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155:親征2
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「おい聞いたか? 閣下が親征されるという話」中年の領兵が同僚にそう声をかけた。
領邸の近くにある練兵用の広場には既に領営工房や領邸の倉庫からの武器防具の運び出しで大変な騒ぎになっている。
「ああ、俺も聞いた時は驚いたよ。何せ一線を退かれてから十年弱になるが望まれても定期的な遠征にも参加しようとされなかった閣下が、何故急に軍事演習をするなどと言い出されたのやら」
近年の遠征ではリザール・ガザフ執政官が指揮を取る場合が多くなり、古参の騎士達の中にはダスティン辺境伯に習って家督を息子に譲って引退する者が相次ぎガザフの領軍は近年随分と若返りが進んでいた。
だがそれ故に熟練者が不足し領軍が脆くなったと指摘する者も多い。最近では前回遠征の失敗は領軍の技量不足を理由に挙げる者もいるくらいだった。
そんな中でも地位の低い領兵の中には当時を知る古参兵も僅かばかりか残っていて、この二人もそういう者達だった。
「お前、この親征、只の軍事演習なんかだと思うか?」急に声をひそめるように言い出した。
「何か情報があるのか? 閣下が意味もなく演習をおっ始めるような方とは思わないがな。最初は正直なところあの英雄も多少……耄碌……」
同僚の兵士も同様にこの突然の召集に疑念を抱いていたようだった。そして人に聞かれたら不敬罪に問われかねないような事を口走りそうになった。それくらい平和に慣れた兵士達にとって突然の出来事だったのだ。
「おい! 滅多なことを言うんじゃない。実はな、エルフィーデ女王国のエルフ達が上官に召集を受け、休暇を返上してかなり慌てた様子でダンジョンに進発していったらしい」
少数とは言えエルフ達の行動はガザフ者達の注目を集めやすいようだった。
「なるほど……これは今回の演習は何かあるな……若い連中にも気を抜かないように準備させる必要がありそうだ」
古参故に危機に対する反応は早いようだった。
「ああ、その通りだ宜しく頼むぞ」
そう言って二人に声をかける者がいた。その何処か聞き覚えのある張りのある声を聞き驚いて振り返った二人の視線の先に――
「か、閣下!」
ダスティン・ガザフ辺境伯の姿があったのだった。
◻ ◼ ◻
領軍の軍事演習での派遣が決定した情報は、直ちにギルドにも通達された。
「私は今からミリアの元に向かいます。ティムあなたは急いでこの事をマリアに伝えて頂戴。軍の編成は時間がかかるでしょうから到着は明日になるかもしれないけど……持ちこたえられないようなら、即座に撤退するようにと伝えて頂戴」
ギルド長のレイラの言葉を緊張した面持ちで聞いていたティムは凄い勢いでギルドを出ていった。
「さて私もギルド長として動かないと……大規模クランの一つでも交渉すべきかもしれないけど、秘密厳守の案件となるとね……信用出来そうなクランは遠征中だし」
レイラが緊急時の対応力の弱さを嘆きながらギルドを出て、ミリアの元に向かおうとしたときだった。
「レイラ嬢ちゃんじゃねえか! 久しぶりだな!」
そこには、ウサギ狩りの三人組のゼダ達の姿があった。
「あら、私を嬢ちゃんなんて呼ぶなんて珍しい人がいると思ったら……引退したあなた方がギルドに来るなんて珍しいこと」
長年、ウサギ狩りとして貢献していた三人とギルド長のレイラは知り合いだった。
「あ、なあに、孤児院の子供達がなんかややこしい事に巻き込まれているんじゃないかと猪鹿亭のラナちゃんに聞いたもんでな」
三人の中でもリーダー格のゼダが代表するように答えた。
「ラナさん、相変わらずの地獄耳ね……お元気なようね何よりだわ。確かにあの子達には依頼頼んだけど……そうね、そうだわ! あなた方にもお願いがあるのよ……装備品はこちらで準備するから手を貸して頂戴」
