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189:ゴブリンの王7
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一度に大量の魔素吸収を行って急成長を遂げた僕達は、成長の負荷による一時的な睡眠状態になっていたようだった。
変異種との戦いの後に同じような状態になった事があり、僕は初めての経験ではないので冷静に受けとめた。
(二つ羽の探索者になってたりは……しないな)
さすがにそんなに都合良くはいかないようだった。実は後から知った事だったが十層の試練の相手というのは大きい灰色の狼らしく、その狼をひとりで倒す必要があるらしい。
変異種という白い狼を倒した事でダンジョンが力を認めてくれたという事みたいだったが、本当の事は分かっていないのだ。
(狼という共通点があったからかな……キャロ達がひとりで試練を越えるのは無理そうだったから、ある意味運が良かったとも言えるのかな?)
僕は今更ながらそんな事を思い出していた。あの戦いは一歩間違えれば全滅していただろうから、もしもう一度、同じ経験が出来るとしても戦うという選択肢を選ぶかと言われれば、その場の状況によるとしか言えなかった。
「ユーリ、私は急いで姉さん達のところに戻るわ」
目が覚めたサラは、慌てたようにそう言った。眠っていたのは短時間だったようだ。側で見張りをしてくれていたディーネに確認したので間違いないだろう。
「大丈夫だよ、ディーネに確認したけど眠っていたのは少しだけみたいだし」
僕はサラを安心させる為に、そう言ったのだが――
「わかってる、けど相手はゴブリンキングだから心配なのよ……私が行っても役に立たないかもしれないけど、魔素吸収前よりは随分マシになったみたいだし少しでも役に立ちたいの」
サラの言葉に僕も静かに頷いたのだった。
◻ ◼ ◻
動き出そうとした僕とサラに、ティムが「自分達も魔石拾いを行って前線に届けたい」と言ってきた。
【天弓】で倒されたゴブリンの魔石が大量に放置されていた。確かに拾って前線にいるエルフィーデのエルフ達や、弓歩兵部隊あたりに届ければ助けになるだろう。だが、前線はゴブリンキングがいて何が起こるか分からないのだ。
「弓歩兵部隊に孤児院を出たお兄さんとお姉さんがいたの。だから心配で……」
リーゼの言葉に僕は、フィーネから聞いた話を思い出していた。
(弓歩兵部隊は急造部隊みたいだから、ガザフから広く集めたんだろうな、だったらそこに孤児院出身の者がいてもおかしくないか)
素人からの選抜で選ばれたであろう弓歩兵部隊は軽く見ただけだったが若い兵士が多いみたいだった。
「危なかったら、すぐに逃げます。それにこの盾もありますから」
遠慮がちにルナがそう言って、盾の魔法を発動させた。
「【ウィンドウォール】が使えるの⁉」
僕が驚いたようにそう言うと、側にいたキャロが自慢そうに「ほら、キャロも持ってるよ! それにキャロ、速く走れるようになったから大丈夫だよ!」
僕に盾を見せてくれたキャロが、タッと走ってみせた。その動きは普通の子供のものではなかった。
「ユーリさん、心配なのは分かりますが、この子達の好きにさせてみては? 知り合いが心配というのもあるでしょうが……この先にはガザフの領軍のほとんどといっても良い戦力が集まっているのです。もしその者達が敗れるような事があれば地上も只ではすみません」
僕達の会話を黙って聞いていたラルフさんが、突然口を開いてそう言い出した。
「厳しい言い方になりますが、子供であろうと力がある者は出来ることをすべきなのです。これはそういう戦いなんです」
ラルフさんは、先ほど目覚めた時に「ユーリさん、何故、私がここに居なければならなかったのか……そしてここでやるべき事がやっと分かりましたよ」と、突然言い出したので驚かされたのと、どういう意味なんだろうと思っていたのだが、ラルフさんが詳しくは説明してくれなかったのでそのままになっていたのだ。
だが今のラルフさんの言葉を聞いてラルフ自身も何かを覚悟して、自分に出来る事をしようとしているのではないかと感じていた。
「それに、ユーリさんなら前線の側でも土壁で倉庫くらいならすぐに作れるでしょう。この子達にはそこに魔石を運んで貰えば良いのでは?」
少し表情を緩めたラルフさんの意見に僕も納得して、皆で前線に向けて走り出したのだった。
◻ ◼ ◻
途中で魔石の回収を始めた四人と別れ、僕達三人はエルフィーデのエルフ達と弓歩兵部隊がいる最前線からかなり距離をおいた場所に到着した。
僕が到着すると、ルピナスに乗ったニースとシルフィーそして、フィーネがやって来た。
シルフィーはキャロが魔石回収を行っていると聞くと、急ぎキャロの元に戻っていった。本来、加護精霊は契約者が求めなければ無闇に側を離れたりしないのだ。ニースはちょっと気ままではあったが……
僕は土壁で簡単な倉庫を作っていたが、ミリアさんより依頼を受けその規模は大きくなり、ニースと一緒に作業していた。
「なるほど、あれがゴブリンキングなのですね……分かりましたあの防御膜なのですね」
僕の側にいたラルフさんが遠くのゴブリンキングを見つめながら、まるで誰かと会話しているようにそう呟いたのだった。
変異種との戦いの後に同じような状態になった事があり、僕は初めての経験ではないので冷静に受けとめた。
(二つ羽の探索者になってたりは……しないな)
さすがにそんなに都合良くはいかないようだった。実は後から知った事だったが十層の試練の相手というのは大きい灰色の狼らしく、その狼をひとりで倒す必要があるらしい。
変異種という白い狼を倒した事でダンジョンが力を認めてくれたという事みたいだったが、本当の事は分かっていないのだ。
(狼という共通点があったからかな……キャロ達がひとりで試練を越えるのは無理そうだったから、ある意味運が良かったとも言えるのかな?)
