自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~【第一部:初級探索者編完結】

高田 祐一

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183:ゴブリンの王1

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 報告者として姿を見せた上位精霊を見た者達のざわめきが静まり、周囲には一瞬で緊張が走った。

 その様子を確かめるかのように周囲を見回したセルフィーナは、静かになって話を聞く準備が出来た事を確認すると話を続けた。

『ゴブリンの数は順調に減ってきているようね……これは朗報と言えなくもないわね』
 
 決死の急襲部隊まで編成して召喚ゴブリンを倒したのは無駄ではなかったようだ。

 周囲の者達からも一様にホッとした空気が流れかけたが、セルフィーナの言い回しに不穏な物を感じたのか皆一言も声をあげようともせず、次の言葉を待った。

『ですが減ってきている理由が問題なのです。どうやら王が自らゴブリンを倒し始めました』

 さすがに報告を黙って聞いていた者達もざわめきだした。

「なんですと! 魔物が仲間割れを始めたとでも申されるか!」

 真っ先に声をあげたのはリガル部隊長だった。他の者は彼の勢いに押されて様子を見る余裕が生まれたようだった。

『そうであれば良かったのですが……王は自ら倒したゴブリン達を吸収して自らの糧としているようです』

「糧だと……それは食事のようなものなのかね?」

 ダスティン辺境伯のその問いかけは、そうであって欲しいという願望が含まれているように僕には感じられた。それは僕自身がそうであって欲しいと願っていたからかもしれなかった。

『残念ですがそうではありません。私が王を始めて確認してから数日しか経過していませんが明らかに存在感が増しています』

 残念ながら事態は悪い方向に向かっているようだった。

「それはつまり、ゴブリンキングは成長しているというのだな?」ダスティン辺境伯の問いかけにセルフィーナは頷いた。

 それまでのセルフィーナは上位精霊でありながらその存在感からは考えられないくらい親しみやすい雰囲気を放っていたのだが、その雰囲気は一変していた。

『間違いありません。あれは遺跡の文献に記された、《滅びを喰らう者》の苗床の可能性があります……なんとしてもこの場で刈り取らなけれなりません』

 その声は神託でもあるかのように僕の心に響いたのだった。

◻ ◼ ◻

 ゴブリンジェネラルの検分を終えると、その場には僕とラルフさんのみが残った。

 その場にはゴブリンジェネラルの死体が四体放置されたままだった。魔石は既に回収されていて特に素材的価値は無かったが、今回の功績の一部として魔素吸収を行うようダスティン辺境伯に申し渡されていたのだ。

 セルフィーナの衝撃の報告を受けて、ガザフ領軍の上層部は進軍の準備に入った。

 大量のゴブリンと戦い大群に包囲される危険はあったが、未知の敵であるゴブリンキングが成長する事が分かっていながら、このまま状況を放置する事は出来ないというダスティン辺境伯の決断だった。

 この決断にはダスティン辺境伯の【雷炎】の存在も関係があるのかもしれなかった。あの技であればゴブリンキングに吸収される前に魔素に還してしまえるだろう。

「ダスティン辺境伯の【雷炎】やミリア殿の【天弓】はともかく、普通に攻撃して倒しても敵を強くするだけなのは、厄介ですねえ」

 ラルフさんも僕と同じ事を考えていたみたいだった。

「奥地での最初の防衛戦で倒して放置してきたゴブリンも吸収されて糧にされたのかもしれませんね」

 時間稼ぎで一時的に防衛戦を行った訳だったが、それが敵を強くする助けになっていたと考えるとなんとも憂鬱な気分になってしまった。

「あの場合は仕方ないでしょう。あのまま進行されていれば他のジェネラルの群れと合流されていたでしょうから。もっと厄介な状況になっていた可能性もありますよ」

 ラルフさんに穏やかに説明されて僕は自分が近視眼的な思考に陥っている事に気がつき反省した。

「そうですね、冷静に考えるとあの状況では、そうするしかなかったでしょうし……綱渡り的でしたけど上手く敵を各個に撃破できましたよね」

《滅びを喰らう者》という薄気味悪い存在と、同じ魔物を吸収して強くなるという能力に僕は自分で思っていた以上に動揺していたのかもしれない。

「ユーリ!」

 聞き覚えのある声に振り向くと、キャロ達四人と手を振っているサラが見えた。

「ちょうど良かった、ゴブリンジェネラルの魔素吸収をするのにキャロ達を呼びに行こうと思っていたんだけど……サラは前線にいるから無理かなと思っていたところだよ」

 少しでも早く強くなりたいと思っているサラに機会をあげたいと考えていた僕は戻ってきたサラを見て喜んだ。

「姉さんに感謝しないとね……リサ姉さんが戻れと言ってくれたのよ」

 僕はサラの言葉に頷くと、ポーチから精霊石を取りだした。

「時間がない、詳しくは魔素吸収しながら説明するよ。僕達は少しでも早く強くならなきゃいけないんだ」

 僕は来るべきゴブリンの王との対決に向けて少しでも力を付けるべく魔素吸収を始めたのだった。
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