自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~【第一部:初級探索者編完結】

高田 祐一

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172:討伐軍8

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「各自、食事が済んだら割り当てられた部屋で休め!」

 防壁内側の拠点では、各部隊長達の指示の声が各所で響きわたっていた。マリアの【氷雪】で朝までの時間が稼げたガザフの領軍は、最低限の見張りを残して完全に休養体制に入った。

「それにしても壁があるというだけでこれだけ安心感が違うんだな。これって防壁の土壁と同じ物みたいだからかなりの強度なんだよな? 俺は遠征中はどうも寝付きが悪くて睡眠不足になっちまうんだが、こうして魔石灯の下にいると地上の安宿にでも泊まってる気分だぜ」

 騎士の一人が土壁を軽く叩きながら同僚にそう話しかけた。

「ハハ、安宿か! 違いない。こんなことならマジックポーチに寝台でも入れてくるんだったな」

 簡単ではあったが量は多い食事を、軍中の喧騒の中で終えた騎士達だったが、戦いの興奮はそう簡単には収まらなかったようだった。

 ユーリの作った土壁で囲われた休息場所におさまると、さっさと疲労から眠ってしまう者も多かったが、上官が周囲に居ない気安さから、つい軽口等を始めてしまう者が出てくるのは仕方のないことだったかもしれない。

「明日はどうなると思う?」

 最初に話を始めた騎士が、今度は急に真剣な表情で同僚に問い掛けた。

「そうだな……今日の最後の命令もかなり突然の方針転換という感じだったな。それまでは昼夜交代制で敵を削るっていう方針だったはずだ。つまり……」

 考え込むような仕草になった同僚の話を引き取ったのは、外から入ってきた上官の姿だった。

「【氷雪】に大規模魔法を使わせてまで、我々の体力を温存しなければならない事態が発生したという事だ。分かったらさっさと眠れ! 明日が辛くなるぞ!」

「申し訳ありません! リガル部隊長殿!」

 二人は同時に謝罪すると、毛布にくるまるようにして寝床についた。

「まったく、図体ばかりでかくても子供のような奴等だな……いかん、対策会議に遅れてしまうな! しかし、部下達が不安になるのも分かる。これだけの急な方針転換だ、ダスティン様のことだ、明日はどれ程の無茶な作戦が決行さてるのやら」

 通りすがりで部下に注意を促した部隊長は、不安を抱えながら、慌てたようにダスティン辺境伯用に設営された天幕に向かうのだった。

◻ ◼ ◻

 食事が完了した頃を見計らって、ダスティン辺境伯の天幕にて対策会議が召集された。

 会議にはガザフ側からはダスティン・ガザフ辺境伯、そして六つに分けられた各部隊長達が、エルフィーデ女王国からはミリアとリサが、ギルドの代表としてマリア、義勇軍のリーダー格としてはニールセンが出席していた。

「リサ殿! なら我々の今日の戦いは全て無駄になるということでしょうか?」

 第一部隊長のリガルが驚きの声で叫んだ。リガルの叫びに呼応して他の部隊長達にも動揺が走った。

「なるほどのう、ゴブリン召喚ですか。これは厄介な相手ですな」

 老騎士ニールセンが白い髭を撫でながら、少しも厄介に思ってなさそうな声音で答えた。

「ニールセン殿、そんな気楽そうに仰らないで下さい! 我々だけでも、今日だけで推定で4千を軽く越えるゴブリンを葬っています。恐らく、エルフィーデ側やマリア殿の倒された数も加えれば一万に近い数になるでしょう。それがまさか……」

 この状況にも係わらず如何にも呑気そうなニールセンの雰囲気に、いかに敬意を払うべき先輩とはいえ、多少、八つ当たり気味な気分になったリガルが声を荒らげた。

「待て、リガル。ワシも最初に話を聞いた時にはお前と同じ事を感想をもった。だが責任があるとすれば、敵の種類と規模の情報のみで軍を起こしたにワシにある……だがここに居る誰一人として敵についての全容を把握している訳ではないのだ。このような事態は何度でも発生すると覚悟して挑むしかあるまい」

 それまで黙って会話に耳を傾けていたダスティン辺境伯が静かにそう告げた。

「か、閣下! 責任などと仰いますな! 万を超える溢れが発生しているのです。閣下の迅速な判断を称賛こそすれ、非難など……申し訳ありません。リサ殿、ニールセン殿、取り乱した振る舞いをお詫び致します」

 動揺したとはいえ結果的に領主に謝罪に近い言葉を述べさせてしまった事で、一気に頭の冷えたリガルは素直に二人に謝罪することになった。

「リガル殿、謝罪は不要です。我々エルフィーデとしても溢れ発生の原因が召喚士ゴブリンの存在にある事が分かったのは実際に戦ったからこそなのです。ですが、先ほど全てが無駄になったという意見に対しては否定をさせて頂きたい」

 停滞気味だった会議にリサの放った言葉は、強く響いたのだった。
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