僕は今更ながらそんな事を思い出していた。あの戦いは一歩間違えれば全滅していただろうから、もしもう一度、同じ経験が出来るとしても戦うという選択肢を選ぶかと言われれば、その場の状況によるとしか言えなかった。
「ユーリ、私は急いで姉さん達のところに戻るわ」
目が覚めたサラは、慌てたようにそう言った。眠っていたのは短時間だったようだ。側で見張りをしてくれていたディーネに確認したので間違いないだろう。
「大丈夫だよ、ディーネに確認したけど眠っていたのは少しだけみたいだし」
僕はサラを安心させる為に、そう言ったのだが――
「わかってる、けど相手はゴブリンキングだから心配なのよ……私が行っても役に立たないかもしれないけど、魔素吸収前よりは随分マシになったみたいだし少しでも役に立ちたいの」
サラの言葉に僕も静かに頷いたのだった。
◻ ◼ ◻
動き出そうとした僕とサラに、ティムが「自分達も魔石拾いを行って前線に届けたい」と言ってきた。
【天弓】で倒されたゴブリンの魔石が大量に放置されていた。確かに拾って前線にいるエルフィーデのエルフ達や、弓歩兵部隊あたりに届ければ助けになるだろう。だが、前線はゴブリンキングがいて何が起こるか分からないのだ。
「弓歩兵部隊に孤児院を出たお兄さんとお姉さんがいたの。だから心配で……」
リーゼの言葉に僕は、フィーネから聞いた話を思い出していた。
(弓歩兵部隊は急造部隊みたいだから、ガザフから広く集めたんだろうな、だったらそこに孤児院出身の者がいてもおかしくないか)
素人からの選抜で選ばれたであろう弓歩兵部隊は軽く見ただけだったが若い兵士が多いみたいだった。
「危なかったら、すぐに逃げます。それにこの盾もありますから」
遠慮がちにルナがそう言って、盾の魔法を発動させた。
「【ウィンドウォール】が使えるの⁉」
僕が驚いたようにそう言うと、側にいたキャロが自慢そうに「ほら、キャロも持ってるよ! それにキャロ、速く走れるようになったから大丈夫だよ!」
僕に盾を見せてくれたキャロが、タッと走ってみせた。その動きは普通の子供のものではなかった。
「ユーリさん、心配なのは分かりますが、この子達の好きにさせてみては? 知り合いが心配というのもあるでしょうが……この先にはガザフの領軍のほとんどといっても良い戦力が集まっているのです。もしその者達が敗れるような事があれば地上も只ではすみません」
僕達の会話を黙って聞いていたラルフさんが、突然口を開いてそう言い出した。
「厳しい言い方になりますが、子供であろうと力がある者は出来ることをすべきなのです。これはそういう戦いなんです」
ラルフさんは、先ほど目覚めた時に「ユーリさん、何故、私がここに居なければならなかったのか……そしてここでやるべき事がやっと分かりましたよ」と、突然言い出したので驚かされたのと、どういう意味なんだろうと思っていたのだが、ラルフさんが詳しくは説明してくれなかったのでそのままになっていたのだ。
だが今のラルフさんの言葉を聞いてラルフ自身も何かを覚悟して、自分に出来る事をしようとしているのではないかと感じていた。
「それに、ユーリさんなら前線の側でも土壁で倉庫くらいならすぐに作れるでしょう。この子達にはそこに魔石を運んで貰えば良いのでは?」
少し表情を緩めたラルフさんの意見に僕も納得して、皆で前線に向けて走り出したのだった。
◻ ◼ ◻
途中で魔石の回収を始めた四人と別れ、僕達三人はエルフィーデのエルフ達と弓歩兵部隊がいる最前線からかなり距離をおいた場所に到着した。
僕が到着すると、ルピナスに乗ったニースとシルフィーそして、フィーネがやって来た。
シルフィーはキャロが魔石回収を行っていると聞くと、急ぎキャロの元に戻っていった。本来、加護精霊は契約者が求めなければ無闇に側を離れたりしないのだ。ニースはちょっと気ままではあったが……
僕は土壁で簡単な倉庫を作っていたが、ミリアさんより依頼を受けその規模は大きくなり、ニースと一緒に作業していた。
「なるほど、あれがゴブリンキングなのですね……分かりましたあの防御膜なのですね」
僕の側にいたラルフさんが遠くのゴブリンキングを見つめながら、まるで誰かと会話しているようにそう呟いたのだった。
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