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190:闇精霊1
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弓による遠隔攻撃と、領軍の騎士達による波状攻撃は、たった一匹の魔物の防御を削るために繰り返された。
(かなりの消耗戦になってるみたいだ……)
土壁で思っていたより広い防御拠点を作り終えながら領軍の騎士達やエルフ達の戦う姿を見て心配していると、普段の穏やかなラルフさんではなく、少し厳しい表情を見せたラルフさんに声をかけられた。
「ユーリさん、私が闇の精霊に憑依されているのは良くご存知ですよね」
ラルフさんの話に僕は頷いた。僕が今ここにいるのもラルフさんの闇精霊の囁きのような警告――
『ソナタのデキルコトヲせよソレガ……オマエタチのタメダ……コレハ……ワレノ【慈悲】デアル』という囁きに導かれるようにここまできたのだ。
「もちろんです、闇精霊の警告に従ったお陰で、ある程度の先手を打てたと言ってもいいんですから」
僕のこの言葉にラルフさんも頷いた。
「はい、私もユーリさんに思い切って相談して良かったと思っています。だから私がこれからしようとする事をユーリさんに事前に相談すべきだと思ったのです」
ラルフさんの言葉に僕は緊張してしまった。
「僕で良いんですか?」
雰囲気からするラルフさんにとってかなり重要な相談事のようだった。
「ええ、実はさっきまで精霊の声に従って実行に移そうと考えていたのです。状況を見ているとそれしか方法が無いように思えて来まして……」
ラルフさんには、消耗戦のような状況を好転させるような何かがあるような口振りだった。
「何か危険な方法なのですか」
これほどの状況に変化を与える手段であれば、相応の危険を伴うのではと考えて、僕はそう尋ねた。
「ディーネさんが使う【マナ・ドレイン】に近い吸収系の力と良く似た闇属性の力と思って貰ってかまいません」
そこまで聞いて僕にもラルフさんのやろうとしている事が理解できた。
「ラルフさんの中にいる闇精霊が、あの防御膜を吸収するという事ですか?」
(あれだけの攻撃を受けて小揺るぎ程度しかしない黒い防御膜を吸収する? 吸収したとしても本体から補充されるみたいだし)
「ゴブリンジェネラルから大量の魔素を吸収した事で、目覚めかけてるようなんですよ。だから吸収させろと騒いでいまして」
ラルフさんは特に気にする様子もなくそう口にしたのだが――
「それって、目覚めさせると駄目なんじゃないですか? ミリア様かリサ姉さんに相談してみたらどうです?」
リサさんの元に行っていたサラが、戻ってくるなりそう言ったのだった。
◻ ◼ ◻
僕が作った土壁の建物には、驚いた事にダスティン辺境伯と両手杖を持った名前の知らない騎士と、いつの間にか移動してきたマリアさんの姿があった。
広めに作った部屋の中にはどこから持ってきたのか長テーブルと椅子まで設置されていた。
ダスティン辺境伯と名前の知らない騎士とマリアさん、そしてミリアさんとリサさんは戦場が見える位置に座り、今も繰り返される攻撃を見守っているようだ。
「リサ姉さん、少し時間いいかしら? ラルフさんが話をしたいみたいなんだけど……」
サラがリサさんに確認してくれた。リサさんとはラルフさんも面識があるし共に戦った仲だ、それにラルフさんの闇精霊についても知っているので話が早い。この件の判断を仰ぐには最適な人選だった。
リサさんがチラリとミリアさんを見て、ミリアさんが頷いたので、僕達は倉庫用に用意した別室に移動したのだった。
◻ ◼ ◻
「なるほど、あれを吸収する事が出来るのなら朗報と言えるが……それで別の何かが目覚めるというのが気になるな……セルフィーナ頼めるか?」
恐らく最初から側に居たのだろう上位精霊のセルフィーナが姿を見せた。
『リサ、最初に見たときは希薄な状態ではっきりしなかったのだけど、四大精霊に匹敵する存在、――闇のフェンリル……の眷族だわ』
セルフィーナの言葉にその場にいる全員が黙り込んだ。ラルフさんもまさかの大物の名前に驚いているようだった。
「さすがに眷族とはいえ、大物すぎるな……あれだけのゴブリンキングの魔素を吸収して復活すればかなりの高位な眷族となりそうだな……どう思うセルフィーナ?」
リサさんが、考え込みながらそう尋ねた。僕は自分では闇精霊に対する偏見は少ない方だと思っている。ディーネの普段の姿を見ていれば闇属性が悪であるという考え方が間違いであるのは良く分かるのだ。
だがその考えも幼い容姿のディーネだからと、ディーネが浮遊精霊として生まれ変わる時に、水属性の特性を併せ持ち妖魔としての闇を一部しか残しておらず、少し色黒の水精霊といった感じだからだった。
(高位の闇精霊が復活するって聞いて不安にならないと言えば嘘になるよね)
『私は賛成よ。得体の知れない存在を残すか、古き同胞を残すかと問われれば、多少相性が悪くても同胞を当然ながら選択するわね』
