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053:隠れ村2
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エリスがこの情報を聞いてすぐに動き出さなかったのは、私が来るまでロゼが説得したのと、サリーナが食事くらいはしていくようにとエリスを強めに引き留めたからだったようだ。
「そうしてくれて良かったよ……あの森にはフォレストウルフの群れがいるみたいだから単独で行動するのはお勧めしないね」
エリスの腕なら襲われても返り討ちに出来るかもしれなかったけど、数が読めない相手に無理するのは危険な行為だった。
「ああ、確かに都市側には縄張りにしている群れがいるみたいだな。俺達の村の側には近寄って来ないところをみると、恐らく何か餌になるような奴がいるんだろうな」
私は少し違う見解を持っていた。草原に大量のフォレストラビットがいるので無駄に危険を冒す必要を感じていないのか、縄張りに侵入しなければ襲わないタイプなのか……恐らく後者ではないかと思っている。
(ガルフさんの考えは普通の狼の行動原理じゃないかな? 私達がフォレストラビットを狩っていても襲って来なかった。明らかに私達は餌場を荒らす存在なのだ……でも、もし森に入ったらどうなるだろ?)
私達はガルフさんに意見を述べる事はしなかった。なぜなら確認した訳でもなかったからだ。
(でも魔物と野性動物は姿が似ていても行動原理は違うのではないか?)
私は証明まではできないが、ある種の確信を持っていた。
「今回は私が単独で空から村を探してみるよ……ある程度行けば狼の縄張りも抜けるだろうし、適当な場所に霧の石門を設置してそこからは皆で行動しよう」
ミーナが少し心配そうにこちらを見て「ビスタひとりでだいじょうぶ?」と聞いてきたが、「この辺りは、空に危険な魔物もいないし私が独りで飛んだ方が安全だよ」そう説得するとなんとか納得してくれたようだった。
「ビスタさん、港湾都市カイエスブルグに行くときは皆で行きましょうね。それまでに少しでも強くなりますから!」
セナは力強く宣言し、ミーナも頷いている。今回は効率を考えてこのような方法を取ることになったが、セナ達からするとやはり頼りにされていないと感じているのかもしれなかった。
「そんときゃ、俺達も混ぜてくれ!」
「なんだか楽しそうじゃないかね!」
ガルフとサリーナも一緒になってそう言ってきたので、私は――
「そうだね……何が起こるか分からないから……皆その時はよろしくお願いね」
私のその言葉に皆、元気に返事を返してくれたのだった。
◻ ◼ ◻
リビングの扉から草原に出た私は上空に舞い上がった、一緒に外に出たミーナは棒に6匹程の以前に狩ったウサギを吊るしてマナ達と共に自警団の宣伝をするために街の方角に戻っていった。
肉を商っている男と串焼き屋のおばさん、それに宿屋のおじさんに、それぞれ一匹を売りに行き、マナ達は団長からの報酬を受け取るつもりのようだ。
「ビスタ~、きをつけてね!」
ミーナが下から手を振っているのが見えた。
私も空から手を振り返した。そして、草原の向こうに見えるエルフや獣人族達が隠れ住んでいるらしい森の奥を目指して、ふよふよと進み出したのだった。
◻ ◼ ◻
「下級精霊になれて良かったよ……飛ぶのが早くなっただけでも随分な進歩よね」
以前は人がゆっくりと歩く程度のスピードしかなかった私のふよふよ生活も、人間が軽く走る程度のスピードくらいになればかなりのものだった。
「それにしても、もうフォレストラビットの数が回復し始めてるよね……最初は放置されてるから溢れる程増えたのだと思っていたけど……ミーナ達があれだけの数を狩っていてもこれって……調査する必要があるかもね」
草原を上空から見ていても特に異常は見当たらなかった。
「すると森に何かあるのかも……今日は無理でも時間を作ってみるかな」
色々な力が解放され仲間も増えて来たが、それに比例するように気になる事も増えてきている気がする。
「とにかく今は隠し村を目指さないと」
廃村があるという事だから空からならすぐ見つかる可能性が高い。あるか分からない問題の調査よりまずは目的達成が優先だった。
私は更に上空に舞い上がり真っ直ぐに森の奥を目指した。
◻ ◼ ◻
「あれかな?」
森は奥に向かう程に広がりを見せていて思っていたより広かった。
「でも、野性動物はあまり見かけないな……あまり豊かな森という感じはしないね」
適度に木々に囲まれた森だったが、クランルームに存在する精霊樹の森のような豊かな植生は感じなかった。
少し森の様子を見ようと地上に下降した私の目に二人の子供達の姿が見えた。
「シン兄ちゃんやっぱり食べられそうな物は何もないねえ~」
小さな獣人族の女の子が兄なのか男の子の獣人族にそう声をかけた。
「ナタリーあんまり離れるなよ!」
男の子の獣人族も何かを探すように周囲を見渡しているが残念ながら食べられそうな物は見つからないようだった。
廃村らしき場所から結構離れた場所で一生懸命に食べ物を探す二人の事が心配になった。
「ねえあなた達、私の事が見えるよね?」
ミーナも初めて会った時に私の事が見えていた。獣人族のこの子達も恐らく見えるだろうと考えたので、私は思いきって二人に声をかけてみる事にしたのだった。
「そうしてくれて良かったよ……あの森にはフォレストウルフの群れがいるみたいだから単独で行動するのはお勧めしないね」
エリスの腕なら襲われても返り討ちに出来るかもしれなかったけど、数が読めない相手に無理するのは危険な行為だった。
「ああ、確かに都市側には縄張りにしている群れがいるみたいだな。俺達の村の側には近寄って来ないところをみると、恐らく何か餌になるような奴がいるんだろうな」
私は少し違う見解を持っていた。草原に大量のフォレストラビットがいるので無駄に危険を冒す必要を感じていないのか、縄張りに侵入しなければ襲わないタイプなのか……恐らく後者ではないかと思っている。
(ガルフさんの考えは普通の狼の行動原理じゃないかな? 私達がフォレストラビットを狩っていても襲って来なかった。明らかに私達は餌場を荒らす存在なのだ……でも、もし森に入ったらどうなるだろ?)
私達はガルフさんに意見を述べる事はしなかった。なぜなら確認した訳でもなかったからだ。
(でも魔物と野性動物は姿が似ていても行動原理は違うのではないか?)
私は証明まではできないが、ある種の確信を持っていた。
「今回は私が単独で空から村を探してみるよ……ある程度行けば狼の縄張りも抜けるだろうし、適当な場所に霧の石門を設置してそこからは皆で行動しよう」
ミーナが少し心配そうにこちらを見て「ビスタひとりでだいじょうぶ?」と聞いてきたが、「この辺りは、空に危険な魔物もいないし私が独りで飛んだ方が安全だよ」そう説得するとなんとか納得してくれたようだった。
「ビスタさん、港湾都市カイエスブルグに行くときは皆で行きましょうね。それまでに少しでも強くなりますから!」
セナは力強く宣言し、ミーナも頷いている。今回は効率を考えてこのような方法を取ることになったが、セナ達からするとやはり頼りにされていないと感じているのかもしれなかった。
「そんときゃ、俺達も混ぜてくれ!」
「なんだか楽しそうじゃないかね!」
ガルフとサリーナも一緒になってそう言ってきたので、私は――
「そうだね……何が起こるか分からないから……皆その時はよろしくお願いね」
私のその言葉に皆、元気に返事を返してくれたのだった。
◻ ◼ ◻
リビングの扉から草原に出た私は上空に舞い上がった、一緒に外に出たミーナは棒に6匹程の以前に狩ったウサギを吊るしてマナ達と共に自警団の宣伝をするために街の方角に戻っていった。
肉を商っている男と串焼き屋のおばさん、それに宿屋のおじさんに、それぞれ一匹を売りに行き、マナ達は団長からの報酬を受け取るつもりのようだ。
「ビスタ~、きをつけてね!」
ミーナが下から手を振っているのが見えた。
私も空から手を振り返した。そして、草原の向こうに見えるエルフや獣人族達が隠れ住んでいるらしい森の奥を目指して、ふよふよと進み出したのだった。
◻ ◼ ◻
「下級精霊になれて良かったよ……飛ぶのが早くなっただけでも随分な進歩よね」
以前は人がゆっくりと歩く程度のスピードしかなかった私のふよふよ生活も、人間が軽く走る程度のスピードくらいになればかなりのものだった。
「それにしても、もうフォレストラビットの数が回復し始めてるよね……最初は放置されてるから溢れる程増えたのだと思っていたけど……ミーナ達があれだけの数を狩っていてもこれって……調査する必要があるかもね」
草原を上空から見ていても特に異常は見当たらなかった。
「すると森に何かあるのかも……今日は無理でも時間を作ってみるかな」
色々な力が解放され仲間も増えて来たが、それに比例するように気になる事も増えてきている気がする。
「とにかく今は隠し村を目指さないと」
廃村があるという事だから空からならすぐ見つかる可能性が高い。あるか分からない問題の調査よりまずは目的達成が優先だった。
私は更に上空に舞い上がり真っ直ぐに森の奥を目指した。
◻ ◼ ◻
「あれかな?」
森は奥に向かう程に広がりを見せていて思っていたより広かった。
「でも、野性動物はあまり見かけないな……あまり豊かな森という感じはしないね」
適度に木々に囲まれた森だったが、クランルームに存在する精霊樹の森のような豊かな植生は感じなかった。
少し森の様子を見ようと地上に下降した私の目に二人の子供達の姿が見えた。
「シン兄ちゃんやっぱり食べられそうな物は何もないねえ~」
小さな獣人族の女の子が兄なのか男の子の獣人族にそう声をかけた。
「ナタリーあんまり離れるなよ!」
男の子の獣人族も何かを探すように周囲を見渡しているが残念ながら食べられそうな物は見つからないようだった。
廃村らしき場所から結構離れた場所で一生懸命に食べ物を探す二人の事が心配になった。
「ねえあなた達、私の事が見えるよね?」
ミーナも初めて会った時に私の事が見えていた。獣人族のこの子達も恐らく見えるだろうと考えたので、私は思いきって二人に声をかけてみる事にしたのだった。
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