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177:討伐軍13

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 リサさんに促され地上に降りた僕達だったが、初動が遅れた為に義勇軍や一緒に行動しているゼダさん達に置いていかれてしまった。

 だが先に地上に降り立ったエルフ達は、地上に降り立つと同時に【風速迅】による加速を行い、先行された義勇軍との距離を一気に詰め始めたようだった。

 リサさんも「撤退の準備を頼む。私は指揮を執らねばならんのでな……【風速迅】」そう言い残すと自身の周囲に発生した風の魔力を纏って先行した部隊の指揮を執るべく移動を始めた。

「サラ?」

 ぼんやりとその姿を見送っているサラに僕が遠慮がちに声をかけたのだが――

「さ、さあ私達は後詰めとしての役割を果たしましょう。これも大切な任務よ! 出来れば少しでも防衛ラインは前に上げておきたいわね」

 颯爽とこの場を去っていった姉の姿を憧れと一抹の寂しさを滲ませた表情で見送っている姿を僕に気付かれて、サラは少し恥ずかしかったのか早口でそう捲し立てた。

「ユーリさん、さっきディーネちゃんが先輩方と一緒に地上に降りていくのを見たんですが、あれはユーリさんの指示ですか?」

 土壁を設置する為に立ち止まった僕にラルフさんがそう問いかけてきた。

「いいえ、うちの子達は指示すれば僕の言う事を聞いてくれますが、基本的には本人達の意思に任せています」

 ディーネは変異種との戦いでも単独行動を取った事があった。

(あの時も確か精霊石を要求されたな)

「大丈夫なのですか?」

 どうやら、ラルフさんはディーネの事をかなり心配してくれているようだった。

(背中に背負いながら走ってくれた事もあったもんな……何だか色々ありすぎて随分昔の事みたいに感じるな)

 僕は撤退戦で遠距離攻撃手段がないラルフさんにディーネは背中合わせで背負われながら弓で攻撃していた光景を思い浮かべた。

「はい、この距離なら、ある程度の意識の共有も出来ますので危険が迫れば送還も出来ます。それにニース達が上空から見守っていますから」

 リサさんには撤退用の防衛線をニースと共に作るよう依頼されたのだが、当のニースはディーネが飛び出したのに気が付くとルピナスに乗って追いかけて行ってしまったのだ。
 
 ディーネが何をしようとしているのかは離れているがおおよその見当はついていた。そしてニースが目立たないように潜んでいたディーネの周囲に土壁の防壁を設置して安全を確保したようだ。

 端から見れば荒野に小さな建物が突然生えたように見えたことだろう。僕はその状況をラルフさんに説明したのだが――

「なるほど、ですが戦場では何が起こる分かりません。幸いここの周囲にはゴブリンの姿も見当たりませんし……」

「分かりました。僕も気にはなっていたので……お願いします」

 僕からの依頼を受けてラルフさんは早速、前線に向かった。

「ふふ、ラルフさんディーネの事を心配しているのは確かでしょうけど、ここで何もせず待機しているのが嫌なのかもね」

 僕の気が変わらないうちにとでもいうように、慌てて前線に向かったラルフさんを見てサラは可笑しそうに笑っている。

「サラは一緒に行かなくて良かったの?」

 ラルフさんが指摘したように、この場所の周囲には特にゴブリンの姿は見えなかったので、サラが自分も行きたいと言えば僕も引き止めるつもりはなかったのだ。

「ラルフさんの台詞じゃないけど、戦場では何が起こるか分からないのは事実よ……作業中の貴方は結構無防備に見えるから、これも大切な任務よ! それに私の代わりにフィーネが前線に向かってくれてるから」

 守護精霊としてはそれはどうなのか? とも思ったが自分もニースを好きにさせているので特にその事には言及しなかった。

「助かるよ……僕そんなに無防備だったかな」とだけ答えた。

「うん、かなりね」

 サラは楽しそうにそう言うと作業を始めた僕の周囲を警戒し始めた。この辺りは荒野なので潜む場所といえば背の低い草むらしか無かったのだが、僕は安心して作業に集中できた。

 リサさんから撤退の為の防衛線を依頼されたが、ゴブリンを完全に遮断出来る規模の防壁を作るつもりはなかった。

(まずは、五十人程度の人間が収容できる建物を作ってと……)

 土壁で前後に入り口のある四角い建物を急ぎ作った。それなりの規模の簡易な建物が出来たが、成長した僕にとってはこの程度はそれほどの手間ではなかった。

 前面の入り口にはサラにとりあえず守ってもらい、後方の入り口から二枚の土壁を平行に並べて以前に、遺跡拠点に川の水を引き込んだ時と同じ要領で通路を作り始めた。このまま通路を伸ばして防衛拠点まで繋げるつもりだった。

「ユーリ! お手伝いする?」

 見上げるといつの間にかディーネの元から戻ってきたニースが、ルピナスに乗って僕の所に降りてくるところだった。

「ああ、助かるよニース」

 通路作成中にも撤退がもしかしたら始まるかもしれないと少し不安だったのだが、そんな僕の気持ちが伝わったのだろう、思ったよりも早くニースは戻ってきてくれたようだった。

「うん!」

 ニースは嬉しそうにそう答えると、次々と土壁を生成しては設置している。

(何とかなりそうだな)

 僕が後ろを振り向くと入り口で門番のように座り込んでいるサラの姿が見えた。その後ろ姿に妙な安心感を覚えながらニースと共に競うように土壁を設置していくのだった。
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