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「マリアさん! あれゴブリンの群れじゃないかと!」キャロの声に続いてルナからも声があがった。

「どうやら、こっちに向かっているみたいね」キャロ頭の上で寛いでいたシルフィーがどこか他人事のようにそう言った。

 防壁の隙間の対応について話していたマリアとリーゼは慌てて上にいる二人の元に駆けつけキャロが指さす方角を眺めた。

「溢れが確認されている拠点とは別の場所のようですね。方角から考えると大規模拠点とは別の場所のようです」

 冷静に分析するマリアには余裕がありそうだった。

 だが――

「どうしましょう……まだ距離はあるみたいだけど、ここから見えるだけでもかなりの数みたいですよ? 逃げたほうが良いんじゃないですか?」

 一緒に登ってきたリーゼが、不安そうにマリアを見上げながらそう尋ねた。

 一つ羽の探索者として戦いの経験があるリーゼとは言え、つい最近まで素人同然だった者が、溢れた魔物の群れを見て恐ろしくなるのは当然だったろう。

 ルナやキャロも何も言わないが、その緊張した様子からリーゼと同じ意見に違いなかった。

「三人は戻ってこの事をギルドに報告して下さい」

 マリアは連絡役として依頼を受けた三人に無理をさせるつもりは無かったので、不安そうな三人を地上に戻らせる判断をした。

「マリアさんはどうされるおつもりなんですか?」

 三人の中では一番冷静なルナがマリアがどうするつもりなのか、おおよその予測はついている様子で確認してきた。

「私はここに残って追加の部隊か、リサ殿の調査隊が戻られるまでの間の時間稼ぎをするつもりです。この防壁は十一層のゴブリン程度なら簡単には破られない程度の強度が有りそうですが……完全に塞がれていません」

 そう言うとさっきまでリーゼと確認していた防壁の隙間部分を指差した。このまま放置すればゴブリン達が隙間を抜けてしまうだろう。

「遺跡の拠点にいる職人さん達に門扉を付けて貰ったらどうかしら? 良い案じゃない?」リーゼが嬉しそうに言った。

「確かに良い案ですが少々時間が足りないでしょう……見てください、思ったよりも進行が早いようです」

 話している間にも目に見えて接近して来ているのが分かるくらいには進行速度は早いようだった。

「さあ、皆は急いで戻って下さい。この防壁は最前線として重要です。仮に破られたとしても対策の為の時間稼ぎは出来るでしょうし、領軍を動かすには時間が必要です。このまま進行を許せば、あっという間に地上に到達してしまうかもしれません」

 無表情で冷静そうに見えるマリアだったが、その声からは緊迫した雰囲気が十分に皆にも伝わった。

「なら、私も残ります! 地上に行かれたら大変な事になるもの」突然ルナが強い口調で言い出した。それに呼応するように「キャロも残るよ!」キャロも負けじとそう答えた。

「確かにあんなのが地上にそのまま行ったら大変な事になりそう……マリアさん! 連絡はさっきティムが伝える事だけでも十分そうだし……今はここを皆で守りましょう!」

 不安そうにしている三人が急にやる気を見せたのでマリアは慌ててしまった。

「あの皆さん危険なのでこの場は……」改めて説得しようとしたマリアだったが――

「この子達は貴女と同じくらいガザフの街が心配なのよ、だから好きにさせてあげてよ。それに追加の部隊は少し耐えればきっと来るでしょ」シルフィーが皆の気持ちを代弁した。

「分かりました。ですが戦闘になった後、私が撤退の指示を出した場合は必ず従って下さい。それからこれを」

 三人が頷いたのを確認して、魔石を取り出して渡した。

「十五層近辺にいる魔物の魔石です。皆さんの使う装填式の魔法弓で使ってください」

 三人は防壁上で弓の準備を始めた。下に降りたマリアは土壁の隙間から外に出て迎え撃つ準備に入ったのだった。
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