上 下
194 / 213

194:下級魔人1

しおりを挟む
 駿足の踏み込みで距離を詰めたニールセン老騎士は、黒い両手剣を振りかぶり魔人に降り下ろした。

「ほー、ワシの降り下ろしをこんなに簡単にしかも片手持ちで止めて、しかも刃こぼれひとつせんか……この両手剣の強化魔法はこの剣の限界強度いっぱいなんじゃがのう……次いくぞい」

 そういうと素早く回転して両手剣を横薙ぎに振るった。

「なるほど、少なくとも地竜よりは丈夫みたいじゃな」

 ニールセン老騎士の降り下ろしを右手に持った魔人剣で受け止め、身体の回転を利用した横薙ぎの一閃をその黒い鱗に覆われた左腕で受け止めた。

『なるほどなかなかの威力だ、腕の半分まで到達したか……やはり人間は侮れんな』

 そう言うと今度はお返しとばかりにニールセン老騎士に向かって魔人剣を振るった。

 それから両者の打ち合いは続いた。巨大な大剣での技の応酬は凄まじく、周囲にいる騎士達も義勇軍の者も加勢する事が出来なかった。

(僕なんかが下手に踏み込んだらどちらかの剣にやられそうだった)

 それはガザフの騎士達も同じらしく固唾を飲んで見守っている様子からもその事が分かった。

「あんな戦いに加勢出来るとしたら、派遣されてきたエルフィーデの戦士の中でもミリア様かリサ姉さんか後は……ナザリー副長くらいかしら……エミリさんも気が弱いけど意外といけそうかな……」

 僕の側に来たサラが食い入るように戦いを見守っている。

(エミリさんと言えば最初の防衛戦でリサさんの撤退命令のきっかけとなる意見を言った人だよね、あのエルフさん幼そうに見えたけど強かったんだね……)

「あら~、でもあそこの義勇軍のご老体達はサラみたいな気弱な様子じゃないようよ~」

 寄ってきたフィーネが指し示す先では――

「ニールセン、そろそろワシと代われ! 足元がふらついておるぞ、無理をするな! ワシの両手槍の出番じゃ」

「いかんぞ! ワシの両手斧が動き出しそうじゃ! このままでは大変な事になってしまうわい」

 義勇軍の老騎士達が一人戦うニールセン老騎士に向かって頻りに声援を送っていた。

(あれは声援だよね⁉)

「やれやれ年は取りたくないもんじゃわい、魔人よワシがもうちっと若い時に出てきて欲しかったのう」

 魔人から距離を取ったニールセン老騎士は片膝を突き胸を押さえている。彼の黒い鎧は黒魔鉄製のハーフメイルだったが、その防具が陥没していた。

『人間、お前は人間で言うところの老成体という状態にあるな……技の技量は見事だが、人間としての全盛期は過ぎているようだな。確かにお前が全盛期の頃であれば、次撃の段階で腕が飛んでいたであろうな。では去らばだ』

 魔人はそう言うと持っていた大剣に力を込めた。

「魔法剣⁉ 不味い!」

 僕は咄嗟に飛び出し、土壁を使おうとしたが距離が遠くて間に合いそうになかった。

 魔人の持つ大剣から黒い【風刃】のようなものが放たれた。

「【ストーンウォール】」

 上空から可愛い声が響きニールセン老騎士の前に土壁が生まれた。上空にはルピナスに乗ったニースの姿が見えたが、ルピナスは「ピピッ」と一声泣くとニースを乗せて逃げて行った。

 黒い【風刃】はニースの生んだ土壁に到達し、轟音が起こった。

「土壁が……」

 ニースの土壁は黒い【風刃】の一撃を防いでくれたが轟音と共に崩れ去った。

 僕とサラそしてゼダさん達が、ニールセン老騎士の元に到達し、僕はすぐさま土壁を生み出し、サラとフィーネが【ウィンドウォール】を重ねがけしてくれた。

 ゼダさん達に担がれるようにしてニールセン老騎士が後方に下がって行った。

 その僕の目に義勇軍の老騎士達が、魔人に殺到する姿が写った。

『どうやら、お前達人間は衰退期にあるようだな。この状況において向かって来るのが老成体ばかりとはな……』
 
 魔人のその言葉に――

「何、寝ぼけた事を言ってやがる! 俺達人間は死ぬ順番が決まっているってのよ! 若けえ奴等が順番を抜かそうとした時にや嫌味ったらしく順番を守れと怒鳴りつけるのが、嫌なじじいの役割よ!」

 義勇軍の老騎士の一人が、そう魔人に叫んだ。

「俺は良いじじいだから、可愛い孫が悲しむかもな」

「だが女房は俺がくたばれば、さぞせいせいするだろうよ!」

「ちげえねえ」

 義勇軍の老騎士達は、そう口々に言うと魔人に向かって各々の得意武器を振るった。

『そうか、ならば先に逝くのだな』

 魔人はそう言うと大剣に力を込め始めた。

「あら、エルフは長生きだから人間の順番なんて守らないわね」

 そう言って突然、現れたミリアさんが、ミスリルの片手剣を振るった。

「【風切斬一閃:斬舞】」

 ミリアさんの放った複数の斬撃が、魔人の持つ大剣を右手ごと切り飛ばしたのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...