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211:タリサの願い
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いつもは饒舌で色々と話してくれるダリルさんが、僕が着ていた装備を剥ぎ取るようにしてメンテナンスを引き受けてくれた。金額の交渉をしようとする僕に、「いいから、いいから」と言って、僕が新しい白狼装備に着替えるやいなや、店から追い出そうとした。
僕はハーフメイルをポーチに慌てて仕舞うと、とにかくハーフコートだけを引っかけて店を出た。白狼装備は少し目立つのでコートを装備するだけでも随分と印象が大人しくなる。
「なんだよぉ、兄ぃはすぐにあたいを邪魔者扱いするんだな」
タリサは店の前で、唇を尖らせて拗ねたような表情をした。一応仕事の邪魔をしていたという自覚はあったようだ。
「私、今は、猪鹿亭を宿として使ってるの」
店を出るとサラが言った。ゆっくり話すとなると猪鹿亭の食堂くらいしか僕も思い当たる場所がなかった。
「あー、懐かしいな。あたい、ラナさんとカロさんに久し振りに会うのも楽しみにしてたんだよ」
タリサは猪鹿亭をよく知っているらしい。そして、サラはタリサと意外と仲が良かったのかもしれない。猪鹿亭へ戻る道すがら頻りとエルフィーデ女王国の様子を聞いたりして楽しそうだった。
「お久しぶり! ラナさん」
「あら! タリサちゃんじゃない! 何時、ガザフに来たの?」
猪鹿亭の入り口で何時もと変わらず、庭の手入れをしていたラナさんが、タリサの挨拶を聞いてこちらに気が付いた。
「今日です。ラナさん、お元気そうで何よりです」
「ありがとう。ご両親は、お元気にしておられるかしら? もう随分、長い間お会いしてないけど」
ラナさんが、昔を懐かしむような表情でタリサに尋ねた。
「あの親父と母ちゃんが、どうにかなるなんて、想像がつかないです」
「フフッ、確かにそうかもね……ささっ、立ち話もなんですから、中にお入りになって」
そう言って、僕達に順番に【浄化】の魔法をかけると、二人を引き連れて中に入っていった。
僕はラナさんの顔の広さに改めて感心しながら、今では家に帰ってきたように感じるようになった猪鹿亭に、三人に遅れて入っていったのだった。
◻ ◼ ◻
ちょうどお茶の時間だからという事で、ラナさんは僕達に裏庭でお茶にしましょうと、告げて準備の為に調理場に向かった。
庭に出てみると、ルナとキャロの二人が、木のテーブルに座って出迎えてくれた。ルナは錬金術でポーションを作っていたようだ。
二人は二層に足繁く通って探索者ギルドにポーションを納品している。ギルドとしても、危険な場所で採取から行い、品質の良いポーションにまで仕上げて納品するルナを、とても高く評価していた。
キャロと二人で大量にレッサービーを狩り、必要に応じて蜂蜜とポーションを納品する二人のお陰で、供給と価格が安定していて、蜂蜜を必要とする店や、性能の良いポーションを必要とする、階層攻略組の要望に答えられるようになっていた。
ルナも装備や魔法の面で、戦う力を持っていたが、やはりキャロと、その加護精霊であるシルフィーの存在が大きかった。攻防に安定した力を持つ風の精霊は群体で襲ってくる可能性の高い蜂相手に、とても相性が良かったのだ。
「忙しそうだね、ルナ」
この庭に入るなり僕は、精霊達を召喚して自由に遊ばせた。ルナの作業を眺めていたキャロは、喜んでディーネとフェルトと辺りを駆け回り始めた。
「ポーションや蜂蜜はいくらでも必要みたいなんです。だから出来るだけ多く卸そうかと……それになかなかの収入なんですよ」
大人しく見えるサラだが、そういう所は商人の娘らしかった。
「以前、狼の肉を干し肉にして孤児院でも食べきれなかったので、ポーションを卸してる雑貨屋さんに売って貰ったんですが、結構人気があるみたいです……ティムとリーゼに相談にして、孤児院で三層までは安定して狩れるように皆を育成しようかと話しているんです」
羊の毛や肉も当然、需要があるだろう。だが、今までは定期的に狩られるだけで基本は放置されてきたのだ。孤児院で多少、倒して卸す程度であれば、文句が出る事もなさそうだ。
逆に言えば、今までのやり方では、また変異種のような存在を発生させる可能性があったのだ。
「精霊樹が二本もあるなんて凄い場所だね」
ルナと会話していると、タリサが、この庭にある精霊樹を見上げて感心したように声をあげた。
「でも不思議だね……あたいがここに来たのは、そんなに昔の事でもなかったと思うんだけど」
首を傾げて悩みだしたタリサに、「そ、そうね。でも、そんな事より話があるんでしょ?」
サラも精霊石の事を、無闇やたらに話すべきではないと、心得ているのだろう慌てたように話題を変えた。
「あ、そうだった! ごめん、時間を作って貰ったのに……単刀直入に言うよ。フィーネや、ここにいる精霊達を見ればあたいにも分かる。多分、一つ羽根の探索者として二人はかなりの実力者なんだろ?」
僕達の精霊を見ただけで、実力がどの程度か分かるタリサの見る目に、僕は感心した。
「……あたいを仲間に入れて欲しいんだ。もちろん実力があるか見て欲しい。その上で無理だって言うなら諦めるよ」
正直、彼女の言動を見ていて、もっと強引に仲間に入る事を求めてくるのかと思ったが……彼女の態度に、僕は最初の印象を改める事にした。
