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178:討伐軍14

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 ユーリから受け取った精霊石を握りしめると、ディーネは義勇軍の動きに合わせて防壁の上から飛び降りた。

 追尾の対象がエルフ達であれば付いていくのは難しかったに違いなかったが、幸いな事に老騎士達の進軍速度は何とかディーネが遅れながらも追従できるスピードだった。

「ピッ」

 走りながら空を見上げると、上空からルピナスの鳴き声が聞こえてくる。

 精霊同士はユーリを介してある程度の意識共有を行っているので、防壁から一人で飛び出したディーネを心配してニースとルピナスがついてきている事をディーネは気が付いていた。

 だが、それ以外にもディーネに気がついている者達が存在した。

「ゼダよ、付いてきているの確か坊主の精霊のディーネちゃんだよな? 前に弓でゴブリンジェネラルを倒した子だよな?」

 後ろを走っていたザザが少し離れて追従してくるディーネに気がついて声を上げた。

 戦闘時の両手斧を振るう派手な戦法や普段の言動から雑に見えるザザだったが、見かけによらず慎重な性格で周囲の細かな変化にも最初に気が付くのは大抵ザザが最初だった。

 周囲には敵が見当たらなかったが常に移動しながら周囲に警戒しながら移動していたらしく、ディーネが追って来ている事にもすぐに気がついたようだった。

「おお、ザザがモタモタしてたんで仕留め損ねたゴブリンジェネラルを、代わりに始末してくれた精霊の子だな」

 いちいちザザの言動に突っ込みを入れないと気がすまないのかドルフが余計な事を言い出した。

「何だと! 仕留め損なってねえよ!」

 こちらも、いつもの事なのに律儀に言い返すザザだった。最早、通過儀礼と言っても良い普段どうりの二人の掛け合いだった。

「どうやら坊主は近くには居ないようだな、単独行動か……遠距離でジェネラルを一撃で倒せる精霊か……ザザ! ドルフ! 俺達はあの子の露払いに専念するぞ! それが一番確実なようだ」

 二人の何時もの掛け合いを気にする様子もなくゼダは、単独行動しているディーネの実力と今の状況を分析して判断を下した。

「おうよ!」「承知した!」

 言い争いしていた二人が何事もなかったかのように、同意すると三人は義勇軍の接近を察知して即座に後方に退避しようとするゴブリンジェネラルの一匹に狙いを定めたのだった。


 「ん! みえた」

 自分がゼダの作戦の一部に組み込まれている事に気がついていないディーネの目に、先行する義勇軍の前方にゴブリンの群れが見えてきた。

 ミリアによって防壁前に溢れていた群れは一掃されたが、光の矢が降り注いだ範囲外にはまだまだ大量のゴブリンがいてゴブリンジェネラルを守るように義勇軍の前に立ち塞がった。

 義勇軍が接近して来て慌てたように召喚を開始したゴブリンジェネラルは三匹、そして一匹は即座に後方に退避を始めた。

 ディーネはユーリの召喚精霊として生まれ変わってはいたが、元の妖魔の性質を受け継いでいた。闇属性と妖魔コロボックル時代の狩人としての性質だった。

 妖魔時代は常に身を潜め、周囲を警戒しながらの蜂狩りの日々だった。蜂は無警戒に攻撃すれば他の群れにまで攻撃を受ける危険な相手だ。

 二匹程度迄であれば何とかなるがそれ以上を相手にすればは命に関わる事態になるのだ。

 その狩人としての常に状況を把握しようとするディーネの目に、召喚を開始したゴブリンジェネラルに隊を三つに分けた義勇軍が向かっていった。

 ディーネから見て義勇軍の老人達は明らかに格上だと理解できた。恐らく召喚主であるユーリよりも強いだろう。

 ディーネは逃げたジェネラルを三人の老人が追っていく姿を捉えた。何故義勇軍が三人に任せて逃げるジェネラルを放置したのか疑問だったが、自分の役割については理解した。

「にげたの たおす」

 そう一言呟くと素早く周囲に落ちている魔石を幾つか拾うと【マナ・ドレイン】で魔石を吸収しながら三人が追っているジェネラルが逃げた方角に走り出したのだった。

◻ ◼ ◻

 三人の老人が、押し寄せるゴブリンの群れをかなり強引に薙ぎ払い、突き進んでいくディーネの目から見て三人の老人はユーリと最近行動をしている事が多いラルフという人間よりも強いと感じた。

 ディーネは敵に接近し過ぎず集中出来そうな位置で立ち止まると、精霊石に願い力を借りる事にした。

 移動中にも幾つか魔石を拾って吸収を行っていたので、初めて使った時のように強力な技のせいで魔力不足によって存在が希薄になるほどのダメージは受けないだろうと前回使用の経験から学んでいた。

 ディーネが魔力操作を開始すると、周囲が土壁で作った防御用の壁に囲まれだした。

 「ピピピッ」

 少し顔を上げて上空を見るとニースが手を振りながらユーリの元に去っていった。

 ある程度の安全を土壁で囲む事で確保出来たと考えたニースがお手伝いの為に戻っていったのが分かった。そしてラルフという人間が代わりに来てくれるらしい。

 戦況はエルフの【流星雨】によって後詰めのゴブリンと三匹のゴブリンジェネラルの分断に成功しつつあるようだ。

 エルフや人間達の思惑は分からないが、即座に逃げた一匹は諦めて三匹を確実に葬りたいという思惑が見て取れた。

「じゃま」

 三人の奮闘によりゴブリンジェネラル迄の射線がもう少しで開きそうなのだが、三人の後ろに回り込もうとするゴブリンが現れて上手く狙えないのだ。
 
「分かりました。排除しますね」

 突然現れたラルフが回り込もうとしていたゴブリン達を両手斧で吹き飛ばした。

「今だ! 放て!」

 三人の老人の内の一人がそう叫んだ。

「ん! 【ドレイン・スプラッシュ】」

 自分が放てる最強の技をディーネは放った。魔法の矢に自分の存在を吸いとられるような状態になりながらもディーネは技の反動に耐えた。

「やりましたね! それにしても闇水の二属性複合魔法なんて……と、とにかく目的は遂げたので撤退しましょう!」

 ラルフがディーネに近寄ると脇に抱えると全速力で走り出した。

「カーッ! 大した威力だせ! 一撃で頭吹き飛ばしたぜ」

 ザザが嬉しそうに叫んでいる。

「ああ、俺達だけだったら取り逃がしていた可能性もあったな」

 相変わらず冷静なゼダがそう分析した。

「あの状況でジェネラルの屍を回収してくるなんざ、流石ゼダ抜け目ないな……おっ、どうやら他の連中も何とか目的を果たしたようだぜ」

 三人が目を向けると義勇軍も一斉に撤退に入ったようだった。

「さて、ここからが大変だな。とにかくエルフ達の援護もそろそろ限界だろう包囲される前に急いでこの場を抜け出すぞ!」

 ゴブリンジェネラルを倒しても召喚したゴブリンは消えるわけでは無いことはこの戦いで確認されている。

 急襲部隊に参加した面々は今はただ生き残る為に脇目も振らずに来た道を防衛拠点に向かってひた走ったのだった。
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