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160:突撃

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「俺達が露払いってことは、知らねえうちに奴を倒しちまってるかもな!」

 ザザさんが黒い両手斧を振り回し寄ってきたゴブリンを吹き飛ばすようにして凪ぎ払った。

「おいおいザザよ知らねえうちって、戦場で寝惚けてんじゃねえぞ!」

 黒い両手剣の破壊力で三匹のゴブリンを同時に切り裂いたドルフさんが、まるで猪鹿亭での食事時のような気軽さで突っ込みをいれた。

 こんな殺伐とした戦場でも変わらない二人のやり取りに僕は少し和みそうになったが――

「おい! 二人共いくぞ!」ゼダさんが一声かけた。
「おうよ!」
「ああ、まかせな!」

 方針が決まったゼダさん達はお互いに声を掛け合い、今も新たなゴブリンを召喚しているゴブリンジェネラルに向かっていった。

「やれやれ、私も先輩方のお供をするとしましょうか」ラルフさんがそう穏やかな口調で宣言し、僕もそれに追従する事になった。

 上空では他の精霊達に囲まれルピナスに乗ったニースが、既にゼダさん達を支援するように土壁を設置して敵の分断に貢献しているようだ。

「急がないともうすぐ別の群れが到着しますね」

 僕の今の気掛かりは撤退時に見かけた別の拠点の群れの動向だった。かなり引き離して戻ってきたがのんびりしていれば、合流されてしまい厄介な事になりそうだった。

「まったくです、あれと同じようなのがもう一匹いるとして……さらに大物が控えてますからね」

 今、目の前にいる敵を倒してもまだまだこの戦いは終わらないのだ。そして奥からはいずれ更に桁違いの数がやって来るのだ。

(それらが到着する前にコイツらだけでもなんとかしないと)僕は焦る気持ちを抑えて、ラルフさんを土壁で支援したのだった。

◻ ◼ ◻

 ゼダさん達の加わった集団での突撃は凄まじい破壊力だった。それにこちらの突撃の意図を察した防壁上からの【流星雨】の援護も加わり先頭集団のゼダさん達は目標まであと一歩という所まで迫っていた。

「へっ! このままいけそうだぜ!」ザザさんが威勢の良い声を上げたその時だった――

「ザザ下がれ!」ゼダさんが叫ぶと盾を掲げて【ウィンドウォール】を展開するのが見えた。

 上空にいた精霊達も各々【ウィンドウォール】を展開した。ニースも全面に土壁を設置しエルフ達もその後ろに避難した。

 僕から見えたのは近くまで接近されたゴブリンジェネラルの周囲に生まれた黒い炎の玉のような物だった。

 その数は三十近くはあるだろうか、感じる魔力量からかなりの威力があると思われた。

 危険な予感を感じた僕は、全力で走りだしゼダさん達の近くまでくると土壁を設置した。

「この後ろに!」僕の叫びを受けて、ゼダさん達が飛び込んできた。その瞬間――

 周囲に爆発音が響き渡り地面から土煙が舞い上がった。爆音が止んだのを確認した僕は土壁から周囲の状況を見て驚いた。

「こいつあひでえ! 其処らにいたゴブリンや死体ごと吹き飛ばしやがったぜ」ザザさんの叫びが辺りに響いた。

 見るとゴブリンジェネラルは何事もなかったように召喚を開始し、また周囲にはゴブリンの群れが生まれた。

「奴にとっては召喚ゴブリンは使い捨ての駒にすぎんようだな」ゼダさんが鋭い眼光で無情な敵を睨み付けた。

「おい! ゼダよ奴は他のゴブリンと戦っている最中でもあれ打ってきそうだぜ!」ドルフさんの叫びに僕も同じ意見だった。

 召喚を終えたゴブリンジェネラルはまた黒い炎の玉を生み出し始めた。それもさっきより数が多そうだった。

「切り開け!」

 エルフ達から声が上がり、調査隊のエルフ達が一斉に動くと【風速迅】で一瞬のうちに距離を詰めると【風切斬】で次々と打ち倒していく。

「はええ! だが不味い! 奴はお構い無しだぜ!」

 召喚されたゴブリン達は一瞬でエルフ達に倒された。周囲から全てのゴブリンは居なくなったが、ゴブリンジェネラルはそんな事はお構い無しに詠唱した黒い炎の玉を放とうとしたが――

 白い影が一瞬で駆け抜けたかと思うと詠唱中のゴブリンジェネラルの後ろを取った。

「露払いご苦労」

 そう一言告げると【風切斬一閃】を放ちリサさんがゴブリンジェネラルの首を撥ね飛ばしたのだった。
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