レイラはそう言うと三人の返事も待たずに再度、呆れたような表情でついてくる三人を引き連れてギルドに戻ったのだった。
領邸の近くにある練兵用の広場には既に領営工房や領邸の倉庫からの武器防具の運び出しで大変な騒ぎになっている。
「ああ、俺も聞いた時は驚いたよ。何せ一線を退かれてから十年弱になるが望まれても定期的な遠征にも参加しようとされなかった閣下が、何故急に軍事演習をするなどと言い出されたのやら」
近年の遠征ではリザール・ガザフ執政官が指揮を取る場合が多くなり、古参の騎士達の中にはダスティン辺境伯に習って家督を息子に譲って引退する者が相次ぎガザフの領軍は近年随分と若返りが進んでいた。
だがそれ故に熟練者が不足し領軍が脆くなったと指摘する者も多い。最近では前回遠征の失敗は領軍の技量不足を理由に挙げる者もいるくらいだった。
そんな中でも地位の低い領兵の中には当時を知る古参兵も僅かばかりか残っていて、この二人もそういう者達だった。
「お前、この親征、只の軍事演習なんかだと思うか?」急に声をひそめるように言い出した。
「何か情報があるのか? 閣下が意味もなく演習をおっ始めるような方とは思わないがな。最初は正直なところあの英雄も多少……耄碌……」
同僚の兵士も同様にこの突然の召集に疑念を抱いていたようだった。そして人に聞かれたら不敬罪に問われかねないような事を口走りそうになった。それくらい平和に慣れた兵士達にとって突然の出来事だったのだ。
「おい! 滅多なことを言うんじゃない。実はな、エルフィーデ女王国のエルフ達が上官に召集を受け、休暇を返上してかなり慌てた様子でダンジョンに進発していったらしい」
少数とは言えエルフ達の行動はガザフ者達の注目を集めやすいようだった。
「なるほど……これは今回の演習は何かあるな……若い連中にも気を抜かないように準備させる必要がありそうだ」
古参故に危機に対する反応は早いようだった。
「ああ、その通りだ宜しく頼むぞ」
そう言って二人に声をかける者がいた。その何処か聞き覚えのある張りのある声を聞き驚いて振り返った二人の視線の先に――
「か、閣下!」
ダスティン・ガザフ辺境伯の姿があったのだった。
◻ ◼ ◻
領軍の軍事演習での派遣が決定した情報は、直ちにギルドにも通達された。
「私は今からミリアの元に向かいます。ティムあなたは急いでこの事をマリアに伝えて頂戴。軍の編成は時間がかかるでしょうから到着は明日になるかもしれないけど……持ちこたえられないようなら、即座に撤退するようにと伝えて頂戴」
ギルド長のレイラの言葉を緊張した面持ちで聞いていたティムは凄い勢いでギルドを出ていった。
「さて私もギルド長として動かないと……大規模クランの一つでも交渉すべきかもしれないけど、秘密厳守の案件となるとね……信用出来そうなクランは遠征中だし」
レイラが緊急時の対応力の弱さを嘆きながらギルドを出て、ミリアの元に向かおうとしたときだった。
「レイラ嬢ちゃんじゃねえか! 久しぶりだな!」
そこには、ウサギ狩りの三人組のゼダ達の姿があった。
「あら、私を嬢ちゃんなんて呼ぶなんて珍しい人がいると思ったら……引退したあなた方がギルドに来るなんて珍しいこと」
長年、ウサギ狩りとして貢献していた三人とギルド長のレイラは知り合いだった。
「あ、なあに、孤児院の子供達がなんかややこしい事に巻き込まれているんじゃないかと猪鹿亭のラナちゃんに聞いたもんでな」
三人の中でもリーダー格のゼダが代表するように答えた。
「ラナさん、相変わらずの地獄耳ね……お元気なようね何よりだわ。確かにあの子達には依頼頼んだけど……そうね、そうだわ! あなた方にもお願いがあるのよ……装備品はこちらで準備するから手を貸して頂戴」
レイラはそう言うと三人の返事も待たずに再度、呆れたような表情でついてくる三人を引き連れてギルドに戻ったのだった。
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