の人出が多いな……流れてくる避難民が増えてるみたいね……これは門衛と少し揉める事になるかもしれない……)
予想はしていた事だけど、私が少し大事になりすぎたと考え始めた頃に……
「皆さんお疲れ様です!」
再度、先行してギルドへの会合を行う旨の報告を行ってくれたセナが、手を振っている姿が見えた。側にはメイドのロゼとヤンの姿もあった。
そしてもう一人見知った姿の者もいた。都市ミザレの冒険者ギルドの受付嬢ナナリー……そして彼女を従えるように立つ初めて見る男の姿があった。
「やあ皆さん、都市ミザレへようこそ! 冒険者ギルド、ギルド長のナハトレ・ミザレと申します」
門の手前まで来た私達一行に、都市の名前を苗字に持つ非常に厄介そうな男がそう告げたのだった。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
転生王子はダラけたい
朝比奈 和
ファンタジー
大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。
束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!
と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!
ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!
ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり!
※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる