自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~【第一部:初級探索者編完結】

高田 祐一

文字の大きさ
上 下
155 / 213

155:親征2

しおりを挟む
「おい聞いたか? 閣下が親征されるという話」中年の領兵が同僚にそう声をかけた。

 領邸の近くにある練兵用の広場には既に領営工房や領邸の倉庫からの武器防具の運び出しで大変な騒ぎになっている。

「ああ、俺も聞いた時は驚いたよ。何せ一線を退かれてから十年弱になるが望まれても定期的な遠征にも参加しようとされなかった閣下が、何故急に軍事演習をするなどと言い出されたのやら」

 近年の遠征ではリザール・ガザフ執政官が指揮を取る場合が多くなり、古参の騎士達の中にはダスティン辺境伯に習って家督を息子に譲って引退する者が相次ぎガザフの領軍は近年随分と若返りが進んでいた。

 だがそれ故に熟練者が不足し領軍が脆くなったと指摘する者も多い。最近では前回遠征の失敗は領軍の技量不足を理由に挙げる者もいるくらいだった。

 そんな中でも地位の低い領兵の中には当時を知る古参兵も僅かばかりか残っていて、この二人もそういう者達だった。

「お前、この親征、只の軍事演習なんかだと思うか?」急に声をひそめるように言い出した。

「何か情報があるのか? 閣下が意味もなく演習をおっ始めるような方とは思わないがな。最初は正直なところあの英雄も多少……耄碌……」

 同僚の兵士も同様にこの突然の召集に疑念を抱いていたようだった。そして人に聞かれたら不敬罪に問われかねないような事を口走りそうになった。それくらい平和に慣れた兵士達にとって突然の出来事だったのだ。

「おい! 滅多なことを言うんじゃない。実はな、エルフィーデ女王国のエルフ達が上官に召集を受け、休暇を返上してかなり慌てた様子でダンジョンに進発していったらしい」

 少数とは言えエルフ達の行動はガザフ者達の注目を集めやすいようだった。

「なるほど……これは今回の演習は何かあるな……若い連中にも気を抜かないように準備させる必要がありそうだ」

 古参故に危機に対する反応は早いようだった。

「ああ、その通りだ宜しく頼むぞ」

 そう言って二人に声をかける者がいた。その何処か聞き覚えのある張りのある声を聞き驚いて振り返った二人の視線の先に――

「か、閣下!」

 ダスティン・ガザフ辺境伯の姿があったのだった。

◻ ◼ ◻

 領軍の軍事演習での派遣が決定した情報は、直ちにギルドにも通達された。

「私は今からミリアの元に向かいます。ティムあなたは急いでこの事をマリアに伝えて頂戴。軍の編成は時間がかかるでしょうから到着は明日になるかもしれないけど……持ちこたえられないようなら、即座に撤退するようにと伝えて頂戴」

 ギルド長のレイラの言葉を緊張した面持ちで聞いていたティムは凄い勢いでギルドを出ていった。

「さて私もギルド長として動かないと……大規模クランの一つでも交渉すべきかもしれないけど、秘密厳守の案件となるとね……信用出来そうなクランは遠征中だし」

 レイラが緊急時の対応力の弱さを嘆きながらギルドを出て、ミリアの元に向かおうとしたときだった。

「レイラ嬢ちゃんじゃねえか! 久しぶりだな!」

 そこには、ウサギ狩りの三人組のゼダ達の姿があった。

「あら、私を嬢ちゃんなんて呼ぶなんて珍しい人がいると思ったら……引退したあなた方がギルドに来るなんて珍しいこと」

 長年、ウサギ狩りとして貢献していた三人とギルド長のレイラは知り合いだった。

「あ、なあに、孤児院の子供達がなんかややこしい事に巻き込まれているんじゃないかと猪鹿亭のラナちゃんに聞いたもんでな」

 三人の中でもリーダー格のゼダが代表するように答えた。
 
「ラナさん、相変わらずの地獄耳ね……お元気なようね何よりだわ。確かにあの子達には依頼頼んだけど……そうね、そうだわ! あなた方にもお願いがあるのよ……装備品はこちらで準備するから手を貸して頂戴」

 レイラはそう言うと三人の返事も待たずに再度、呆れたような表情でついてくる三人を引き連れてギルドに戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...