42 / 105
042:精霊樹の森
しおりを挟む
「ビスタさん、目覚めたエリス様がお会いしたいと言っておられます。何かとても急いでおられるようです」
そう言うロゼ自身も少し慌てているようだ。
「わかった、直ぐ行くね」
エリスには、精霊シルフと間違えられた経緯があるので、何と説明しようかと悩みながら私はエリスの個室にふよふよと向かった。
「わざわざ、すいませんお呼び立てして……」
部屋に入った私をベッドから起き上がって迎えてくれたエリスの様子はとても元気そうに見えた。
そして、その口調からは古くからの知り合いに対する物は感じられなかったので、どうやら誤解はロゼが解いてくれたものと理解した。
「はじめまして、精霊ビスタと申します。あなたに断りもなく私の精霊の迷い家にご招待した事をお詫び致します。もし、ご希望でしたら直ぐにでも元いた場所にお返し出来ますよ?」
私はエリスが何か口を開く前に、一気に自己紹介と簡単な状況説明を強引に行い面倒なやり取りを省略した。
「いいえ、ここに連れて来ていただいた事に何も不満はありません……逆にあの状況で倒れた私を運び、こうして介抱して頂いた事にお礼を申し上げます。ありがとうございました」
ベッドの上でペコリと頭を下げたエリスの様子から、特に面倒な事にはならなそうだった。
「それなら良かったよ。勝手に連れて来てしまって気にしてたんだよ」
この台詞は、本心だった。セナと今後行動を共にするだろうロゼはともかく、エリスは非常事態とはいえ本人の眠っている間に勝手にクラン入りさせてしまい気になっていたのだ。
「お陰様で久しぶりに、快適にゆっくりと休む事が出来たみたいです」
エリスはベッドの感触が気に入ったのか撫でながらそう言った。
「この部屋はエリスの専用として私の力で用意した場所だから、もし良ければこれからも好きに使ってくれて構わないよ……実は勝手に仲間として登録のような事をしてしまってね」
クランの除名の機能は確認した事がないが、エリスが望むのなら試みてみるつもりだった。
「いいえ、それによって何か今後の行動が拘束されるとかでなければ構いません。それよりも、私には気になる事があるのです……ビスタさんは私の知らない精霊ですよね? ということは、私の知らないような精霊樹の森をご存知なのではありませんか?」
私はこの突然の問いかけに驚くと同時に、自分の中にあった漠然としたモヤモヤの理由に思い当たった。私には精霊樹の森に心当たりが有りすぎる位にあったのだ。
そしてエルフであるエリスをクランに加える時は、すっかりその事を忘れていたのだが、庭に広がる精霊樹の森を初めて見た時に、「こんな謎の森をエルフとかに見せたらどう思われるだろうか?」と考えた事を思い出していた。
「エリスに見せたい物があるのです……実は私は生まれてまだ1ヶ月も経たない幼い存在なのですが、つい最近この精霊の迷い家の力に目覚めたのです。見せたい物は庭にあります、もし体調に問題がないようでしたら一緒に見に行きましょう」
私のその説明に真剣な表情で聞き入っていたエリスが、黙って頷いたのだった。
◻ ◼ ◻
庭に出るとマナとミーナの二人と一緒にロゼもいて、庭のお世話をしていた。
だがエリスには他の者達が目に入らないようだった。フラフラと進み出ると目を見張り――
「転移魔法陣で飛ばされた後、一度世界樹の森に戻りました。既に魔族によって精霊樹は焼き払われ、そこには何も残っていませんでした」
エリスは涙を流しその場に座り込んでしまつた。
「エルフのお姉ちゃんどうしたの……大丈夫?」
マナが心配そうに呟き、ミーナと二人でエリスに寄り添っている。
「もうこの森の姿を二度と見る事は叶わないと思っていました……」
エリスの言葉には今の世界に溢れ返っているという故郷を失った者の悲しみが溢れていたのだった。
そう言うロゼ自身も少し慌てているようだ。
「わかった、直ぐ行くね」
エリスには、精霊シルフと間違えられた経緯があるので、何と説明しようかと悩みながら私はエリスの個室にふよふよと向かった。
「わざわざ、すいませんお呼び立てして……」
部屋に入った私をベッドから起き上がって迎えてくれたエリスの様子はとても元気そうに見えた。
そして、その口調からは古くからの知り合いに対する物は感じられなかったので、どうやら誤解はロゼが解いてくれたものと理解した。
「はじめまして、精霊ビスタと申します。あなたに断りもなく私の精霊の迷い家にご招待した事をお詫び致します。もし、ご希望でしたら直ぐにでも元いた場所にお返し出来ますよ?」
私はエリスが何か口を開く前に、一気に自己紹介と簡単な状況説明を強引に行い面倒なやり取りを省略した。
「いいえ、ここに連れて来ていただいた事に何も不満はありません……逆にあの状況で倒れた私を運び、こうして介抱して頂いた事にお礼を申し上げます。ありがとうございました」
ベッドの上でペコリと頭を下げたエリスの様子から、特に面倒な事にはならなそうだった。
「それなら良かったよ。勝手に連れて来てしまって気にしてたんだよ」
この台詞は、本心だった。セナと今後行動を共にするだろうロゼはともかく、エリスは非常事態とはいえ本人の眠っている間に勝手にクラン入りさせてしまい気になっていたのだ。
「お陰様で久しぶりに、快適にゆっくりと休む事が出来たみたいです」
エリスはベッドの感触が気に入ったのか撫でながらそう言った。
「この部屋はエリスの専用として私の力で用意した場所だから、もし良ければこれからも好きに使ってくれて構わないよ……実は勝手に仲間として登録のような事をしてしまってね」
クランの除名の機能は確認した事がないが、エリスが望むのなら試みてみるつもりだった。
「いいえ、それによって何か今後の行動が拘束されるとかでなければ構いません。それよりも、私には気になる事があるのです……ビスタさんは私の知らない精霊ですよね? ということは、私の知らないような精霊樹の森をご存知なのではありませんか?」
私はこの突然の問いかけに驚くと同時に、自分の中にあった漠然としたモヤモヤの理由に思い当たった。私には精霊樹の森に心当たりが有りすぎる位にあったのだ。
そしてエルフであるエリスをクランに加える時は、すっかりその事を忘れていたのだが、庭に広がる精霊樹の森を初めて見た時に、「こんな謎の森をエルフとかに見せたらどう思われるだろうか?」と考えた事を思い出していた。
「エリスに見せたい物があるのです……実は私は生まれてまだ1ヶ月も経たない幼い存在なのですが、つい最近この精霊の迷い家の力に目覚めたのです。見せたい物は庭にあります、もし体調に問題がないようでしたら一緒に見に行きましょう」
私のその説明に真剣な表情で聞き入っていたエリスが、黙って頷いたのだった。
◻ ◼ ◻
庭に出るとマナとミーナの二人と一緒にロゼもいて、庭のお世話をしていた。
だがエリスには他の者達が目に入らないようだった。フラフラと進み出ると目を見張り――
「転移魔法陣で飛ばされた後、一度世界樹の森に戻りました。既に魔族によって精霊樹は焼き払われ、そこには何も残っていませんでした」
エリスは涙を流しその場に座り込んでしまつた。
「エルフのお姉ちゃんどうしたの……大丈夫?」
マナが心配そうに呟き、ミーナと二人でエリスに寄り添っている。
「もうこの森の姿を二度と見る事は叶わないと思っていました……」
エリスの言葉には今の世界に溢れ返っているという故郷を失った者の悲しみが溢れていたのだった。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる