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204:新たなクラン
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僕はギルド長のレイラさんに呼び出され、彼女の執務室のソファーに座り話を聞いていたのだが……突然、飛び出したその言葉に、僕は間が抜けたような声で答えた。
「随分といきなりな話なんですね、私達は二人きりのパーティーで階層攻略を始めようと話し合っていたところなんですが……まあ私達の場合、精霊達も居ますから正確に言うと二人ではありませんけど」
ギルド長相手でも、少しも気にした様子もなく普通に言いたいことを言うのは、僕の隣にいるサラだった。
魔人との戦いの後、リサさんから許可を得たサラは、エルフィーデに関する一切の任務から解放されて、一人の探索者としてここにいる。
エルフィーデの任務が終わった事で、孤児院に常駐する名目を失ったサラは、僕の定宿の猪鹿亭に移ってきた。
精霊樹が二本も庭にある環境は、都市ガザフの中でもここだけなので、サラとその加護精霊のフィーネにとってこの場所は、とても寛げる場所らしい。
「ああ、勘違いしないで欲しいのは、これは探索者ギルドからの申し出という訳ではないのよ。エルフィーデ女王国のミリア殿の提案なの。そう言う意味では、貴女がユーリと一緒に行動する事は、端から見れば誰の肝いりのクランかと言うことが、分かりやすくて良いかもしれないわね」
レイラはサラの物言いなど気にした素振りも見せず、淡々と言葉を続ける。
「エルフィーデ女王国の肝いりのクランという事ですから、当然の事ですが技術的な支援も受けられるでしょうし……あなた方にも悪い話とは思えませんが?」
何だか返事をするまでもなく、次々と色々な事柄が決定していくようで、僕は感触の良いソファーに座りながらも居心地の悪い想いをしていた。
「一介の探索者となったとはいえ、私もエルフィーデ女王国のエルフです……ミリア様の思惑があると云うのでしたら軽々しく拒絶できません……ところでクランという事でしたら団長のようなものが必要かと思いますけど……ユーリという事でしょうか?」
ミリアさんの名前が出た事で、サラは一瞬でクラン構想を受け入れたらしい。元々、サラは強くなるために僕と行動するつもりなので、形がどうなっても構わないのかもしれなかった。
もしこれが探索者ギルドからの提案だったとすれば、サラももう少し色々と反論したかもしれなかった。
「あの……僕に人を率いるような力はありませんよ……」
僕がおずおずと、そう遠慮がちに意見すると、
「力についてはどうかしら? まあ本人の意志も大切よね……でも安心なさいな、この目論見は、あなたが心置きなくダンジョンで成長する事が本来の目的なのよ。あなたにはリーダーとしての葛藤や、妙な輩からのちょっかいに対応するような事で、悩みを抱えて貰いたくないという事よ」
ここまで話が進んでようやく理解が出来た。
「……ニースの力ですね」
僕の問いかけにレイラは大きく頷いた。
「そうね……でもそれだけじゃないのは貴方が一番よく分かっているのじゃなくて?」
レイラさんの言葉に色々と思い当たる事が有りすぎる僕が黙り込むと、
「なるほどね~、ところでユーリじゃないなら、ミリア様はどなたを投入するおつもりかしら~」
部屋の窓際でニースと並んで座りながら、外の様子を眺めていたフィーネが、こちらを振り向きながら聞いてきた。
「確か、本国で暇そうにしている、どら猫をダンジョンに放とうかしら? と仰ってたわね……」
レイラさんのその言葉にサラが飛び上がるように反応して、
「は~、ナターシャ様ですか……でも確かに今の状況を考えれば、意外と良いお考えかも……あの攻撃力があの時、あれば……」
ぶつぶつと独り言のような呟きを始め、自分の世界に入り込んでしまったサラを、フィーネは放置したまま更に問い掛けた。
「クラン名は何にするの~、用意周到な貴女の事だから、とっくに全てのお膳立ては済んでるんでしょうね~」
ふよふよと飛んできたフィーネが、その幼い容姿に似合わない笑顔で尋ねた。
「ええ、もちろん! 名前も決まっているわよ……この探索者ギルドが設立された当時に、エルフ達が設立した始まりのクラン……[精霊達の宿り木]というの」
レイラさんが伝えたその名前に、自分の世界に入り込んでいたサラが、「その名前、エルフィーデ女王国にも伝わってるんですけど……ある意味伝説のクランとして」
サラの驚きの声を聞かなかったように受け流し、「それから、これは探索者ギルドからのお願いなんだけど……そのクランに一人加えて欲しい人材がいるんだけど」
