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 大規模拠点の調査に向かった僕達と調査隊の面々は全速力で十一層の荒野を疾走している。拠点は他にも二ヶ所ほど存在するのだが、調査の時間が惜しいので今は已む無く無視する事となった。

「目的地が見えて来ました。しかしこれは……」先行していた団員の報告の声が途切れた。少しすると事情はすぐに明らかになった。

「これは既に手遅れと見たほうが良いかもしれませんね、リサ殿」

 ラルフさんが側にいたリサさんにそう尋ねた。それは僕の目にも明らかだった。遠方に見える拠点らしき場所からは、既にゴブリンが溢れ出していたのだ。

「ええ、かなりの規模の溢れが十一層で発生する事は確定のようですね……ですが発生原因の特定は行っておきたいところです。もしゴブリンキングであれば領軍の派兵を要請する必要がありますからね」

 リサさんが遠方のゴブリンを見据えながらそう告げた。

「それはつまりゴブリンジェネラルが相手であれば、査察団だけで対処すると言うことですか?」

 やや呆れ気味にラルフさんは問いかけた。

「ミリア様と地上にいるメンバーが揃えば数千程度が相手ならやり方によっては対処可能でしょうね。まあガザフも放置はしないでしょうから……当然ギルドが最初に動くでしょう」

 領軍は分からないが、ギルドが上位探索者の集団を派遣するぐらいは行うだろうと僕も思った。

「セルフィーナお願い出来るかしら? 地上に上位種がいれば教えて欲しいんだが」リサさんが空を見上げて上位精霊の名を呼んだ。

『あら、貴女は私に子供のお使いのような事をお願いするのですね』

 上空に現れたセルフィーナが不満げな口調だが素直に拠点に向けて飛んで行くと、それに追従するように他の団員の加護精霊達がセルフィーナを守るように拠点に向かって飛んで行った。

 実のところ僕は自分がどう動くべきか迷っていた。今の状況を早く地上に伝える必要があるし、伝えに行く連絡役はこのメンバーでは一番弱い自分が適任ではないかと思ったのだ。

(リサさんはどう考えているんだろう? 僕から進言すべきだろうか? でも僕が考える程度の事をリサさんが気が付いてないとは思えないし……)

「ユーリさん、もし戦う事になればユーリさんの土魔法は防御面で役に立つでしょうね。私は斧を振り回す事しか出来ませんから、後ろを守っていただけるのは本当に有難いですよ」

 ラルフさんがそう言ったのは、僕が考えている事を見透かしているからだろう。

 だがラルフさんの言った事は慰めではなく事実でもあった。昨日の戦いでニースが【ストーンウォール】を使ってラルフさんが敵に包囲されないように上手く立ち回り助けていたからだ。

「リサさん、ニースにルピナスと一緒に報告に戻って貰おうかと思うんですがどうでしょう? 飛ぶ速度も速いですし」

 ニースが正確に状況を伝えられるのか多少不安はあったが、移動速度だけを考えればこの組み合わせが最適だと思われたので提案してみた。
 
「なるほど、良いかもしれん。セルフィーナが戻ったら誰かの精霊に戻って報告して貰おうかと考えていたのだが……防御面で考えれば土魔法使いが一人抜けるのは痛いが、相手は数が多いが所詮はゴブリンだ攻撃重視と考えればその選択もありだな。早速頼めるかな」

 リサの許可を貰ったので、上空でルピナスと飛び回っていたニースに連絡役というお使いを頼んだのだった。

「おつかい~」嬉しそうにルピナスに乗ったニースが、上空にかけ上がるように昇って飛んで行った。成長したルピナスは飛行速度も上がり地形にも左右されないので最短距離で向かってくれるだろう。

 ニースを送り出した後、調査隊は徐々に膨れ上がるように増えてくるゴブリンを遠巻きにしながら魔法弓の遠隔攻撃で削り始めた。僕とディーネも弓でその攻撃に参加した。

 その殲滅速度は凄まじく、近くで倒された仲間を見て騒ぎだしたゴブリンも次々と射倒されていく。

 特に密集した敵に効果的だったのが【流星雨】という技で一斉射で数十本近くの魔法の矢が降り注ぐ様は壮観と言って良かった。

「一度の斉射で魔石一個を消費するので使いどころは難しい技だがな。だがこの様な状況では役に立つ」リサさんが魔石を装填しながらそう説明してくれた。

 数百匹のゴブリンを倒した僕達と調査隊の面々は、周囲からゴブリンが姿を消したのを見計らって消費した魔石を回収するべく倒したゴブリンから魔石を回収していた。

「精霊達が帰ってきたようだ」

 リサさんが見上げた先にはセルフィーナを中心にして戻って来る精霊達の集団が見えた。

『急ぎ撤退を、この様な場所で戦えるような数ではありません。王が降臨したようです』

 上位精霊たるセルフィーナの独特の威圧感のある声にも緊張が含まれていて、それが余計に事態の深刻さを印象付ける結果となった。

「総員撤退!」リサさんの声が響き、僕達は即座にその場を後にした。

 暫く走ると、後方から地響きのような音がした――

 慌てて後ろを振り向くとそこには今までに見たことも無いような数のゴブリンの群れが辺り一面に溢れかえる光景だった。

 
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