33 / 105
033:自警団の戦い1
しおりを挟む
「武器の準備はいいか? 捕縛用装備だぞ! おいダン! そいつはフォレストウルフの狩りに使う奴だ!」
自警団事務所内は俄に騒然とし始めた。私はその様子をカウンターに座りながら眺めていた。
「いいか相手は奴隷商人が最近集めている私兵だが、ほとんどが数だけの雑魚だ。何人かお抱えの奴がいるが、そいつらはリカルドかリサに任せろ。そして奴隷商人のゼノア、そいつはなかなかの手練れだ、俺が相手をする」
団長がその名を口にした時、元から厳しかった表情が更に厳しい物になった気がした。
団長を【鑑定】してみると赤ネームのままだった。ということはその団長でさえ厳しい表情をする相手が今回の親玉という事だ。
(影から手助けするにしても、ミーナに親玉のゼノアの相手だけはさせられないな)
私は今回の件の手助けを行う事に決めていた。団長達の会話から権力者の話は出て来なかったし、私兵は数はいるが、お金に釣られてかき集められたような者達がほとんどのようだ。
ミーナとセナ達が協力して何人か無力化すれば、自警団員が他の相手に向かえる事になるのだから、結果的に団長や主要メンバーへの負担を減らせるだろう。
リサとリカルドの2人の【鑑定】を行うと、どちらも赤ネームのままだった。
(団長には悪いけどミーナが協力するとしても、お抱えの連中を無力化するまでね)
「団長、本当に奴隷商人のゼノアって野郎は自ら出て来るんでしょうか?」
そう不安そうに問いかけたのは、ミーナに絡んであしらわれたダンだった。
「ダン、怖いのか?」
団長の厳しかった表情が少し和らいだように見えた。
「怖くはないです……ただ人間相手っていうのが俺始めてで……正直殺れる自信がないです」
ダンは絞り出すようにそう心情を吐露した。
「俺は怖いぜ! だがゼノアの野郎をふん縛れば、過去に捕まった者のうち何人かは解放できるかもしれない……殺る必要はねえ、逃げる奴も追うな。俺達の目的はゼノアの捕縛のみだ」
団長の表情には決意のような強い意思が感じられた。
「うっす! 俺も全力でぶちのめします。しかし団長、奴は本当に現れるでしょうか?」
ダンの表情にもさっきの質問の時とは違う力強さがあった。
「ああ、来るさ。今回の件の騙されそうになった情報提供者は、奇妙なメイドだったんだが……そのメイドが言うには奴が本気で狙っているのは、世界樹の森から来たというエルフらしい」
クランルームの裏庭の周囲に広がる森の木々が精霊樹だったので、この世界にもきっと居るだろうと思っていた種族であるエルフの名が、意外なところからあがった事に私は驚かされたのだった。
◻ ◼ ◻
私は自警団での情報収集を終えると、クランルームのミーナの個室を経由して一旦宿屋に戻った。
検問へは宿からの方がかなり近いからだ。そこからミーナの頭に乗って検問所まで移動した。
「ミーナ、とりあえず此処までで良いから。一旦、宿に戻っていて……私は夜になるまで周囲の調査をして、扉を何処に呼び出すか考えるから」
私はミーナを宿に返すと、ふよふよと今晩の騒動の場所になるだろう検問所の西側を見て回り、身を隠すのに最適な場所がないか確認していた。
扉はクランメンバー以外には見えないが、出入りする瞬間を見られるのはさすがに不味いと考え、なんとか周囲から見えにくい場所を探して回った。
「ここら辺が良さそうだけど、自警団員もこの辺りに身を潜めそうよね……」
情報提供者からおおよその時間と、場所が教えられていたので、自警団事務所でその情報を得た私は、先回りして確認を行っているのだ。
「都市の材木の供給所になっているから、製材小屋のような建物しかないのね、でもこういう場所だから悪事を働くには都合が良いのか」
検問所の西側は明らかに人間の手がはいったと思われる、森林が広がっている。間伐が行われているので、放置された森とは違い採光がよく、比較的森の中の見通しも良かった。
だがそれは昼間の間の事で、夜になれば近くまで来なければ、中で何かが行われていても気がつくのは難しいだろうと思われた。
「いくら事情があるといっても、夜中にこんな場所に来て何かあっても自業自得じゃないかと思うんだけど」
私はぶつぶつと文句を言いながらも、なんとか目的に叶いそうな場所を見つけていた。
「少し離れているけど、ここから潜んで行けば良いかな。最初に私が周囲の安全を確認すれば良いわけだし」
その周囲を木々に囲まれた小さな隙間に扉を呼び出した私は、真夜中までかなりあるのでクランルームに移動したのだった。
自警団事務所内は俄に騒然とし始めた。私はその様子をカウンターに座りながら眺めていた。
「いいか相手は奴隷商人が最近集めている私兵だが、ほとんどが数だけの雑魚だ。何人かお抱えの奴がいるが、そいつらはリカルドかリサに任せろ。そして奴隷商人のゼノア、そいつはなかなかの手練れだ、俺が相手をする」
団長がその名を口にした時、元から厳しかった表情が更に厳しい物になった気がした。
団長を【鑑定】してみると赤ネームのままだった。ということはその団長でさえ厳しい表情をする相手が今回の親玉という事だ。
(影から手助けするにしても、ミーナに親玉のゼノアの相手だけはさせられないな)
私は今回の件の手助けを行う事に決めていた。団長達の会話から権力者の話は出て来なかったし、私兵は数はいるが、お金に釣られてかき集められたような者達がほとんどのようだ。
ミーナとセナ達が協力して何人か無力化すれば、自警団員が他の相手に向かえる事になるのだから、結果的に団長や主要メンバーへの負担を減らせるだろう。
リサとリカルドの2人の【鑑定】を行うと、どちらも赤ネームのままだった。
(団長には悪いけどミーナが協力するとしても、お抱えの連中を無力化するまでね)
「団長、本当に奴隷商人のゼノアって野郎は自ら出て来るんでしょうか?」
そう不安そうに問いかけたのは、ミーナに絡んであしらわれたダンだった。
「ダン、怖いのか?」
団長の厳しかった表情が少し和らいだように見えた。
「怖くはないです……ただ人間相手っていうのが俺始めてで……正直殺れる自信がないです」
ダンは絞り出すようにそう心情を吐露した。
「俺は怖いぜ! だがゼノアの野郎をふん縛れば、過去に捕まった者のうち何人かは解放できるかもしれない……殺る必要はねえ、逃げる奴も追うな。俺達の目的はゼノアの捕縛のみだ」
団長の表情には決意のような強い意思が感じられた。
「うっす! 俺も全力でぶちのめします。しかし団長、奴は本当に現れるでしょうか?」
ダンの表情にもさっきの質問の時とは違う力強さがあった。
「ああ、来るさ。今回の件の騙されそうになった情報提供者は、奇妙なメイドだったんだが……そのメイドが言うには奴が本気で狙っているのは、世界樹の森から来たというエルフらしい」
クランルームの裏庭の周囲に広がる森の木々が精霊樹だったので、この世界にもきっと居るだろうと思っていた種族であるエルフの名が、意外なところからあがった事に私は驚かされたのだった。
◻ ◼ ◻
私は自警団での情報収集を終えると、クランルームのミーナの個室を経由して一旦宿屋に戻った。
検問へは宿からの方がかなり近いからだ。そこからミーナの頭に乗って検問所まで移動した。
「ミーナ、とりあえず此処までで良いから。一旦、宿に戻っていて……私は夜になるまで周囲の調査をして、扉を何処に呼び出すか考えるから」
私はミーナを宿に返すと、ふよふよと今晩の騒動の場所になるだろう検問所の西側を見て回り、身を隠すのに最適な場所がないか確認していた。
扉はクランメンバー以外には見えないが、出入りする瞬間を見られるのはさすがに不味いと考え、なんとか周囲から見えにくい場所を探して回った。
「ここら辺が良さそうだけど、自警団員もこの辺りに身を潜めそうよね……」
情報提供者からおおよその時間と、場所が教えられていたので、自警団事務所でその情報を得た私は、先回りして確認を行っているのだ。
「都市の材木の供給所になっているから、製材小屋のような建物しかないのね、でもこういう場所だから悪事を働くには都合が良いのか」
検問所の西側は明らかに人間の手がはいったと思われる、森林が広がっている。間伐が行われているので、放置された森とは違い採光がよく、比較的森の中の見通しも良かった。
だがそれは昼間の間の事で、夜になれば近くまで来なければ、中で何かが行われていても気がつくのは難しいだろうと思われた。
「いくら事情があるといっても、夜中にこんな場所に来て何かあっても自業自得じゃないかと思うんだけど」
私はぶつぶつと文句を言いながらも、なんとか目的に叶いそうな場所を見つけていた。
「少し離れているけど、ここから潜んで行けば良いかな。最初に私が周囲の安全を確認すれば良いわけだし」
その周囲を木々に囲まれた小さな隙間に扉を呼び出した私は、真夜中までかなりあるのでクランルームに移動したのだった。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
魔拳のデイドリーマー
osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。
主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる