自由都市のダンジョン探索者 ～精霊集めてダンジョン攻略～【第一部:初級探索者編完結】

213:タリサの加護精霊

　翌日、タリサを伴って僕達はダンジョン一層の転移魔法陣のある遺跡に来ていた。

「エルフィーデのダングル特級鍛冶師の娘さんで、更に、サラさんが保証される方で、一つ羽の探索者という事のようですし……構いません。許可いたします」

　タリサには先に許可を貰ってから遺跡の場所に案内しようと考えていたのだが、サラの「問題ないわよ、二度手間になるだけだから」の一言で、そのまま遺跡までやって来た僕達に、サリナさんは拍子抜けするくらいに呆気なくそう言って、許可証としてのプレートまで作成してくれた。

「近いうちに特定の探索者に対しての転移陣の使用許可をギルドから出される事になるでしょう。例の事件以来、様々な事が前倒しに実施されようとしています。これもその一貫ですね」

　例の一件というのは、魔人の出現の件だろうと思われた。

「ガザフの上層部にとっても、あの出来事はかなりの衝撃だったみたいね」

　転移陣の部屋に移動しながらそう言ったサラの表情は、あの場所にいた当事者として厳しく真剣なものだった。

「あの出来事って下級魔人が出現したっていう件かい？」

　エルフィーデから来たばかりのタリサが、魔人が出現した事を知っている事に僕は驚かされた。

「驚く事じゃないわ～、シルフ様の御告げがあったのよ。神授の森出身の精霊と契約している者なら、既に精霊から知らされていてもおかしくないわね～、そうじゃない？　フレイナ」

　フィーネが僕の疑問に答えながら、言葉の最後に聞いたことがない名前を告げた。

「ああ、そうだった！　出でおいでフレイナ」

　タリサの呼び掛けに答えるように、その場に小さな赤い髪をした幼い幼児のような姿をした精霊が現れた。

「この子は、炎の精霊であたいの加護精霊のフレイナ。浮遊精霊から下級精霊になったんだけど、まだまだ話すのが苦手なんだよ」

　フレイナは何も言わずひょこりとお辞儀だけをした。タリサが言うように話すのが苦手らしい。

「あたいが、このガザフに来た目的は、この子を更に成長させたいからなんだよ。硬い鉱石を扱うにはより強い炎の力が必要になってくるからね……あたいは親父のような鍛冶師になるのが目標なんだ」

　そう宣言した、真っ直ぐに目標を見据えるタリサの表情は、とても力強く見えたのだった。

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　十層に到着して遺跡で働くエルフ達や職人達との挨拶を済ませ、一気に十二層への入り口を目指した。入り口は以前の戦いの後、ラルフさんが倒れていた場所だったので、地図を確認するまでもなく迷うことなく到着した。

「十二層に降りて、先ずはこの地図の遠征ルートをなぞって行こう。地図によるとルート沿いにオークの群れがいるかもしれない、それで三人での戦いの相性を試してみよう」

　僕が地図で指し示す場所を見つめていたタリサは、黙って頷いた。オークはゴブリンより大型で力も強く、防御力も高いとても危険な魔物だった。それが群れでいるというのは普通に考えればかなりの危険度なのは間違いない。
　
「単体ならともかく群れとなると、かなり危険な相手ね……でもこの程度の相手に尻込みしているようじゃ十五層は抜けられないわよね」

「そうだね、リザードマンは硬い鱗とスピードを兼ね備えた単体でも厄介な相手だっていうし……湿地帯は足場も悪くて戦いづらい場所らしいからね」

　サラの言葉に同意しながらも、十五層について聞かされていた様々な厄介な情報に、話しているうちに今から気が滅入るような気分になった。

　それが表情に出ていたのだろう、タリサは僕の顔を見つめながら、「ハハッ、ユーリは心配性なのだな！　でも先々の心配は先ずはあたいの実力を見極めてからにしなよ！」

　タリサは巨大なハンマーをブンブンと振り回した。その小柄な体の何処からわき出てくるのか不思議な程の怪力ぶりだった。

「そうよ、それに私達もこの前の戦いでかなりの成長をしたのだし何とかなるわよ！　さあ、今日はお試しで来てるから夜営するような準備もしてきてないんだから、遅くなるといけないから急ぎましょう」

　サラに促され、僕達は目の前にある十二層への入り口に足を踏み入れたのだった。