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181:討伐軍17
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内壁の内側に張られた天幕の前に四体のゴブリンジェネラルの屍が並んでいる。
急襲部隊の面々はゼダさん達を含めて、討伐目標だった対象を無事に討伐しただけではなく回収まで行ってくるという手際の良さを見せつけた。
「見事だな、ニールセン。あの状況で一人の犠牲も出さずに目的を達成するとはな」
討伐報告を受けたダスティン辺境伯が部隊長達とミリアさんとマリアさんを引き連れる形で、自ら検分を行っている。
「なに、閣下、我々はただ飛び込んでいって斬り倒しただけですわい。お膳立てはミリア殿にして頂き、エルフィーデの者達の援護でゴブリンの群れを分断して貰わなければ、目標までたどり着く事も叶いませんでしたでしょうな」
まるでたいした事はしていないとばかりに、ニールセンと呼ばれた老騎士は言ってのけた。ニールセンさんは、僕をここまで連れてくるよう言った老騎士だった。
周囲にいた義勇軍の他の老騎士達も苦笑じみた笑い声をあげていて、誰一人として異議を唱える者はいないようだった。
「ニールセン殿! その申されようではあまりにもご謙遜が過ぎるように思いますぞ! あの大群の中に飛び込んでいくのです。決死のお覚悟でなければ出来ないことですぞ!」
ダスティン辺境伯のすぐ後ろに控えていたリガル部隊長が、堪らずといった様子で声をあげた。
「その通りですよ、ニールセン殿。確かに我々も支援は致しましたが、最も危険な最前線で敵を葬った功績を越えるものではありませんよ」
ミリアさんがリガル部隊長の意見に同調するように助け船を出した。
「ニールセンよ、お前や義勇軍として参加してくれている者達の力量は我も十分承知しているつもりだ。それを考慮すれば……お前達からすれば物足りなく感じるかもしれんが十分な功績だ、誇れ」
ダスティン辺境伯がニヤリと笑いながらそう言った。言外にお前達が功を認めなければ、他の者達の立場が無いと言っているのだろう。
「はっ! 申し訳ないことです。それでしたら一名の者の功績をご配慮下され。ワシの後ろに控える少年の精霊が、逃げようとするゴブリンジェネラルの一匹を義勇軍に協力してくれている探索者と協力して討伐致しました」
他人事のようにこの場でのやり取りを、観察していた僕とゼダさん達とラルフさんに周囲の注目が一斉に集まったのだった。
◻ ◼ ◻
「他の者達はベテラン探索者のようだが、お前は若いのだな……名はなんと申す?」
直接声をかけられてみて、威厳という目に見えない威圧感を強く感じた。
「は、はい! ガザフで探索者をさせて頂いております……ユーリと申します閣下!」
緊張が声に出ないように声を張り上げてみたが……無駄な努力だった。
「ふむ、ユーリと申すか、見た目は普通の人間に見えるが……精霊の加護を受けているのか?」
この突然の問いかけに――
「はい、知らぬ間に加護を受けていました……」
僕は事実だが、この場では返答になっていない答えを返した。
「失礼、閣下、この者はハーフエルフなのです。それ故に精霊の加護を受けられたのです」
僕を庇うように代わりにミリアさんが返答してくれた。ミリアの答えを聞いて自分がハーフエルフである事を改めて思い出した僕だった。
長い間、人間として暮らしていた僕は、最近はエルフ達と接する機会が増えたが、未だに自分がハーフエルフだという意識が希薄だった。それ故に、咄嗟に質問されて自分がハーフエルフだと答えられなかったのだった。
「なるほど、エルフィーデ女王国の縁者の者であったか」
ダスティン辺境伯はミリアさんが代わりに答えた事で、僕をエルフィーデの関係者と誤解したようだった。
「はい、ですが今回の件ではガザフの探索者として協力してくれています。この土壁で拠点を作ったのも彼の精霊の力です。まだまだ未熟な者ですが、将来有望な若者としてエルフィーデでも期待をかけています」
ミリアさんはダスティン辺境伯の言葉を否定しなかった。この場合の事実を知っている僕からすると、ミリアさんの縁者という言葉の解釈は文字通り縁がある者程度の意味だったが、ダスティン辺境伯は関係者という意味合いで言ったに違いなかった。
(ミリアさんがその事に気がついていないとは、思えないし……土壁の事をここで敢えて説明しているところを見ると知っててやってるよね)
だが僕がそんな事を考えていると、周囲では思っていたより反響があったみたいだった。
「まさかそのような子供がこの拠点を? 信じられませんな……それにジェネラルを討ったというのもなんとも……」
大声をあげたのは、リガル部隊長と呼ばれた中年の騎士だった。僕自身も疑われるのも仕方がないかと思っていた。
探索者となって一年も経たない僕が、いくら精霊の力を借りているとはいっても、普通だったら信じられなくて当然だろうと自分でも思っていたのだ。
「リガル、お前の言い様ではミリア殿とニールセンが証言している事を疑うのと同じであるのだぞ」
ダスティン辺境伯の厳しい指摘が飛んだ。
「ハ、ハッ! 申し訳御座いません。ミリア殿、ニールセン殿、失礼致しました」
慌てたようにリガル部隊長は二人に謝罪した。声が大きい人だが悪人には見えなかった。多少思慮が足りないようだったが……
「構いませんよ……突然、言われても簡単には信じられないのは理解できます。そうですね、ジェネラルの件はともかく、土壁についてはこの場で見てもらえば納得いくはずですね……ユーリ、良い機会なのでダスティン辺境伯にも見ていただきましょう」
