147 / 213
147:進行4
しおりを挟む
地上に降り立ったマリアは接近してくるゴブリンの膨大な群れを一瞥した。既にゴブリンの大群はもう少しでキャロ達が準備している魔法弓の射程に入りそうな距離まで迫っていた。
「手加減の必要は無さそうですが……出来るだけ広範囲に広がるようにしたいですね」
静かにそう呟くとポーチから一本の黒い長杖を取り出した。それはティムとリーゼが使っている短杖の魔木の部分を長くし装填式に改良したシンプルな長杖だった。
「サリナから貰った試作品の杖ですが……いきなり実戦で使う事になるとは思いませんでしたね。劣化黒魔鉄製の廉価品ですから威力は正直なところ期待出来ませんが、負担軽減くらいにはなってくれるでしょうか」
マリアはそう呟くと、その長杖の先をゴブリン達が進行してくる方角に向け、瞑想でもするが如く目を閉じた。
ギルドの制服の上に重ね着した、これもキャロ達が着ているコートのロング仕様の物だったが、裾の部分が風も無いのに浮き上がり波打つように動いた。
「凄い量の魔素がマリアに集中していってるわね、いくらマリアが上級探索者クラスだとしても、あんな魔法の使い方は一日に何度も出来ないでしょうね」
土壁の上からマリアの様子を眺めていたシルフィーがマリアの周囲に渦巻いている魔素を見ながらそう評した。
「マリアさん大丈夫かな……それにこの防壁も……」リーゼがまた不安そうにそう呟いた。
三人は射程に入った先行しているゴブリンを魔法弓で次々と打ち倒していった。
マリアの渡した魔石の効果と発生したばかりで、まだ強化されていない個体が多かったのか、魔法の矢を受けたゴブリンは一撃で次々と倒されたのだが――
「倒れたゴブリンを平気で踏み越えてやって来るわね……ゴブリンにはある程度の知能はあるので怯んで進行が止まるかと期待したけど、どうやら狂騒状態みたいね」
シルフィーは動じる事なく魔素を集中させているマリアを見ながら冷静に分析していたのだが、内心では下に降りてマリアの援護をすべきか迷っていたのだった。
直ぐに動こうとしなかったのは、マリアの周囲で膨大な魔力の渦巻いている場所に接近するのはシルフィーにとっても危険な行為だったからだ。
「この壁は大丈夫! 私達の魔法にもびくともしなかったよね」
ルナが自分も不安そうだったが、リーゼを励ます為に気丈にそう言った。それは自分を励ます為の言葉のようでもあった。
「そ、そうだったわよね! 私も試したんだったわ! 凄く硬いのよこの壁は」
リーゼもルナの言葉で初めてニースが土壁を作って見せた時、その強度を魔法で散々試した事を思い出したのだろう、少し元気を取り戻したようだった。
それでも不安感が完全に拭えなかったのは、接近してくる数千のゴブリンを前にしての恐怖心が勝ったからだろう。
その子供達の不安感を打ち消すような強い響きの声が、ゴブリンの進行する足音が響く戦場のようなこの場所に静かに響いた。
「【氷雪】」
自身の二つ名の由来となった魔法をマリアが唱えた瞬間――
三層で狼を足止めしようと放った物とは比べ物にならない規模の白い吹雪が、迫りくるゴブリンの群れを絡め取った。
その白い吹雪が過ぎ去った後には大量の氷の像と化して動かなくなったゴブリンの姿が林立していたのだった。
「手加減の必要は無さそうですが……出来るだけ広範囲に広がるようにしたいですね」
静かにそう呟くとポーチから一本の黒い長杖を取り出した。それはティムとリーゼが使っている短杖の魔木の部分を長くし装填式に改良したシンプルな長杖だった。
「サリナから貰った試作品の杖ですが……いきなり実戦で使う事になるとは思いませんでしたね。劣化黒魔鉄製の廉価品ですから威力は正直なところ期待出来ませんが、負担軽減くらいにはなってくれるでしょうか」
マリアはそう呟くと、その長杖の先をゴブリン達が進行してくる方角に向け、瞑想でもするが如く目を閉じた。
ギルドの制服の上に重ね着した、これもキャロ達が着ているコートのロング仕様の物だったが、裾の部分が風も無いのに浮き上がり波打つように動いた。
「凄い量の魔素がマリアに集中していってるわね、いくらマリアが上級探索者クラスだとしても、あんな魔法の使い方は一日に何度も出来ないでしょうね」
土壁の上からマリアの様子を眺めていたシルフィーがマリアの周囲に渦巻いている魔素を見ながらそう評した。
「マリアさん大丈夫かな……それにこの防壁も……」リーゼがまた不安そうにそう呟いた。
三人は射程に入った先行しているゴブリンを魔法弓で次々と打ち倒していった。
マリアの渡した魔石の効果と発生したばかりで、まだ強化されていない個体が多かったのか、魔法の矢を受けたゴブリンは一撃で次々と倒されたのだが――
「倒れたゴブリンを平気で踏み越えてやって来るわね……ゴブリンにはある程度の知能はあるので怯んで進行が止まるかと期待したけど、どうやら狂騒状態みたいね」
シルフィーは動じる事なく魔素を集中させているマリアを見ながら冷静に分析していたのだが、内心では下に降りてマリアの援護をすべきか迷っていたのだった。
直ぐに動こうとしなかったのは、マリアの周囲で膨大な魔力の渦巻いている場所に接近するのはシルフィーにとっても危険な行為だったからだ。
「この壁は大丈夫! 私達の魔法にもびくともしなかったよね」
ルナが自分も不安そうだったが、リーゼを励ます為に気丈にそう言った。それは自分を励ます為の言葉のようでもあった。
「そ、そうだったわよね! 私も試したんだったわ! 凄く硬いのよこの壁は」
リーゼもルナの言葉で初めてニースが土壁を作って見せた時、その強度を魔法で散々試した事を思い出したのだろう、少し元気を取り戻したようだった。
それでも不安感が完全に拭えなかったのは、接近してくる数千のゴブリンを前にしての恐怖心が勝ったからだろう。
その子供達の不安感を打ち消すような強い響きの声が、ゴブリンの進行する足音が響く戦場のようなこの場所に静かに響いた。
「【氷雪】」
自身の二つ名の由来となった魔法をマリアが唱えた瞬間――
三層で狼を足止めしようと放った物とは比べ物にならない規模の白い吹雪が、迫りくるゴブリンの群れを絡め取った。
その白い吹雪が過ぎ去った後には大量の氷の像と化して動かなくなったゴブリンの姿が林立していたのだった。
0
お気に入りに追加
311
あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる