転生したのはAIでした ~精霊として転生した私は《特殊スキル》システム管理AIで村の復興から始めます~

高田 祐一

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068:族長達の願い

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「だが我々はこの場所を失う可能性が少しでもあるなら、それを排除しなければならない……しかし、今の我々の力では魔族に対抗できないのだ……我々に力があればむざむざ、世界樹の森を奴等に破壊される事もなかった……」

 サザン族長は、話しているうちにその時の事を思い出したのだろう、少し怒りを含んだ声になった。

「……だがエリスから聞いたのだが……ビスタ、貴殿のクランという物に加入してから急激に力を増したようだと聞いたのだが?」

 私は肯定の意味で頷いた。エリス本人に詳しい事情を説明するタイミングを逃したまま、クランに加入させた事しか告げずに、何となくここまで来てしまっていた。

 最近のエリスは難民街で行動すると目立つので、ガルフ達と平原ダンジョンに通っていた。どうやら自分の急激な成長に自力で気が付いたらしい。

「そうか……ならば我々の中から戦う意思のある者達をクランとやらに加入させる事は可能だろうか?」

 サザン族長の言葉に「全員とは言わねえ、見込みのある奴だけでも構わねえんだ!」ガルフも言葉を重ねてきた。

 ガルフは今までこの様な必死な表情で何かを頼んだりする事はなかったので、私の中では意外だという印象が強かった。一族の生活が苦しい時もとても前向きにおおらかに事に当たっていたと言っても良い様子だったからだ。

 恐らくその想いが私の表情に出ていたのだろう、「俺がこんなに必死になるのが不思議だって表情だな……確かに、俺達はエルフ達みたいな守り育んできた物を失ったという訳じゃねえ……」

 ガルフはサザン族長をチラリと見ると話を続けた。

「だが隠れ村を逐われた時の、皆の悲しみの表情を忘れられねえ。皆、世界樹の森を失えば、もう以前のような暮らしには戻れないだろうと考えていたからな……」

 ガルフは砂浜の明るい表情の同胞の姿を暫く眺めてから、「高尚な目的や理想なんざねえ……只、今のこの生活を守れる力が欲しいだけだ」

 ガルフのその言葉には、自分達の生活を壊した魔族への怒りや復讐心は感じられず、ただ前を向いて歩こうとする物の強い決意のような物を感じた。

(サザン族長は初めて会ったときの、あの気落ちした様子から考えてもガルフとは強さを求める理由に違いがあるのかな?)

 理不尽な破壊と暴力による侵略に対する怒りと、復讐心を否定するつもりはなかった。自分の中の何かを解決しなければ前に進めないという心情は十分理解できたからだ。

「そうだ、次は勇者殿に頼らずとも我々が奴等を追い払わねばな……」

 そう言ったサザン族長の言葉にも、暗い感情は感じられなかった。二人がこの精霊樹の村を大切に想っていてくれる事を嬉しく感じたのだった。

◻ ◼ ◻

「さて、どうしようかな?」

 私が少し困った様子だったので、「突然、言い出した悪かったな。まあ今直ぐでなくても構わねえんだ……考えといてくれ」ガルフが気を使って遠慮がちにそう言って二人は皆の元に戻っていった。

(無理って訳じゃないんだけど、私としては見込みがあるなしで選別とかしたくないのよね……強くなりたいと思う人には公平に機会を与えたいと考えているし……でも今のクランだけだと人数の限界がありそうなのよね……)

 ゲーム時代のクランには、上限20名という加入制限があったのだ。

(そうだ! 【鑑定】で……)

 私はシステムメニューの特記事項の[クラン名:マーシャルS.E.N.S.オンライン]のクランの部分を【鑑定】してみた。

(……同じ目的を持った者達の集団を指す。加入上限……10人迄か……冒険者ギルドを設置する事で設立可能!)

 思い付きで【鑑定】してみて、ゲームのヘルプのような具体的な鑑定結果が出て、目的の情報以上の発見があった。

(冒険者ギルドの設置……確かハウジングメニューに建物があったけど必要性を感じなかったから放置したままだった……)

「試してみる価値がありそうね」

 私は、ハウジングメニューにあって、今は必要なさそうと放置していた建物の可能性を考えて楽しくなってきたのだった。
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