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169:討伐軍5

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「よう坊主じゃねえか! 投げても投げても切りがないぜ!」

 そう陽気に告げてきたザザさんは、忌々しそうに言いながらも手を休めず作業を続けている。

「外の状況はどうだね?」ゼダさんも同じく屍を投げあげながらも、冷静にそう尋ねてきた。

「エルフィーデの調査隊の弓技で、ゴブリンジェネラルの群れなら二つくらいは全滅させているんですが……」

 言い澱む僕に、「敵の底はまだ割れんのか……それなら坊主! こっちも覚悟して長期戦の備えだ! 坊主はゴブリンから魔石を回収しろ。そこの精霊みたいにな」

 ドルフさんのその言葉に僕が後ろを振り向くと、いつの間にかディーネが既に魔石の回収作業を始めていた。

 僕が地上に降りたのに一緒に付いてきたようだった。回収した魔石を手のひらから吸収しているようなのでディーネなりに長期戦に備えるつもりらしい。
   
「分かりました!」

 僕にも異論はなかった。皆、現状で最善だと思える事のために動いている。今の僕に出来る最善は、魔石を一個でも多く届ける事で長期戦に備える事だった。

「ユーリ! 私も手伝うから!」

 回収を始めた僕に、いつの間にか来ていたサラがそう告げた。その顔には僕と同じく最善を尽くそうとする決意のような物が感じられた。

「分かったよ、でも……もう一つお願い、魔素吸収も行うんだ」

 僕は精霊石を取り出しサラに手渡した。この戦いでラルフさんやリサさんに常に魔素吸収をするように薦められ、結果として僕の精霊達は目に見えて成長してくれた。

「そうね……姉さんに頼りにしてもらえるくらいに強くならないと……ありがとうユーリ」

 サラは嬉しそうに精霊石を受け取ると魔石の回収と魔素吸収を始めた。サラもフィーネという精霊の加護を受けているのだから、少しでも成長する事が今出来る最善の事だと思ったのだ。

 僕達は周囲の状況を確認しながら魔石の回収に励んだ。正直なところいくら回収しても終わらない数だったが、一つの魔石でエルフ達なら何十体もの敵が倒せると考えれば気力が萎えるという事はなかった。

「ユーリ!」

 聞き覚えのある声に振り向くと、防壁の隙間にキャロ達とマリアさんの姿があった。僕は一時的に回収作業を中断してキャロ達のいる所へ向かった。

「連絡役の任務は終わった筈だと思うけど、どうしてここに?」

 ゴブリンジェネラルとの戦闘後の魔石の回収作業を終えたキャロ達四人は、一旦ギルドへの報告を行う為に地上に戻っるマリアさんと共に、任務完了の報告に戻った筈だったのだ。

「四人にはギルドからの支援物資の輸送任務を手伝って貰う事になりました。十層に迅速に物資を運べて、ある程度の危険を自力で排除出来るような人員となるとなかなか得難いというのが現状なのです」

 マリアさんが申し訳なさそうにそう説明してくれた。僕やゼダさん達が出来ればキャロ達を戦いから遠ざけたいと思っているのをマリアさんは理解していたからだった。

「みてみて、ユーリさん! このマジックバック! 以前三層で使った袋の改良型なんだよ」

 リーゼが楽しそうに背中に背負った少し大きめの両肩で背負えるように二本の紐の付いた鞄状の物を見せてくれた。それは以前に借りた袋からすれば随分と搬送用として機能的に改良されていた。

 四人共に同じ物を背負っており、それが以前にサラに借りた遠征用の袋と同じ性能の物だとすれば、それだけでかなりの量の物資を運んできたようだ。

 恐らくマリアさんの報告を受けて人員の補充は難しいギルドが物資面での支援を行うつもりらしい。

 ギルドは常にダンジョンからの様々な採取物が最初に集まる場所だけに、物資の供給者としてはガザフの最大の組織と言えた。

「ユーリさんにお願いしたい事があるのですが……簡単な物で良いので物資の保管場所を用意して頂けないでしょうか?」

 戦闘中に悠長な話にも思えたが、僕は防壁等の戦闘部分にのみに気が向いていて、物資の保管等の事は全く考えが至らなかったのだ。

 結局、キャロ達が僕の代わりに魔石の回収作業を手伝ってくれる事になり、僕は最初に作った防壁の内側に簡単な土壁倉庫を作る事にしたのだが――

「なるほど……確かに必要ですね」

 防壁の内側はさっき慌てて移動した時には気が付かなかったが、領軍が運んできたと思われる物資が剥き出しのまま放置されていた。

 無秩序に置かれているという訳ではないようだったが、何もない現場で様々な大量の物資を、短時間で整理して保存する事の困難さをその場所の状態が物語っていた。

「マジックポーチ等の普及で搬送は随分と簡単になりましたが、こういう部分はなかなか改善が難しいところです。特に今回は時間が差し迫っていましたから」マリアさんは大量の物資を見つめながらそう言った。

 短期の戦いであればこのままでも問題になる前に戦いが終るだろうが、今回はその保障はなかった。

「幾つか土壁倉庫を作って、それから休息用にも幾つか作ります」

 僕は遺跡の拠点用で作った簡易な建物を思い浮かべながら、マリアさんと話し合いながら作業を開始したのだった。
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