ミリアさんは僕を見ると楽しそうに、そう言ったのだった。
急襲部隊の面々はゼダさん達を含めて、討伐目標だった対象を無事に討伐しただけではなく回収まで行ってくるという手際の良さを見せつけた。
「見事だな、ニールセン。あの状況で一人の犠牲も出さずに目的を達成するとはな」
討伐報告を受けたダスティン辺境伯が部隊長達とミリアさんとマリアさんを引き連れる形で、自ら検分を行っている。
「なに、閣下、我々はただ飛び込んでいって斬り倒しただけですわい。お膳立てはミリア殿にして頂き、エルフィーデの者達の援護でゴブリンの群れを分断して貰わなければ、目標までたどり着く事も叶いませんでしたでしょうな」
まるでたいした事はしていないとばかりに、ニールセンと呼ばれた老騎士は言ってのけた。ニールセンさんは、僕をここまで連れてくるよう言った老騎士だった。
周囲にいた義勇軍の他の老騎士達も苦笑じみた笑い声をあげていて、誰一人として異議を唱える者はいないようだった。
「ニールセン殿! その申されようではあまりにもご謙遜が過ぎるように思いますぞ! あの大群の中に飛び込んでいくのです。決死のお覚悟でなければ出来ないことですぞ!」
ダスティン辺境伯のすぐ後ろに控えていたリガル部隊長が、堪らずといった様子で声をあげた。
「その通りですよ、ニールセン殿。確かに我々も支援は致しましたが、最も危険な最前線で敵を葬った功績を越えるものではありませんよ」
ミリアさんがリガル部隊長の意見に同調するように助け船を出した。
「ニールセンよ、お前や義勇軍として参加してくれている者達の力量は我も十分承知しているつもりだ。それを考慮すれば……お前達からすれば物足りなく感じるかもしれんが十分な功績だ、誇れ」
ダスティン辺境伯がニヤリと笑いながらそう言った。言外にお前達が功を認めなければ、他の者達の立場が無いと言っているのだろう。
「はっ! 申し訳ないことです。それでしたら一名の者の功績をご配慮下され。ワシの後ろに控える少年の精霊が、逃げようとするゴブリンジェネラルの一匹を義勇軍に協力してくれている探索者と協力して討伐致しました」
他人事のようにこの場でのやり取りを、観察していた僕とゼダさん達とラルフさんに周囲の注目が一斉に集まったのだった。
◻ ◼ ◻
「他の者達はベテラン探索者のようだが、お前は若いのだな……名はなんと申す?」
直接声をかけられてみて、威厳という目に見えない威圧感を強く感じた。
「は、はい! ガザフで探索者をさせて頂いております……ユーリと申します閣下!」
緊張が声に出ないように声を張り上げてみたが……無駄な努力だった。
「ふむ、ユーリと申すか、見た目は普通の人間に見えるが……精霊の加護を受けているのか?」
この突然の問いかけに――
「はい、知らぬ間に加護を受けていました……」
僕は事実だが、この場では返答になっていない答えを返した。
「失礼、閣下、この者はハーフエルフなのです。それ故に精霊の加護を受けられたのです」
僕を庇うように代わりにミリアさんが返答してくれた。ミリアの答えを聞いて自分がハーフエルフである事を改めて思い出した僕だった。
長い間、人間として暮らしていた僕は、最近はエルフ達と接する機会が増えたが、未だに自分がハーフエルフだという意識が希薄だった。それ故に、咄嗟に質問されて自分がハーフエルフだと答えられなかったのだった。
「なるほど、エルフィーデ女王国の縁者の者であったか」
ダスティン辺境伯はミリアさんが代わりに答えた事で、僕をエルフィーデの関係者と誤解したようだった。
「はい、ですが今回の件ではガザフの探索者として協力してくれています。この土壁で拠点を作ったのも彼の精霊の力です。まだまだ未熟な者ですが、将来有望な若者としてエルフィーデでも期待をかけています」
ミリアさんはダスティン辺境伯の言葉を否定しなかった。この場合の事実を知っている僕からすると、ミリアさんの縁者という言葉の解釈は文字通り縁がある者程度の意味だったが、ダスティン辺境伯は関係者という意味合いで言ったに違いなかった。
(ミリアさんがその事に気がついていないとは、思えないし……土壁の事をここで敢えて説明しているところを見ると知っててやってるよね)
だが僕がそんな事を考えていると、周囲では思っていたより反響があったみたいだった。
「まさかそのような子供がこの拠点を? 信じられませんな……それにジェネラルを討ったというのもなんとも……」
大声をあげたのは、リガル部隊長と呼ばれた中年の騎士だった。僕自身も疑われるのも仕方がないかと思っていた。
探索者となって一年も経たない僕が、いくら精霊の力を借りているとはいっても、普通だったら信じられなくて当然だろうと自分でも思っていたのだ。
「リガル、お前の言い様ではミリア殿とニールセンが証言している事を疑うのと同じであるのだぞ」
ダスティン辺境伯の厳しい指摘が飛んだ。
「ハ、ハッ! 申し訳御座いません。ミリア殿、ニールセン殿、失礼致しました」
慌てたようにリガル部隊長は二人に謝罪した。声が大きい人だが悪人には見えなかった。多少思慮が足りないようだったが……
「構いませんよ……突然、言われても簡単には信じられないのは理解できます。そうですね、ジェネラルの件はともかく、土壁についてはこの場で見てもらえば納得いくはずですね……ユーリ、良い機会なのでダスティン辺境伯にも見ていただきましょう」
ミリアさんは僕を見ると楽しそうに、そう言ったのだった。
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