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047:獣人族
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『ヤン、エリスがそっちに向かったからそれまでは出来るだけ接触は避けて頂戴、それから接触して交渉になったらクランルームの扉を開いた状態でいつでも逃げ込めるようにして』
【心話】の良い点は通話相手がどのような状態でもすぐ隣で会話しているように話が出来る事であり、よく聞こえていなかったという情報の齟齬が生まれにくい点にあった。
『わかった』
ヤンから短く返答が返ってきたのを確認した私は、『もう少し様子の見えそうな場所に移りましょう』そう言うと、皆と少し離れた場所から様子を見る為に移動を始めたのだった。
◻ ◼ ◻
「エリスじゃねえか! 無事だったんだな!」
獣人族のグループの先頭に立っている獣人族のリーダーらしき男が大声をあげた。
「エリスちゃん! 良かったよ! 心配してたさね」
隣に立つ大柄の狼族の女性も声をかけてきた。
「ガルフさん、それにサリーナさん!」
村長的な役割を担っている狼獣人のガルフ村長と妻のサリーナさんだった。獣人族の群れは強い者がリーダーとなり、年齢を重ねた知識ある者達が長老と呼ばれリーダーを補佐する形態を取っている。
だから村長夫妻と言っても比較的二人とも若いのだ。
「あの、エルフの同胞達はどうなったかご存知ですか?」
久しぶりに会って旧交を暖めたい所だったけど、皆がどうしているかが気になって仕方がなかったのだ。
「ああ、何人か怪我人がいるが無事に俺達の新しい隠れ村に到着している。お前さんの親父さんも無事だ! 安心しな!」
ガルフ村長はニヤリと笑うと近寄り私の肩を叩いた。多少粗雑な所はあるがとても気持ちの良い人なのだ。
「あんた、エリスちゃん泣いちゃったじゃない……その乱暴な応対は止しなって私が何時も言ってるじゃないか!」
そう言うと、私を優しく抱き締めてくれた。獣人族の中でもガルフさんに次いでの実力者のサリーナさんだったが、とてもおおらかで優しい人だった。
「おおう、すまねえ……」
サリーナさんに頭が上がらないガルフさんが少し小さくなって謝った。周囲のこのやり取りを見ていた他の獣人族の者達も、いつもの事で慣れているのだろうリーダーに遠慮する事なく大笑いしている。
「こめんなさい、ホッとしたら泣けてきちゃって……そうだった、私以外にもここには助けてくれた人達と一緒に来ているの紹介するわね」
そう言って【心話】を始めた私の表情を見て「やれやれ、泣き止んでくれてホッとしたぜ! 俺がサリーナに怒られた甲斐があったってもんだぜ!」
「あんたの粗雑さも、たまには役に立って良かったじゃないか」
二人の会話を聞いているとまるで平和だった昔に還ったような心地になり私の顔には自然と笑みが浮かんだのだった。
◻ ◼ ◻
エリスの【心話】で知り合いの獣人族だから問題はないと知らされて少し離れた場所から様子を伺っていた私達はエリス達と合流することになった。
「人間がいると聞いて少し警戒していたが……子供ばかりじゃねえか! しかも一人は同胞か」
ミーナを見て同胞と言い切る辺りハーフという存在は特に差別的な存在という訳ではなさそうだった。
「人間を警戒するわりにはミーナがハーフなのは気にならないのね?」
かなり微妙な質問だったがこれから獣人族と付き合う事になるかもしれないのだ、出来れば外聞ではなく獣人族本人から人間と獣人族との立ち位置について聞いておきたかったのだ。
「ああ、そうだな俺達は確かに人間を警戒してはいるが……だかそれは完全に拒絶しているという訳じゃねえ。俺達が森を住みかにしているのは獣人族は森での生活が好ましいと考える者が多いってだけだ」
どうやら迫害を受けて森に逃げ込んだというわけではないようだ。ミーナが難民街で何か嫌な思いをした経験もなかったので人間の側にもそれほど忌避するような感情はないのかもしれない。
「俺達も昔は街に住んだり、街の近くの森に暮らしていたりしたんだがな……人間ってのは集団で暮らす者がいると自分達の枠に無理やり組み込もうとしてくるからな……税だの法だの俺達を縛り上げようとしてくる。まあそれが嫌になった者達が世界樹の森の側に隠れ村を作って暮らしているって訳さ」
聞いてみればそれほどには深刻な話ではないようだった。
「今、街にいる連中は街の暮らしに適応した者や、この子のようなハーフの者が大半だな……それでも獣人は獣人だ同胞には変わりない。同胞が森に戻りたいというのならそれは本能に従っただけだと俺達は考える……それがハーフだとしても同じことだ」
獣人族の多くは支配を受けつけない自由を選んだ者達なのだろう。少し話を聞いただけで何となく獣人族の考え方の一端は理解できた。
「おっと、このまま話し込んでいる訳にはいかねえな。新しい隠れ村に案内する前に食糧調達の為の狩を行わねえとな。移り住んだ森は小さくてな……時々こうして遠征をしてこないと、とても今の大人数は養っていけねえからな」
目的地は平原ダンジョンらしい、エリスはすぐにでも隠れ村に行きたいのだろう少し残念そうな表情を見せた。
だが、すぐ切り替えたように「全然狩られてなくで沢山獲物がいたわ! 行きましょう!」明らかに空元気に見えたが先頭に立って移動を始めた。
「そうかい、楽しみだぜ! 行くぞ!」
ガルフもその事には気がついているのかもしれないが、彼にはリーダーとしての責任があるのだ……威勢よくそう号令をかけると周囲の獣人族達も呼応して一斉に移動を始めたのだった。
「私は子供じゃないんですが……」
ポロリとロゼのそんな呟きの声も聞こえたような気がしたが、私もふよふよと後ろからその集団に追従したのだった。
【心話】の良い点は通話相手がどのような状態でもすぐ隣で会話しているように話が出来る事であり、よく聞こえていなかったという情報の齟齬が生まれにくい点にあった。
『わかった』
ヤンから短く返答が返ってきたのを確認した私は、『もう少し様子の見えそうな場所に移りましょう』そう言うと、皆と少し離れた場所から様子を見る為に移動を始めたのだった。
◻ ◼ ◻
「エリスじゃねえか! 無事だったんだな!」
獣人族のグループの先頭に立っている獣人族のリーダーらしき男が大声をあげた。
「エリスちゃん! 良かったよ! 心配してたさね」
隣に立つ大柄の狼族の女性も声をかけてきた。
「ガルフさん、それにサリーナさん!」
村長的な役割を担っている狼獣人のガルフ村長と妻のサリーナさんだった。獣人族の群れは強い者がリーダーとなり、年齢を重ねた知識ある者達が長老と呼ばれリーダーを補佐する形態を取っている。
だから村長夫妻と言っても比較的二人とも若いのだ。
「あの、エルフの同胞達はどうなったかご存知ですか?」
久しぶりに会って旧交を暖めたい所だったけど、皆がどうしているかが気になって仕方がなかったのだ。
「ああ、何人か怪我人がいるが無事に俺達の新しい隠れ村に到着している。お前さんの親父さんも無事だ! 安心しな!」
ガルフ村長はニヤリと笑うと近寄り私の肩を叩いた。多少粗雑な所はあるがとても気持ちの良い人なのだ。
「あんた、エリスちゃん泣いちゃったじゃない……その乱暴な応対は止しなって私が何時も言ってるじゃないか!」
そう言うと、私を優しく抱き締めてくれた。獣人族の中でもガルフさんに次いでの実力者のサリーナさんだったが、とてもおおらかで優しい人だった。
「おおう、すまねえ……」
サリーナさんに頭が上がらないガルフさんが少し小さくなって謝った。周囲のこのやり取りを見ていた他の獣人族の者達も、いつもの事で慣れているのだろうリーダーに遠慮する事なく大笑いしている。
「こめんなさい、ホッとしたら泣けてきちゃって……そうだった、私以外にもここには助けてくれた人達と一緒に来ているの紹介するわね」
そう言って【心話】を始めた私の表情を見て「やれやれ、泣き止んでくれてホッとしたぜ! 俺がサリーナに怒られた甲斐があったってもんだぜ!」
「あんたの粗雑さも、たまには役に立って良かったじゃないか」
二人の会話を聞いているとまるで平和だった昔に還ったような心地になり私の顔には自然と笑みが浮かんだのだった。
◻ ◼ ◻
エリスの【心話】で知り合いの獣人族だから問題はないと知らされて少し離れた場所から様子を伺っていた私達はエリス達と合流することになった。
「人間がいると聞いて少し警戒していたが……子供ばかりじゃねえか! しかも一人は同胞か」
ミーナを見て同胞と言い切る辺りハーフという存在は特に差別的な存在という訳ではなさそうだった。
「人間を警戒するわりにはミーナがハーフなのは気にならないのね?」
かなり微妙な質問だったがこれから獣人族と付き合う事になるかもしれないのだ、出来れば外聞ではなく獣人族本人から人間と獣人族との立ち位置について聞いておきたかったのだ。
「ああ、そうだな俺達は確かに人間を警戒してはいるが……だかそれは完全に拒絶しているという訳じゃねえ。俺達が森を住みかにしているのは獣人族は森での生活が好ましいと考える者が多いってだけだ」
どうやら迫害を受けて森に逃げ込んだというわけではないようだ。ミーナが難民街で何か嫌な思いをした経験もなかったので人間の側にもそれほど忌避するような感情はないのかもしれない。
「俺達も昔は街に住んだり、街の近くの森に暮らしていたりしたんだがな……人間ってのは集団で暮らす者がいると自分達の枠に無理やり組み込もうとしてくるからな……税だの法だの俺達を縛り上げようとしてくる。まあそれが嫌になった者達が世界樹の森の側に隠れ村を作って暮らしているって訳さ」
聞いてみればそれほどには深刻な話ではないようだった。
「今、街にいる連中は街の暮らしに適応した者や、この子のようなハーフの者が大半だな……それでも獣人は獣人だ同胞には変わりない。同胞が森に戻りたいというのならそれは本能に従っただけだと俺達は考える……それがハーフだとしても同じことだ」
獣人族の多くは支配を受けつけない自由を選んだ者達なのだろう。少し話を聞いただけで何となく獣人族の考え方の一端は理解できた。
「おっと、このまま話し込んでいる訳にはいかねえな。新しい隠れ村に案内する前に食糧調達の為の狩を行わねえとな。移り住んだ森は小さくてな……時々こうして遠征をしてこないと、とても今の大人数は養っていけねえからな」
目的地は平原ダンジョンらしい、エリスはすぐにでも隠れ村に行きたいのだろう少し残念そうな表情を見せた。
だが、すぐ切り替えたように「全然狩られてなくで沢山獲物がいたわ! 行きましょう!」明らかに空元気に見えたが先頭に立って移動を始めた。
「そうかい、楽しみだぜ! 行くぞ!」
ガルフもその事には気がついているのかもしれないが、彼にはリーダーとしての責任があるのだ……威勢よくそう号令をかけると周囲の獣人族達も呼応して一斉に移動を始めたのだった。
「私は子供じゃないんですが……」
ポロリとロゼのそんな呟きの声も聞こえたような気がしたが、私もふよふよと後ろからその集団に追従したのだった。
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