レイラさんの笑顔を見て、今度こそは最も警戒すべき表情だと僕は確信したのだった。
「随分といきなりな話なんですね、私達は二人きりのパーティーで階層攻略を始めようと話し合っていたところなんですが……まあ私達の場合、精霊達も居ますから正確に言うと二人ではありませんけど」
ギルド長相手でも、少しも気にした様子もなく普通に言いたいことを言うのは、僕の隣にいるサラだった。
魔人との戦いの後、リサさんから許可を得たサラは、エルフィーデに関する一切の任務から解放されて、一人の探索者としてここにいる。
エルフィーデの任務が終わった事で、孤児院に常駐する名目を失ったサラは、僕の定宿の猪鹿亭に移ってきた。
精霊樹が二本も庭にある環境は、都市ガザフの中でもここだけなので、サラとその加護精霊のフィーネにとってこの場所は、とても寛げる場所らしい。
「ああ、勘違いしないで欲しいのは、これは探索者ギルドからの申し出という訳ではないのよ。エルフィーデ女王国のミリア殿の提案なの。そう言う意味では、貴女がユーリと一緒に行動する事は、端から見れば誰の肝いりのクランかと言うことが、分かりやすくて良いかもしれないわね」
レイラはサラの物言いなど気にした素振りも見せず、淡々と言葉を続ける。
「エルフィーデ女王国の肝いりのクランという事ですから、当然の事ですが技術的な支援も受けられるでしょうし……あなた方にも悪い話とは思えませんが?」
何だか返事をするまでもなく、次々と色々な事柄が決定していくようで、僕は感触の良いソファーに座りながらも居心地の悪い想いをしていた。
「一介の探索者となったとはいえ、私もエルフィーデ女王国のエルフです……ミリア様の思惑があると云うのでしたら軽々しく拒絶できません……ところでクランという事でしたら団長のようなものが必要かと思いますけど……ユーリという事でしょうか?」
ミリアさんの名前が出た事で、サラは一瞬でクラン構想を受け入れたらしい。元々、サラは強くなるために僕と行動するつもりなので、形がどうなっても構わないのかもしれなかった。
もしこれが探索者ギルドからの提案だったとすれば、サラももう少し色々と反論したかもしれなかった。
「あの……僕に人を率いるような力はありませんよ……」
僕がおずおずと、そう遠慮がちに意見すると、
「力についてはどうかしら? まあ本人の意志も大切よね……でも安心なさいな、この目論見は、あなたが心置きなくダンジョンで成長する事が本来の目的なのよ。あなたにはリーダーとしての葛藤や、妙な輩からのちょっかいに対応するような事で、悩みを抱えて貰いたくないという事よ」
ここまで話が進んでようやく理解が出来た。
「……ニースの力ですね」
僕の問いかけにレイラは大きく頷いた。
「そうね……でもそれだけじゃないのは貴方が一番よく分かっているのじゃなくて?」
レイラさんの言葉に色々と思い当たる事が有りすぎる僕が黙り込むと、
「なるほどね~、ところでユーリじゃないなら、ミリア様はどなたを投入するおつもりかしら~」
部屋の窓際でニースと並んで座りながら、外の様子を眺めていたフィーネが、こちらを振り向きながら聞いてきた。
「確か、本国で暇そうにしている、どら猫をダンジョンに放とうかしら? と仰ってたわね……」
レイラさんのその言葉にサラが飛び上がるように反応して、
「は~、ナターシャ様ですか……でも確かに今の状況を考えれば、意外と良いお考えかも……あの攻撃力があの時、あれば……」
ぶつぶつと独り言のような呟きを始め、自分の世界に入り込んでしまったサラを、フィーネは放置したまま更に問い掛けた。
「クラン名は何にするの~、用意周到な貴女の事だから、とっくに全てのお膳立ては済んでるんでしょうね~」
ふよふよと飛んできたフィーネが、その幼い容姿に似合わない笑顔で尋ねた。
「ええ、もちろん! 名前も決まっているわよ……この探索者ギルドが設立された当時に、エルフ達が設立した始まりのクラン……[精霊達の宿り木]というの」
レイラさんが伝えたその名前に、自分の世界に入り込んでいたサラが、「その名前、エルフィーデ女王国にも伝わってるんですけど……ある意味伝説のクランとして」
サラの驚きの声を聞かなかったように受け流し、「それから、これは探索者ギルドからのお願いなんだけど……そのクランに一人加えて欲しい人材がいるんだけど」
レイラさんの笑顔を見て、今度こそは最も警戒すべき表情だと僕は確信したのだった。
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