どうやら精霊にとっては闇精霊といえども、同胞の一種に過ぎないようだった。
(かなりの消耗戦になってるみたいだ……)
土壁で思っていたより広い防御拠点を作り終えながら領軍の騎士達やエルフ達の戦う姿を見て心配していると、普段の穏やかなラルフさんではなく、少し厳しい表情を見せたラルフさんに声をかけられた。
「ユーリさん、私が闇の精霊に憑依されているのは良くご存知ですよね」
ラルフさんの話に僕は頷いた。僕が今ここにいるのもラルフさんの闇精霊の囁きのような警告――
『ソナタのデキルコトヲせよソレガ……オマエタチのタメダ……コレハ……ワレノ【慈悲】デアル』という囁きに導かれるようにここまできたのだ。
「もちろんです、闇精霊の警告に従ったお陰で、ある程度の先手を打てたと言ってもいいんですから」
僕のこの言葉にラルフさんも頷いた。
「はい、私もユーリさんに思い切って相談して良かったと思っています。だから私がこれからしようとする事をユーリさんに事前に相談すべきだと思ったのです」
ラルフさんの言葉に僕は緊張してしまった。
「僕で良いんですか?」
雰囲気からするラルフさんにとってかなり重要な相談事のようだった。
「ええ、実はさっきまで精霊の声に従って実行に移そうと考えていたのです。状況を見ているとそれしか方法が無いように思えて来まして……」
ラルフさんには、消耗戦のような状況を好転させるような何かがあるような口振りだった。
「何か危険な方法なのですか」
これほどの状況に変化を与える手段であれば、相応の危険を伴うのではと考えて、僕はそう尋ねた。
「ディーネさんが使う【マナ・ドレイン】に近い吸収系の力と良く似た闇属性の力と思って貰ってかまいません」
そこまで聞いて僕にもラルフさんのやろうとしている事が理解できた。
「ラルフさんの中にいる闇精霊が、あの防御膜を吸収するという事ですか?」
(あれだけの攻撃を受けて小揺るぎ程度しかしない黒い防御膜を吸収する? 吸収したとしても本体から補充されるみたいだし)
「ゴブリンジェネラルから大量の魔素を吸収した事で、目覚めかけてるようなんですよ。だから吸収させろと騒いでいまして」
ラルフさんは特に気にする様子もなくそう口にしたのだが――
「それって、目覚めさせると駄目なんじゃないですか? ミリア様かリサ姉さんに相談してみたらどうです?」
リサさんの元に行っていたサラが、戻ってくるなりそう言ったのだった。
◻ ◼ ◻
僕が作った土壁の建物には、驚いた事にダスティン辺境伯と両手杖を持った名前の知らない騎士と、いつの間にか移動してきたマリアさんの姿があった。
広めに作った部屋の中にはどこから持ってきたのか長テーブルと椅子まで設置されていた。
ダスティン辺境伯と名前の知らない騎士とマリアさん、そしてミリアさんとリサさんは戦場が見える位置に座り、今も繰り返される攻撃を見守っているようだ。
「リサ姉さん、少し時間いいかしら? ラルフさんが話をしたいみたいなんだけど……」
サラがリサさんに確認してくれた。リサさんとはラルフさんも面識があるし共に戦った仲だ、それにラルフさんの闇精霊についても知っているので話が早い。この件の判断を仰ぐには最適な人選だった。
リサさんがチラリとミリアさんを見て、ミリアさんが頷いたので、僕達は倉庫用に用意した別室に移動したのだった。
◻ ◼ ◻
「なるほど、あれを吸収する事が出来るのなら朗報と言えるが……それで別の何かが目覚めるというのが気になるな……セルフィーナ頼めるか?」
恐らく最初から側に居たのだろう上位精霊のセルフィーナが姿を見せた。
『リサ、最初に見たときは希薄な状態ではっきりしなかったのだけど、四大精霊に匹敵する存在、――闇のフェンリル……の眷族だわ』
セルフィーナの言葉にその場にいる全員が黙り込んだ。ラルフさんもまさかの大物の名前に驚いているようだった。
「さすがに眷族とはいえ、大物すぎるな……あれだけのゴブリンキングの魔素を吸収して復活すればかなりの高位な眷族となりそうだな……どう思うセルフィーナ?」
リサさんが、考え込みながらそう尋ねた。僕は自分では闇精霊に対する偏見は少ない方だと思っている。ディーネの普段の姿を見ていれば闇属性が悪であるという考え方が間違いであるのは良く分かるのだ。
だがその考えも幼い容姿のディーネだからと、ディーネが浮遊精霊として生まれ変わる時に、水属性の特性を併せ持ち妖魔としての闇を一部しか残しておらず、少し色黒の水精霊といった感じだからだった。
(高位の闇精霊が復活するって聞いて不安にならないと言えば嘘になるよね)
『私は賛成よ。得体の知れない存在を残すか、古き同胞を残すかと問われれば、多少相性が悪くても同胞を当然ながら選択するわね』
どうやら精霊にとっては闇精霊といえども、同胞の一種に過ぎないようだった。
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