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 地上に降り立ったマリアは接近してくるゴブリンの膨大な群れを一瞥した。既にゴブリンの大群はもう少しでキャロ達が準備している魔法弓の射程に入りそうな距離まで迫っていた。

「手加減の必要は無さそうですが……出来るだけ広範囲に広がるようにしたいですね」

 静かにそう呟くとポーチから一本の黒い長杖を取り出した。それはティムとリーゼが使っている短杖の魔木の部分を長くし装填式に改良したシンプルな長杖だった。

「サリナから貰った試作品の杖ですが……いきなり実戦で使う事になるとは思いませんでしたね。劣化黒魔鉄製の廉価品ですから威力は正直なところ期待出来ませんが、負担軽減くらいにはなってくれるでしょうか」

 マリアはそう呟くと、その長杖の先をゴブリン達が進行してくる方角に向け、瞑想でもするが如く目を閉じた。

 ギルドの制服の上に重ね着した、これもキャロ達が着ているコートのロング仕様の物だったが、裾の部分が風も無いのに浮き上がり波打つように動いた。

「凄い量の魔素がマリアに集中していってるわね、いくらマリアが上級探索者クラスだとしても、あんな魔法の使い方は一日に何度も出来ないでしょうね」

 土壁の上からマリアの様子を眺めていたシルフィーがマリアの周囲に渦巻いている魔素を見ながらそう評した。

「マリアさん大丈夫かな……それにこの防壁も……」リーゼがまた不安そうにそう呟いた。

 三人は射程に入った先行しているゴブリンを魔法弓で次々と打ち倒していった。

 マリアの渡した魔石の効果と発生したばかりで、まだ強化されていない個体が多かったのか、魔法の矢を受けたゴブリンは一撃で次々と倒されたのだが――

「倒れたゴブリンを平気で踏み越えてやって来るわね……ゴブリンにはある程度の知能はあるので怯んで進行が止まるかと期待したけど、どうやら狂騒状態みたいね」

 シルフィーは動じる事なく魔素を集中させているマリアを見ながら冷静に分析していたのだが、内心では下に降りてマリアの援護をすべきか迷っていたのだった。

 直ぐに動こうとしなかったのは、マリアの周囲で膨大な魔力の渦巻いている場所に接近するのはシルフィーにとっても危険な行為だったからだ。

「この壁は大丈夫! 私達の魔法にもびくともしなかったよね」

 ルナが自分も不安そうだったが、リーゼを励ます為に気丈にそう言った。それは自分を励ます為の言葉のようでもあった。

「そ、そうだったわよね! 私も試したんだったわ! 凄く硬いのよこの壁は」

 リーゼもルナの言葉で初めてニースが土壁を作って見せた時、その強度を魔法で散々試した事を思い出したのだろう、少し元気を取り戻したようだった。

 それでも不安感が完全に拭えなかったのは、接近してくる数千のゴブリンを前にしての恐怖心が勝ったからだろう。

 その子供達の不安感を打ち消すような強い響きの声が、ゴブリンの進行する足音が響く戦場のようなこの場所に静かに響いた。

「【氷雪】」

 自身の二つ名の由来となった魔法をマリアが唱えた瞬間――

 三層で狼を足止めしようと放った物とは比べ物にならない規模の白い吹雪が、迫りくるゴブリンの群れを絡め取った。

 その白い吹雪が過ぎ去った後には大量の氷の像と化して動かなくなったゴブリンの姿が林立していたのだった。
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