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207:リサさんとの話し合い1

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「良く来た。まあ座ってくれ」

 一瞬で十層まで到達出来るというのが僕の中でも徐々に当たり前になってきていた。最初の頃の飛ばされる瞬間の緊張感も、最近では感じる事もすっかり無くなっていた。

 執務室に入り、リサさんの執務室のソファーに座ると同時に、

「姉さん、今日、ギルドに呼び出されてクランの話を聞かされたわよ。エルフィーデのというか、いくらミリア様の肝いりとは言っても、少々強引すぎないかしら? もう既にクラン名まで決まっていて団長にナタージャ様まで決まっているなんて……いつから計画していたの?」

 サラはソファーに座ると開口一番に、リサさんに文句を言い始めた。何時も通りの変わらないサラの勢いに、リサさんも苦笑いの表情を浮かべ黙って耳を傾けていたが、言いたい事を言って、すっきりした表情のサラが黙ると、宥めるように話を始めた。

「ああ、確かに強引と言えばそうだな……だが元々の計画はユーリを無理やり引っ張り込もうとするような類いの話ではなかったさ」

 そう言ったリサさんの表情は、過去の出来事を思い出してでもいるかのようだった。

「それじゃあ何で、ギルド長自ら呼び出してクラン入りの話になるわけ? しかも、あの無表情の受付嬢までクラン入りを希望していて、ギルド長がそれを後押ししているみたいだし。それに今の話し振りだと、やっぱり知ってたのよね?」

 サラの口調が以前の少し遠慮した物から、普通の姉妹の口喧嘩のようになっている。査察団を抜けたサラにとっては、いまのリサさんは、只の姉に過ぎないようだ。

「エルフィーデのクランを作る話は、サラ、お前も良く知るダンジョンで若い有望な人材を育てようとする事と関係している。クランをその母体にしようという事だ。査察団の活動とは別の物で、私もミリア様からそれとなく聞かされていた程度だ」

「そ、そうなのね……じゃあ実際のところ姉さんも、それほど詳しくは知らなかったって事? ミリア様の提案と聞いたから私はてっきり姉さんが影で動いてるのとばかり……」

 事実を聞いてサラの話の勢いが一気に下がった。

「ああ、実際のギルドとのやり取りはミリア様が代行されている。まあ代行と言っても、過去に存在したクランの再稼働申請を手紙で依頼していた程度みたいだがな。既に存在していたクランだから、手続きにそれほど手間もかからないし、活動資金などもずっとギルドに預けたままみたいだからな」

 クラン名が決まっていたのも、過去に存在したクランの再利用だからに過ぎず、単純に手続きだけの問題だったらしい。話を聞いてみれば特に驚くような内容でもなかった。

「新たに新設するとなると色々と政治的思惑が絡んでややこしい事になりそうだが……既にあるクランなら、ギルドも余計な波風も立ちにくいだろう。まあ実際に稼働すれば話題には事欠かないだろうがな」

 そう言うリサさんの表情は、なんだか楽しそうに見えた。

「それなら~、ユーリのクラン入りの話は何処からでたのかしら~」

 勢いの衰えたサラに代わって、今度はフィーネが質問を始めた。

「それは……ミリア様がこの前の会議で、ユーリのガザフ領軍入りを阻止する為に、口から出任せを仰ったからだ。事前に申請してあったクランにユーリを参加させる予定だと発言された。レイラ殿も申請を受け付た立場だからな、話は聞いていると証言されたよ。それで周囲の者も納得したようだ」

「口から出任せって……姉さん……」

 サラの呆れたような呟きに、リサさんは一つ頷くと、

「ユーリが領軍入りして遠征に参加するのは、本人が希望するなら悪い話ではないのかもしれん。だがミリア様が忌避されたのは、一部の評議員からユーリの土壁の魔法を城壁拡張に使えないか等という意見まで飛び出したからだ」

「まさか! ダンジョンの危機なのよ! もちろん城壁拡張は大切かもしれないけど……」

 サラが呆れと怒りに満ちた表情で叫んだ。

「城壁の拡張は移民対策ではあるが、雇用を創出する経済政策の意味もあるのだがな……あの評議員は目先の利益しか見えていないようだ……いや、この話は今、関係なかったな」

 リサさんは誤魔化すように、「こほん」と咳払いすると、話を続けた。

「我々はダスティン辺境伯殿の人となりは知っている。現にその評議員を黙らせたのは、ダスティン辺境伯だ。だがリザール執政官は黙っておられた。そして、今のガザフは執政官と評議会が運営している。特に評議会の力が今は強いようだ」

「つまり、ガザフには任せておけないと?」

 サラが納得したような表情で尋ねた。

「そうだ。ダスティン辺境伯がご健在の間は、共闘するのは問題ないだろう。だが全てを信頼はできん……それに私とミリア様は、ぬるま湯に浸かったように守られながら強さを得た者では、いずれ限界が来ると考えている」

「ということは……無表情の受付嬢が領軍への派遣を拒否したのは……」

 サラが思い当たったとでも云うように呟いた。

「ああ、サラ、お前が査察団を抜けてユーリと共に、階層攻略を行いたいと、考えたのと同じ理由ではないか? 本当の意味での強さを得るためには、自分で考え、自力で階層を抜ける必要があると知っているのだろう……その為の仲間は自分で選ぶ。つまりは、そう言うことなのだろう」

 僕にもこの話は納得ができた。ダンジョンは常に試練を与えてくる可能性のある場所なのだ。更に下層に潜れば、ぬるま湯に浸かったように育てられた者が、生き延びられるとは思えなかった。

 僕は安全圏と言われる三層で十分に、その洗礼を受けて思い知らされていたのだった。
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