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197:下級魔人4

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 幼い精霊のディーネが放ったとは思えない膨大な魔力の宿った魔法の矢は、真っ直ぐ上空の魔人剣の元に向かい奔流に全く影響を受けることなくスッとすり抜けるように内部で奔流に守られる形で魔人剣を貫いた。

「精霊石の力を借りたんだよね……」

 ディーネの【マナ・ドレイン】と【ドレイン・スプラッシュ】だけでは、これだけの威力を発揮出来ない。

 膨大な魔素を精霊石に直接集めディーネの能力がそれを媒介することで、ディーネ自身に影響を与えず魔法の矢を生成したのだ。

『吸収した魔素の属性をそのまま魔力として放つだと⁉ ……その精霊……なるほど元妖魔の転生体ですか。そのような混ざり者を何の影響も受けずに使役する存在、純粋でない物を平気で受け入れる精神と体質持ち……なるほど貴方ですか……そこのハーフエルフ……』

 魔人はそう言うと僕の方を始めて意識したように見た。その事に気がついたサラとフィーネが僕が慌てて作った土壁に【ウィンドウォール】を重ねた。

『なるほど土魔法と風魔法による物理と魔法の防御……どうやら最初に貴様を殺しておかなければならなかったのですね……ですがまだ間に合います。全ての防御を捨てて放つこの攻撃ならば……』

 土壁越しにもこの声と恐ろしい魔力が伝わってきた。

「ユーリ、逃げて! 防ぎ切れないかもしれない!」

 サラの悲鳴のような声が聞こえた。

「あら~、これは不味いかしら~ ミリア様達もダスティン辺境伯もさっきの魔法攻撃の為に距離をとっていて魔人が何をしているのか気がついてないみたい。間に合わないわ~」

 悠長に聞こえるフィーネの言葉だったが、その伝えてくる内容は悠長さとは程遠かった。

 僕達が最初に気がついたのは、土壁を作る為に僕が魔人の近くに居たためだった。黒炎の威力を土壁で少しでも防げないかと考えたからだ。

「サラ! 逃げて僕は少しでも土壁の数を増やすから!」

 僕は自分の前に次々と土壁を作り防壁を厚くしていった。一枚が壊されても次の物を砕くうちに威力が落ちていくに違いない……何枚必要かは分からなかったが……

(なんとかサラ達だけでも……)

 僕が密かにそんな焦燥を抱えているその時――

「【えいっ】」

 上空から可愛い声が響いた。些か気が抜けそうになるその声が何なのか僕はとても良く知っていたのだった。

◻ ◼ ◻

 ニースが常に握って力を込めているそれは、いくら魔力を込めても大きさは変化しない。

 小さなニースが握れるような小ささなのだが込められた魔力は膨大で、とても濃縮された魔力を保持していた。

 ユーリの成長と共に強くなったニースの力が蓄積されたその小石は、前回ゴブリンジェネラルに放たれた物とは別の物に成長していた。

『防壁を大量に展開しているようですが、無駄ですよ……魔人剣を犠牲にした黒炎は失敗に終わりましたが、今度は私の体内で生成していますからね。妖魔もどきも邪魔は出来ませんよ……どうやら諦めて逃げていくようですね。何せ私の本当の最後の切り札ですから……結果を見られないのは残念ですよ』

 魔人のひとりが語りが続いた。魔人の体内では膨大な魔素が蓄積されている。

『さあ解放を……グフッ⁉』

 その蓄積した魔人の胸を上空から飛来した小石が貫き、地面に到達すると凄まじい爆発を引き起こした。

『バカな! この防御を貫く遠隔攻撃だと⁉ 奴等のミスリル武器では技を絡めた近接攻撃ならともかく、魔法の矢の威力では……大地の精霊の眷族ですか⁉』

 空を見上げた魔人の下半身は、小石の爆発で吹き飛んでいて既に存在しなかった。

『魔人よ無様だな。残りの魔素は我が有効に活用してやろう。我の復活も近い』

 身動きの取れなくなった魔人に接近した闇夜の精霊は、貪欲に魔素の吸収を始めた。

『最後に聞きましょう、闇夜の精霊よ貴様の真の目的は……なるほど先祖還りですか……』

 魔人は問いかけようとして黙り込み納得したように頷いた。

『ハッ! その通り、このまま下層に潜り魔物を吸収しまくってやるのだ! ……そうすれば、大精霊フェンリル様の力さえ……』

 闇夜の精霊は、その本性を露にした。それは強さを求める者の力への渇望を感じさせた。邪悪な意思は無かったとしても、周囲を災厄に巻き込む危険な兆候が顕れていた。

『貴方は古き眷族の中でも我々に近い存在のようだが……だが根本的には別の存在……滅びの意思を持たない。だがその目論見も上手くいきますかね……』

 思わせ振りな魔人のその言葉に気を悪くした闇夜の精霊が――

『もう喋るな死に損ないめ、黙って我の贄となれ』

 更に力を込めた魔素吸収によって、魔人は崩れるように魔素の霧に還っていった。

『ふん、やっと静かになったか……そろそろこの身体ともお別れだな。我が抜ければ力の大半を失うであろうが……この男は静かな暮らしを望んでいたようだ……恨みはすまい』

 そう言うとその場を離れた。周囲では魔人が消滅した事への喜びの声で溢れ返っていて、誰も闇夜の精霊の呟きを聞いている者はいなかったのだった。
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