転生したのはAIでした ~精霊として転生した私は《特殊スキル》システム管理AIで村の復興から始めます~

高田 祐一

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083:役割と希望

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「信じられないようなお話しです……現実にこうして見せられなければとても信じられなかったでしょう……」

 カヤックは周囲に生える精霊樹の森の木々を見渡し、皆がこの村に来た経緯を聞いて答えた。

「あそこの石門は入江に繋がっていますから、海を見たいと思えばすぐにでも見に行けますよ……但し残念ながら浅瀬の一部までしか入ることはできません。本当なら港湾都市にも繋がっている筈なのですが……」

 セナの言葉に立ち上がりかけた二人は、また席に着いた。その様子から二人の故郷の海に戻りたいという想いが伝わってきた。

「……池の状態を確認に来られる役人の方に色々とお尋ねしても、池の浄化が済む頃には、デリム村までのルートくらいは開通する筈だと仰るだけで、何度尋ねても同じ回答なものですから……実際のところどうなのでしょうか? 何か情報をお持ちではありませんか?」

 解放の努力が行われているのは、冒険者ギルトで確認したので間違いないが、役人の言い方が気になった。漁人族の浄化の有用性を知った都市側が、解放後に彼等を本当に手離すのかが気になるのだ。

「先程、冒険者ギルトで確認しましたが、解放の為に冒険者派遣は積極的に行っているようでしたよ……ですが進捗は芳しくないようですね。夜営が難しいと聞きましたが」

 さっき冒険者ギルドで確認した事を、セナはそのまま伝えた。ギルドでの雰囲気から情報は特に秘匿されているような雰囲気ではなかったが、カヤック達には都合の悪い情報を適当に誤魔化しているようだ。

 都市の寂れた場所にいる彼等は、漁人族という事もあるので、あまり積極的に街の人間と関わっていない様子だった。それ故に情報が入りにくいのかもしれない。

「やはりそうですか……恐らく夜になると狼系統の魔物の群れが執拗に襲って来るのが原因かもしれませんね……魔族の襲撃がある以前から都市ミザレから港湾都市までの街道筋では夜になると行商人がよく襲われるのです。ですから川を遡上する私は信頼出来ると手紙等の配達などを頼まれる事が多かったのです」

 私はミーナと初めて出会った時の事を思い出していた。今の話の街道とは違うが、あの時もファングウルフに襲われた。当時は、運が悪かったぐらいに思っていたが、街道沿いの森で夜営をするのは相当に危険な賭けなのかもしれない。

「この国の魔素が更に濃くなっているのかもしれないさね」

 今まで私達の会話を聞いていたサリーナが、突然そう言い出した。

「各地を魔族が襲撃して何かの細工をしているからだよね?」

 私としては、確認の意味でそう答えたのだが、サリーナの言いたいことはそれだけではないようだった。

「もちろんそうさね……だけど最も大きな理由は世界樹が焼失して世界樹の森が失われたことさね……世界樹と精霊樹達は魔素を吸収して浄化してくれてたさね」

 サリーナはそう言うと、ロゼが追加で注いだお茶をゆっくり飲んでいる。

「ええっ⁉ それじゃあこの世界の魔素を浄化する仕組みが完全に失われたって事?」

 エリスから世界樹の森が失われた事は聞いていたが、私は世界樹の森の役割について考えた事がなかった。名前からして重要な木なのだろうとは思っていたが、それを魔素と結び付けて考えるまでにいたらなかったのだ。

「そうだ、この事は国でも一部の者しか知らない事だ……下手に知れば不安を更に煽るだけだからな……だがまだ希望はあるとワシは思いたい」

 そう言った声には聞き覚えがあった。後ろを振り向くとそこにはサザン族長が立っていた。
 
「希望って言っても……あっ! でもこの村の精霊樹達ってどういう存在か私も良く分からないよ?」

 この特殊な空間に存在する森が、外の世界に影響を与えれるのか、それとも既に与えているのか、私には知る術がなかった。

「それでも残された希望だ……勇者の存在と同じくな……」

 その族長の言葉に、この世界に転生させられた時は、のんびりとふよふよ生活を送ることも考えていた私が、いきなり世界の中心に躍り出てしまったような錯覚を感じてしまったのだった。
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