「じゃあ、明日で良ければ、一緒にダンジョンに潜ってみない?」
僕の言葉に、「もちろん! 望むところさ!」と、タリサは嬉しそうに答えたのだった。
僕はハーフメイルをポーチに慌てて仕舞うと、とにかくハーフコートだけを引っかけて店を出た。白狼装備は少し目立つのでコートを装備するだけでも随分と印象が大人しくなる。
「なんだよぉ、兄ぃはすぐにあたいを邪魔者扱いするんだな」
タリサは店の前で、唇を尖らせて拗ねたような表情をした。一応仕事の邪魔をしていたという自覚はあったようだ。
「私、今は、猪鹿亭を宿として使ってるの」
店を出るとサラが言った。ゆっくり話すとなると猪鹿亭の食堂くらいしか僕も思い当たる場所がなかった。
「あー、懐かしいな。あたい、ラナさんとカロさんに久し振りに会うのも楽しみにしてたんだよ」
タリサは猪鹿亭をよく知っているらしい。そして、サラはタリサと意外と仲が良かったのかもしれない。猪鹿亭へ戻る道すがら頻りとエルフィーデ女王国の様子を聞いたりして楽しそうだった。
「お久しぶり! ラナさん」
「あら! タリサちゃんじゃない! 何時、ガザフに来たの?」
猪鹿亭の入り口で何時もと変わらず、庭の手入れをしていたラナさんが、タリサの挨拶を聞いてこちらに気が付いた。
「今日です。ラナさん、お元気そうで何よりです」
「ありがとう。ご両親は、お元気にしておられるかしら? もう随分、長い間お会いしてないけど」
ラナさんが、昔を懐かしむような表情でタリサに尋ねた。
「あの親父と母ちゃんが、どうにかなるなんて、想像がつかないです」
「フフッ、確かにそうかもね……ささっ、立ち話もなんですから、中にお入りになって」
そう言って、僕達に順番に【浄化】の魔法をかけると、二人を引き連れて中に入っていった。
僕はラナさんの顔の広さに改めて感心しながら、今では家に帰ってきたように感じるようになった猪鹿亭に、三人に遅れて入っていったのだった。
◻ ◼ ◻
ちょうどお茶の時間だからという事で、ラナさんは僕達に裏庭でお茶にしましょうと、告げて準備の為に調理場に向かった。
庭に出てみると、ルナとキャロの二人が、木のテーブルに座って出迎えてくれた。ルナは錬金術でポーションを作っていたようだ。
二人は二層に足繁く通って探索者ギルドにポーションを納品している。ギルドとしても、危険な場所で採取から行い、品質の良いポーションにまで仕上げて納品するルナを、とても高く評価していた。
キャロと二人で大量にレッサービーを狩り、必要に応じて蜂蜜とポーションを納品する二人のお陰で、供給と価格が安定していて、蜂蜜を必要とする店や、性能の良いポーションを必要とする、階層攻略組の要望に答えられるようになっていた。
ルナも装備や魔法の面で、戦う力を持っていたが、やはりキャロと、その加護精霊であるシルフィーの存在が大きかった。攻防に安定した力を持つ風の精霊は群体で襲ってくる可能性の高い蜂相手に、とても相性が良かったのだ。
「忙しそうだね、ルナ」
この庭に入るなり僕は、精霊達を召喚して自由に遊ばせた。ルナの作業を眺めていたキャロは、喜んでディーネとフェルトと辺りを駆け回り始めた。
「ポーションや蜂蜜はいくらでも必要みたいなんです。だから出来るだけ多く卸そうかと……それになかなかの収入なんですよ」
大人しく見えるサラだが、そういう所は商人の娘らしかった。
「以前、狼の肉を干し肉にして孤児院でも食べきれなかったので、ポーションを卸してる雑貨屋さんに売って貰ったんですが、結構人気があるみたいです……ティムとリーゼに相談にして、孤児院で三層までは安定して狩れるように皆を育成しようかと話しているんです」
羊の毛や肉も当然、需要があるだろう。だが、今までは定期的に狩られるだけで基本は放置されてきたのだ。孤児院で多少、倒して卸す程度であれば、文句が出る事もなさそうだ。
逆に言えば、今までのやり方では、また変異種のような存在を発生させる可能性があったのだ。
「精霊樹が二本もあるなんて凄い場所だね」
ルナと会話していると、タリサが、この庭にある精霊樹を見上げて感心したように声をあげた。
「でも不思議だね……あたいがここに来たのは、そんなに昔の事でもなかったと思うんだけど」
首を傾げて悩みだしたタリサに、「そ、そうね。でも、そんな事より話があるんでしょ?」
サラも精霊石の事を、無闇やたらに話すべきではないと、心得ているのだろう慌てたように話題を変えた。
「あ、そうだった! ごめん、時間を作って貰ったのに……単刀直入に言うよ。フィーネや、ここにいる精霊達を見ればあたいにも分かる。多分、一つ羽根の探索者として二人はかなりの実力者なんだろ?」
僕達の精霊を見ただけで、実力がどの程度か分かるタリサの見る目に、僕は感心した。
「……あたいを仲間に入れて欲しいんだ。もちろん実力があるか見て欲しい。その上で無理だって言うなら諦めるよ」
正直、彼女の言動を見ていて、もっと強引に仲間に入る事を求めてくるのかと思ったが……彼女の態度に、僕は最初の印象を改める事にした。
「じゃあ、明日で良ければ、一緒にダンジョンに潜ってみない?」
僕の言葉に、「もちろん! 望むところさ!」と、タリサは嬉しそうに答えたのだった。
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